#4 やってみよう!作品鑑賞ワーク(後編)
前回ご鑑賞いただいたこちらの作品。
作品選びはとても悩んだ挙句、
私が最後に見に行ったものにしました。
島根県 足立美術館にある
『生の額絵』という作品です。
(写真出典:足立美術館公式サイト)
本作は足立美術館の創立者である足立全康さんが
「庭園もまた一幅の絵画である」として、
美術館の敷地に日本庭園と
それを館内から鑑賞できる窓をセットで作った作品です。
それでは ●インプット力 ●消化力 ●アウトプット力
の三つの観点から作品を見ていきましょう。
●インプット力
今回、あえて1分以上と時間設定をしました。
普段、風景を見るのにかける時間は
10秒もないのではないでしょうか。
時間をとって集中して見てみることで、
季節はいつか?時間帯はどれくらいか?
天候は?どこから見ているのか?など
パッと見では見過ごしてしまいそうな
気づきを得られた方も
いらっしゃることと思います。
きっとこれは紅葉がはっきりする晩秋で、
光の色や影の長さからみて夕暮れ前、
16時ごろでしょうか。
手前の大きな木の影と風景を切り取る枠の存在で
室内から外の庭園を見る構図と、距離感が掴めます。
黒い木と岩、白い砂、赤い紅葉、緑の松や芝
空と山の借景と、稜線を意識した丘の配置と勾配
色彩・構成ともに心地よく、
見事に手入れが行き届いています。
きっと春は光が淡く朗らかに、夏は青々と、
冬は雪と静寂で水墨画のように変化するのでしょう。
雨の日は?風の日は?と想像するのも楽しいです。
実物を前にしないと五感をフルに使った鑑賞は
実感しづらいかもですが、想像力で感じてみましょう。
鳥のさえずりや葉の揺れ、ざわめき。
冬の到来を予感させる
冷たい空気が肌を刺すかもしれません。
パソコンやスマホの前でも
目を凝らして思わず前のめりになったり、
または全体を俯瞰しようと身体を反らしたり。
身体ごと鑑賞・没入できた人は、
まるで実際に庭にいるかのように
安らいで過ごす体験ができたかもしれません。
この作品は非常にシンプルな方法
「額(枠組み)を設定する」ことで
風景を絵画に変え、
絵は静止したものという
固定概念を変えてしまいました。
また、本作は言い出しっぺの足立さんや
たくさんの庭師さんが作っていますが、
「作者」は設定されていません。
これを「作品」と捉えるかも
鑑賞者に委ねられています。
単純な「作者ー作品ー鑑賞者」という
関係性の再考も促されます。
できたら実際に行って体験してみてほしいのですが、
これを鑑賞するとしばらくの間
あらゆる窓から見える
あらゆる景色が全部絵画に見えてくる、
「どこでも『生の額絵』現象」が起こります。
視点や認知がここまで影響をうけ、変化するのか!
と驚かれると思います。
【 復習POINT 】
➀ 物事を「意識して見る」目が鍛えられる
② 一瞬を丁寧に味わう五感が身につく
③ 視点や視座の移動・転換が、容易で柔軟になる
●消化力
さて、皆さんにお願いしていた鑑賞メモには、
どんなことが書かれていますか?
●「紅葉した日本庭園」「〇〇の絵に似ている」
「この白砂は〇〇を表している」等
状況説明的な客観情報
●「好き」「気持ちいい」「なぜか懐かしい」
「私だったらタイトルは何にしようかな」等
自己対話的な主観情報
前者が情報のインプット
後者が情報の消化ということができ、
前者の数≦後者の数で、
それぞれ10個程度の記載があれば
かなり鑑賞センスが訓練されていると思います。
おそらく、優秀なビジネスパーソンである方ほど
普段は客観的情報を扱う訓練がされているので
読者の皆様の鑑賞メモも、前者に偏り気味かもしれません。
私がお薦めするアート鑑賞法は
作品を理解しようとすることよりも、
自分の好き嫌いや食指が動くかをまず感じることです。
× 前提知識や論拠がないのに易々と感想や意見を言ってはいけない。
× 作者の意図や背景、メッセージを理解しないといけない。
これらはアート鑑賞における代表的な誤解です。
もちろん、作品を知ること、わかることも大切で、
否定しているのではありません。
ただ、必須ではないよとお伝えしておきたい。
旅行みたいなもので、その土地の歴史や産業、
民族や言語を知っていると なお面白いですが、
知らないからと言って楽しめないわけでも
感想を言っちゃいけないわけでもありません。
「わかる」よりも「好き」を感じられるようになることが
アート鑑賞の大きな第一歩だと思います。
前者の数≦後者の数になると自然と、
誰かの借り物の言葉ではない
自分の言葉で語ることができるようになります。
(もしよかったら聞かせてください)
冒頭でちらっとご紹介した
足立美術館の創立者 足立全康さんは
大阪を拠点に繊維と不動産で財を築いた実業家です。
「美術館の目的は、
金儲け、社会への還元、道楽の
3つすべてに該当する」
という言葉を残していることから、
ただの金持ちの高尚な趣味や慈善事業ではない
現実的な目線をもっていることが伺えます。
