コミュニケーションを阻害する忖度がなくなるアート鑑賞
新たなアイデア、互いの信頼、チームの一体感を生み出すにはコミュニケーションの活性化が必要であることは言うまでもないですよね。
しかし、これが業務の中ではなかなかうまくいきません。上司の顔色をうかがうことなどは日常茶飯事で、勇気を出して進言したとしても、上からピシャと言われてしまっては、後悔先に立たずです。
こうしたことが積み重なると、“自分で考えない社員”、“自分から提案をしない社員”、“逐一報告し判断を求める社員”を量産してしまうことになります。そして上司は「なかなか下からの提案がない」と嘆き、結局のところ上司の仕事は一向に楽になりません。
1、Googleも進める心理的安全性とは?
昨今、「心理的安全性」が職場で求められています。「心理的安全性とは、他者からの反応に怯えたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出せる環境のこと」をいいますが、これが企業の中で担保されることによって、生産性の向上、優秀な退職リスクの軽減、早期の問題発見と課題解決が図られるといいます。
加えて、社員のメンタルケアの観点でも重要です。即座に体調の変化をキャッチし、迅速な対応ができる。社員の健康管理プログラムを運営する産業保健領域においても重要なキーワードになっています。
さまざまな場面で、こうした心理的安全性の必要性を唱える機会も増えてきたようですが、現場レベルでは「なかなか言葉で説明しても伝わらない」といいます。
2、アートを使ったプログラムの広がり
昨今、アートを使ったビジネスマン向けのプログラムが増えています。デザイン思考などと同様に新しい思考法としてアートに着目したり、先の見えない事業環境における閉塞感から本質的な企業の社会的役割に立ち返ろうとする流れ、加えて企業人としての立ち振る舞いに対するアンチテーゼなど、ビジネスにアートを活かそうとする動きが広がっています。
美術館、広告代理店、ベンチャーなど様々なプレーヤーから(当社もその一つですが)、様々なプログラムが提供されていますが、大きくは下記のように大別されるのではないでしょうか?
(1)社員の能力開発(発想力、論理的思考力等)
(2)社員の内省を図る
(3)オフィス環境の魅力向上
(4)会社の理念の可視化
(5)多様性の理解の醸成
個別の社員に対するプログラム、組織開発に資するものなど様々なレイヤーや目的がありますが、いずれにせよ全てのプログラムに共通しているのは、”何を言ってもいい”という参加者間における心理的安全性です。
3、ビジネスで避けられてきたアートという抽象情報
右脳で感じた抽象情報を言語化するというのは、通常のビジネスにはなかなかないシーンなんですよ。そもそも組織が一体感をもって動くためには情報に対する理解の齟齬があってはならないわけで、アートのような言語化しにくい抽象情報は避けられてきたわけです。出典元:パラサポweb
ビジネスの現場では、当然ながらある指示系統のもの一体的に動かなければなりません。原則、判断がブレない情報を基本に事業推進されています。それぞれの社員がバラバラに動いては、会社が成り立たないのは明白であり、結果、可能な限りエビデンスがとられているなど客観情報が付与された確実で間違いのない情報しか許されません。
それが、ビジネスマンに何をもたらしているかというと、エビデンス過剰依存症(私の造語です)で、エビデンスがあるものしか信用できない思考に支配されてしまうのです。こうなると、もやは数多の新規事業のアイデアは、グーグル検索によって得られる既知の情報の集積に過ぎなくなっていきます。
往々にして大企業においては、新規事業というものは初年度の売上目標も億単位で求められることも少なくありません。結果的に、既知の市場として数字が読めるものを集積する思考に陥り、ますますレッドオーシャンは自明となります。
5、アートによって上下関係がなくなる。
ある企業で対話型アート鑑賞を開催した時です。マネージャーと部下が一緒に参加したのだが、若手の方が発想が豊かで、自由に発言をしていたことに対し、「○○君、すごいね〜 そこまで僕は発想がでてこないよ」とマネージャーが感嘆したことがありました。
通常の会議であれば、マネージャーの発言を待ってから、もしくはマネージャーの顔色を窺いながら発言するというようなことがあるように思います。
終了後、そのマネージャーは「普段からもっとあんな風に発言してくれるといいんですが... でも、そういう環境になっていなかっただけなのかもしれませんね」ともらしていました。アートによって会社における上下関係が希薄になり、誰でも自由に発言できる心理的安全な場が担保されたからこそ、こうした自由な発言が促されたのだと思います。
アートは、チーム内のコミュニケーションにおける忖度を柔らかく消し去ってくれます。それは、アートを鑑賞している時だけかもしれません。ただ、部下の新しい一面を、アート鑑賞によって垣間見れたことは、マネージャーにとって決して小さなことではないと思います。
記事:フクフクプラス アートファシリテーター 磯村歩
対話ができるチームをつくる テレワーク時代の組織づくり チームビルディング 向け「アートでおしゃべり」特設サイト