見出し画像

24arts|福島・須賀川 特撮ツアー(後編) 須賀川特撮アーカイブセンター

福島・須賀川 特撮ツアーの後編は、昨年開館した須賀川特撮アーカイブセンター。 田園風景のなか車を走らせると、岩瀬市民サービスセンターや須賀川市岩瀬図書館と同じ敷地内に見えてきます。見学無料で、スマホ・携帯でなら撮影可能なので、SNSでバンバン拡散してほしいぞ! とのことです。

詳しいレポートはメディア芸術カレントコンテンツの坂口将史さんの記事をご覧ください。

特撮アーカイブの試み

このミュージアムは、貴重な特撮資料の収集、保存、修復及び調査研究を行う施設として設立されました。特撮のミニチュアやスーツ、資料などは、撮影時に破壊されたり、撮影終了後は破棄や散逸されてしまったりと、残されにくいものだそうです。そこで、日本の特撮文化を後世に伝えるために、展覧会や特撮に関する調査が行われ、アーカイブセンターの設立に至りました。調査研究や関係者へのヒアリング、資料の復元、3Dスキャンなど、9年間かけてアーカイブ事業が展開されました。日本特撮の調査報告書は、上記記事の脚注リンクから見ることができます。

画像15

1階ホールには、宇宙や夕焼け空を背景に、航空機や戦闘機、飛行船などが吊るされています。このホリゾント(背景画)も円谷英二ミュージアム同様、島倉二千六(にちむ)さんによるもので、模型は撮影時と同じ吊るされ方だそう。
写真左側には図書室もあります。

画像3

画像5

奥には『シン・ウルトラマン』(公開日調整中)を記念した像があり、おそらく映画公開までは展示されると思われます。『シン・ゴジラ』(2016)も名作でしたし、こちらも楽しみですね!
外の箱は特撮用大水槽です。水に絵の具を流し込み、広がっていく様子を撮影。その映像を上下逆さにすると、わきあがる雲や噴火・爆発の煙にみえるというものです。CGが使われる前は、このようにして動く雲や煙を表現していたのですね。

1階の奥は収蔵庫になっていて、ガラス越しに資料をみることができます。

画像6

画像7

資料は、実際に撮影に使われたオリジナル、オリジナルを修復または復元したもの、再制作したものなど、さまざまです。

画像8

戦艦、電信柱、鉄塔、東京タワー、城やプラネタリウムに、奥には浅草にかつてあった凌雲閣でしょうか。実在のものから架空のものまで、ありとあらゆる建造物を造ってきたスタッフたちの研究と努力、高い技術力がうかがえます。

画像9

一番奥にいたのは、特撮短編『巨神兵東京に現わる』の巨神兵。2012年に「館長庵野秀明 特撮博物館」展(東京都現代美術館)で初公開された映像作品で、私も観ましたが、浅草で売っているようなキャンキャン鳴く犬のおもちゃが出てきた時は「それでいいのか?」と困惑しました。
目が光っていて、今にも動き出しそうで、正直怖かったです。

日本の特撮 黄昏の踊り場

画像16

正面入口にて、トイレの場所を教えてくれる樋口真嗣氏。(1階と2階の順路を示してくれています)

画像17

画像17

階段の踊り場には、ステンドグラスか影絵のような装飾と、東宝撮影所の様子を描いたタペストリーが掛けられています。日本特撮に情熱を燃やした先人たちのヴィジョンをみるようで、胸が熱くなりました。

画像11

階段を登り終えると、フィルムカメラや照明器具があります。このリールのついたカメラ、映画を撮っているって感じがしますね。
現在はデジタルで簡単に編集・削除できますし、コンパクトな記録媒体に大容量のデータを保存できます。フィルムでは、ものすごく嵩張るでしょうし、扱いもデリケートだったと想像できます。

特撮の力を目の当たりにする

画像12

画像13

2階展示室には、田舎の風景を再現したミニチュアセットがあります。寄りで撮影すると建物や車は本物にみえますし、汚れも細かい。セミの声や車のエンジン音、人の話し声などをのせると、レンズの向こうの時間が動き出しそうです。

画像14

ベストポジションが2箇所あり、ミニチュアとホリゾントの間に立って撮影すると巨人気分が味わえます。

画像15

大きめの建物ミニチュアは、『いだてん』(2019)で使用されたものだそう。
2階には視聴覚室もあり、『巨神兵東京に現わる』の本編とメイキングが上映されています。

円谷英二ミュージアムもアーカイブセンターも、基本はミニチュアの実物やジオラマの展示、映像、パネルで構成されています。しかし、CG以前の特撮技術を伝えるには、実際にその仕組みをみせるのが一番なのではないかと感じました。
科学館のように、ボタンを押すと爆発するとか(危険)、煙が出るとか、船が沈むとか……。
「本当に絵の具が雲になるんだ」という、つくりものが本物にみえる、意識の切り替わる瞬間が、特撮の力を真に伝えるのではないでしょうか。

そうした特撮の現場を体験できる機会として、展覧会やアーカイブセンターでは、特撮雲をつくるワークショップなどを開催しています。
撮影を目の当たりにした人のなかから、特撮に強い興味を持ってくれる人が出てくるかもしれない。その時の感動が忘れられずに、特撮技術の継承や保存に携わる技術者や研究者、アーキビストが出てくるかもしれない。
これからの特撮の動向に注目していきたいです。

シルエットの正体は……

画像16

駐車場の外壁に描かれている怪獣は、その名もシルエット怪獣『スカキング』。命名は公募により、1,956通のなかから選ばれました。
2本の角で困っている人を探して助け、須賀川名産のきゅうりを丸ごと1本、口から発射するらしいです。

ぜひ映像で、特撮で観たいですね。




いいなと思ったら応援しよう!

浅野靖菜|アートライター
よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポートでミュージアムに行きまくります!