一方、彼は美術品を買うかどうか判断する際、
その作品を預かって数日部屋に置いておき、
嫌になったり飽きてしまったら買わず、
「何日でも一緒にいたい」と思えるものだけを買ったそうです。
その価値がわかる・わからないではなく、
ずっと好きでいられるかどうか。
価格や画商の評価、市場価値という合理的価値も考慮しますが、
自分の肌感という非合理的価値を、最終の判断基準に据えました。
辛い失恋や死別を経験してきた彼は
美術品をよく、好きな女性に例えています。
(恋ほど非合理なものはないですもんね、ほんと)
QUEENのフレディ・マーキュリーも
「音楽は女性と似ている。
理解しようとしたら楽しめない」
と言ってました。
印象派絵画の巨匠モネ先輩は
「人は私の作品を議論し、理解しようとする。
まるでその必要があるかのように。
ただ愛するだけでよいのに。」
音楽家のプーランク大先生も
「私の音楽を分析するな、愛せよ!」
と仰ってます。
一画家の私としても、
「あなたの作品よくわかる!」と言われるよりも
「あなたの作品よくわかんないけど好き!」と
言ってもらった方が100倍嬉しいです。
ちなみに、私の好きな作品の基準は
二日酔いで見ても気持ちいいと思えるかです。
【 復習POINT 】
➀ 非合理なものの消化力が身につく
② モノローグ・ナラティブの習慣化
●アウトプット力
足立全康さんはまだ実業家として大成する前、
ふと立ち寄った大阪・心斎橋の画廊で
横山大観の絵に一目惚れし
「大観の絵を買えるくらい立派になってやる!」と
奮起し、事業を大成功させたと言われています。
「わしの人生は、絵と女と庭や。しかし、
これらはいずれも小学生時代の体験が発端である」
という本人の言葉からも、
幼少期のプライマリーな衝動が
彼の原動力になっていたことが伺い知れます。
後年、日本画を中心とした美術品収集に尽力し、
収集した美術品と美の感動を広く共有しようと
芸術家でも評論家でも画商でも何でもない彼が
御年71歳で挑戦したのが
本作の舞台である足立美術館です。
当初、わざわざ島根県まで日本画を見に来る人は少なく、
来館者数は伸び悩み、経営不振に陥ったそう。
そこで作ったのが庭園でした。
(経営不振のなかこれだけの投資するって凄い決断!)
91歳で亡くなるまで、庭造りには特に心血を注ぎ、
今やミシュランガイドの旅行スポット三ツ星や
17年連続で米誌の日本庭園ランキング1位を獲得する
世界に名だたる美術館になっています。
このおじいちゃんの発想力、行動力は
老いてなお凄まじく、
家の壁をくりぬいて
『生の掛け軸』を作っちゃったり、
美術館の開館8周年記念には
庭園内にあるものを作っています。
さて、なんでしょーう!
・
・
・
答えは、滝です。
銅像とか記念館ならあるけど、滝って!!!
バブルかよと思いましたが、1978年のことでした。
足立さん79歳くらいでしょうか。
なんて大胆なおじいちゃん。
さぞかし傍若無人なのでしょうね!
と思いきや、自分の孫ほどの年齢のスタッフからも
意見や感想を聞き出し、積極的に採用。
美術館や作品収集の方針まで変えちゃう器の広さだったそう。
ところで、皆さんはこの作品をひとりで鑑賞されましたか?
アート鑑賞でおもしろいのは、人と対話することです。
自分とは全然違う視点で観察していたり、
同じことを感じていても原体験や言葉が違ったり。
外出自粛期間が開けましたら一度、
誰かと一緒に展覧会やコンサートに行ってみてください。
足立美術館の広大な庭園は
外出できない今でもライブ配信で楽しめます。
季節や時間で移り変わる「生」の表情や
例の滝も見えるかも?ご興味あるかたは是非!
https://www.youtube.com/watch?v=085EIGjFUDY
【 復習POINT 】
➀ 発想力や行動力の再獲得
② 未知に挑戦する勇気
●まとめ
さて、二回にわたってご紹介した
「アート鑑賞の効果」
ご実感いただけたでしょうか。
これまでアートの価値や効果は
暗黙の了解、暗黙知になっていて、
名言や言語化は避けられてきました。
今回、あくまで私の体験ベースですが
できる限り、可能な分だけ言語化してみました。
なので、まだまだ説明不可能な価値があり、
そこがアートの面白いところだと思っています。
今後、皆さんから色んな発見やお声をもらって
その境界を皆さんと一緒にアップデートしていけたら最高です。
まだまだ!《質問募集》
このnoteは読者の皆様と共創していく
アート入門書です。
・美術館デートの楽しみ方教えて!
・ピカソとかアンディ・ウォーホルとかって何がすごいの?
・ざっくり美術史略史求む!
・その他、こんな内容も書いてほしい
などなど、皆さんの素朴でファンキーな質問を大募集しております。
また、プロ美術家の皆様からのつっこみ、補足、アドバイスもめちゃくちゃ嬉しいです。
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