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Chips|2024年を振り返って

みなさんは2024年、いかがお過ごしでしたか?
私は過去の時間軸はあまり覚えていないタイプなので、半年前のことも「あれ?去年じゃなかったっけ?」となることもしばしば。

今年の初めに目標を掲げていましたが、茶道文化検定4級の取得とアンティーク・ジュエリーのお迎えは達成できたので、まずまずではないでしょうか?
風邪で食欲が落ちて2kg痩せたし! イェーイ!(やつれ)

せっかくなので、2024年のベスト3を挙げてみます!


今年の展覧会ベスト3

田中一村展 奄美の光 魂の絵画(東京都美術館)

田中一村の初期から晩年にかけての作品を通観する貴重な展覧会でした。

初期の作品をみると、水墨画は墨が強いうえに細かい描写が多く、「この人油絵のほうが向いているのでは?」と思ってしまいます。実際、遠目で油絵かと思った作品が紙本着色(紙に墨や顔料で描いたもの)で驚くこともありました。
一方で、鶏頭のような個性的な姿をした植物や鳥は素晴らしく、ピンキリと言いますか、作品の出来に波があると感じました。

ですが、奄美時代になると一気に良くなる。シュールレアリスムを思わせるモチーフの組み合わせ、写実とデフォルメを使い分けた描写は奄美の自然に神性を与え、ルソーのような深い色彩は湿気を含んだ重たい空気感を感じさせます。
奄美に辿り着かなければ、彼は凡庸な画家で終わっていたかもしれません。

一村の作品は個人像も多く、ほかには彼が晩年を過ごした奄美にある田中一村記念美術館、栃木市立美術館や千葉市美術館に所蔵があります。通常は、常設展に奄美時代の作品が1〜2点展示されるだけ。つまり、一番良い時の作品をピンポイントでしかみることができません。
初期の作品から通してみることで、見えてくるものがあると実感しました。

日常アップデート(東京都渋谷公園通りギャラリー)

まず、この場所が好きで。かつて(石原さんが都知事だった頃)はトーキョーワンダーサイト(TWS)という名称で、それもワクワクして好きでした。現在は東京都渋谷公園通りギャラリーとして、アール・ブリュットをはじめとする多様なアートを発信しています。
ゴチャゴチャした渋谷の街中、渋谷区立勤労福祉会館の中にあるのも空間としてユニークで、疲れたときにふらっと訪れるのもオススメです。

TWS時代にすべての展示が映像作品だったことがあって、椅子に座ってぼーっと眺めて癒されていました。

普段美術館に行かない友人と訪れましたが、アート=高尚なものという気負いもなく、多様な表現を楽しめる展覧会でした。

十和田市現代美術館のまちなか常設展示

役所などがあるお堅い通りに、現代アート作品やストリートファニチャー、地元の名産である馬のアカデミックなオブジェが点在し、街の風景に溶け込んで、賑わいを生んでいました。

野外作品には愛着が湧いて、また会いたくなりました。《ヒプノティック・チェンバー》やムチムチの家(エルヴィン・ヴルム《ファット・ハウス/ファット・カー》)で脳みそを掻き乱されそうになって「ヒェ〜ッ」って逃げたい。(お化け屋敷みたいな使い方)
館内作品は写真映えしますが、正直一回行ったらいいかな。

今年の歌舞伎ベスト3

※主に歌舞伎座の昼の部

籠釣瓶花街酔醒(かごつるべ さとのえいざめ)(猿若祭二月大歌舞伎)

もう、ビジュアルが良い。冒頭の花魁道中もさることながら、刺されて倒れる七之助さんの海老反りの凛とした美しさ。勘九郎さんの徐々に変わっていく主人公の演技も見ものでした。
八ツ橋(七之助さん)が振り返って微笑むシーンはスローモーションに見え、愛想尽かしをこっそり覗く繁山栄之丞(仁左衛門さん)、ラストに豹変する次郎左衛門(勘九郎さん)と印象的なシーンも多く、映画になりそう。

翌月の伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)も似たような話(遊郭で刃傷沙汰になる)も、笑える場面とシリアスシーンが楽しめて盛りだくさんでした。

沙門空海唐の国にて鬼と宴す(秀山祭九月大歌舞伎)

夢枕 獏の小説を原作とした歌舞伎で、遣唐使として留学してきた空海が国家の危機を救うお話。シルクロードの交易をうかがわせる市場のシーンや音楽に心が躍ります。

空海役の幸四郎さんは例の如く茶目っ気たっぷりなのですが、その相棒役の橘逸勢(たちばなのはやなり、吉之丞さん)のキャラクターがいい味を出していました。
遊女に言い寄って袖にされたり、白楽天(歌昇さん)に毛嫌いされたりと、はじめこそは情けない役柄なのですが、自分は天狗になっていたと素直に認め、白楽天を「彼も楊貴妃様に会いたいだろうから」と誘うなど、実はいいヤツなんです。のび太的ないいヤツ。
空海にイタズラする春琴(児太郎さん)も笑わせてくれます。

事件の真相はグロテスクで引いちゃうのですが(京極夏彦原作の「狐花」も勘九郎さんが極悪非道で引く)、印象に残る作品でした。

平家女護島 俊寛(へいけにょごのしま しゅんかん)(錦秋十月大歌舞伎)

鬼界ヶ島に流罪となった俊寛(菊之助さん)たちのところに赦免船がやってきますが、俊寛の名前だけがなく、いろいろあって俊寛だけ取り残されてしまう。近松門左衛門による時代物の名作です。

まずビーマ様(萬太郎さん)と逸勢(吉之丞さん)が俊寛とともに流罪になった仲間役で出てくるのも個人的にポイントが高いのですが、海女千鳥役の吉太朗の恥じらいも可愛い。断崖絶壁で叫ぶラストシーンの舞台転換もダイナミックです。

何より、菊之助さんの演技に惹きつけられます。
俊寛は30代の設定らしいのですが、杖をついて歩くほどヨボヨボに憔悴しています。そんな俊寛が「なぜ自分は許されないのか」と縋りつき、自分から島に残ると言いつつも出ていく船にいつまでも呼びかける。都に残した妻が亡くなったことに悲しみ、千鳥を船に乗せるために自分は身を引きながらも、望郷の思いは捨てきれない。そんな人間の性が描かれています。

菊之助さんはどの役もドラマチックに楽しそうに演じられていて、みていると「歌舞伎をやってみたいな」と思わせてくれます。
(女性が歌舞伎を演じられる劇団もあり、寺島しのぶ級の大女優になれば歌舞伎座に立てなくもないのですが、同じ土俵には立てない)

会期末に行った展覧会などは記事にできていないので、早めに観に行くようにしたいですね。

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浅野靖菜|アートライター
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