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スペイン美術日記《ARTErio》プラド美術館

みなさん、こんにちは。スペイン留学中の大学生です。
私の美術日記ARTErioへようこそ!これは、スペイン語の美術(arte)と日記(diario)の造語です。

私は今回一泊二日でスペインの首都マドリードに行き、マドリードの三大美術館を訪れました。

今回はプラド美術館の様子についてお伝えします♪

チケットは公式サイトから予約できます。私は当日、ゴヤの門側のチケットカウンターにて購入しました。開館30分前から並び始めたので、開館と同時入館できました。他の購入方法の場合はわかりませんが、私は紙チケットが発券されました。とても素敵でした。
作品の撮影は禁止です。


所蔵作品であるフラ・アンジェリコの『受胎告知』(1425-1428頃)の手の部分

プラド美術館はとにかく広く、それに加え部屋数が多く複雑です。そして、お土産屋さんはヘロニモスの入り口の方にあり、主な展示棟に位置していないので見つけるのに苦労しました。お土産は、デザイン性が高く他の美術館では見かけないいろんな種類の商品がありました。一方で、展示作品の多さに対しポストカードの種類は少なく感じ、残念でした。

館内マップには、有名な所蔵作品とその作品がある展示室が写真付きで記されているので、入館時に日本語マップを必ずゲットしましょう。

ここからは私が特に好きだった作品を紹介します。

①フラ・アンジェリコ《受胎告知》
金箔が施されており、とにかくキラキラです。そして色は鮮やかで柔らかい印象です。一方で、天使が身に着けているドレスのドレープや翼、庭の植物の緻密な描かれ方、線やアーチが強く強調されている柱廊玄関は、場面にただならぬ気配をもたらしています。

フラ・アンジェリコ《受胎告知》1425-1428 Wikipediaより参照

そして、サイズ感がよいなぁと思いました。(笑)
作品が大きすぎると圧倒されて、すごいなぁという解像度の低すぎるビック感情に支配され、気づいたら首が疲れて次の作品にいってしまうことが多々あります。
一方で、両手を広げておさまりそうな横幅の本作品は、全ての部分に目が行き届いて、近くで見ても距離をとってみても楽しむことができました。個人的にプラド美術館の中で最も満足感の高い作品でした。

②ゴヤの黒い絵
プラド美術館には、聴力を失ったゴヤが制作したと言われている壁画「黒い絵」が所蔵されています。
中でも、私は《犬》という作品が一番好きでした。他の絵が人間の辛い心境や残酷な運命を表している中、この作品に描かれている犬はつぶらな瞳で上方を見つめています。

ゴヤ《犬》もしくは《砂に埋もれている犬》1820-1823 Wikipediaより参照


この作品は、《砂に埋もれている犬》とも呼ばれています。ですが、私は上を見る犬の無垢な表情が、ここではない場所に希望を抱いているようにも見えるし、飼い主に怒られちゃったぁ…という日常の中でふとした時に見せる何気ない表情にも見えます。表情の描写に長けているゴヤは、たとえ額の中に要素が少なくても、作品にさまざまな解釈の余地を残していると思います。そんな作品に、状況を断定する形容詞をつけるのはもったいないなと思うのです😌

③ゴヤ《レオカディア》1820-1823
この作品も、黒い絵の一つです。喪服とも捉えられる服装とその厳かな雰囲気とは対照的に、屋外で大きな岩に肘をつき寄りかかる一人の女性。どこか一点を見つめ、ぼーっとしているように見えます。美術の授業でこの作品を初めて見た時に、豊田市美術館の所蔵作品である藤田嗣治の《美しいスペイン女》に似ていると感じました。

ゴヤ《レオカディア》1820-1823 Wikipediaより参照

藤田はこの作品を、ニューヨーク滞在時に制作しました。後方に広がる平地と女性の表情や姿勢、服装から、レオナルドダヴィンチの《モナ・リザ》を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、女性の身なりや柵の存在、背景の雰囲気は、ゴヤの作品と非常に似ています。
藤田の描いた女性は、少し微笑んでいるように見え、姿勢もよく《レオカディア》が与える女性の印象とは少し異なります。藤田がこの作品を目にしたかはわかりませんが、共通点が多く興味深い作品です。
聖堂や高くそびえる塔、右後ろに見える噴水や
スペインに住んでいる私からすると、美しいスペイン女という題に反し、彼女にスペインの女性らしさを感じません。

藤田嗣治《美しいスペイン女》1949 
https://www.asahicom.jp/event/images/AS20180816000117_comm.jpg  

ベラスケスといえばラス・メニ―ナス!なのに、ガイドツアーと団体客で常に作品の前には人だかり…ですが、ラス・メニ―ナスを楽しめなくても、他の作品を通してこの作品に期待していた感動を体験することができます!ラス・メニ―ナスで注目したいことといえば、
1ベラスケス、宮廷画家としての仕事
2召使の描写
3描き方の変化
4実験的な構図
この4つが代表的なものだと思います。

1ベラスケス、宮廷画家としての仕事
ベラスケスは宮廷画家として主にフェリペ4世に仕えました。ラス・メニ―ナスに描かれている王女マルガリータは彼の娘です。宮廷画家として制作した作品の特徴は、肖像画における麗しい洋服や装飾品、豪華な舞台、凛々しい表情でしょうか。本作品以外にも上記のポイントを楽しめる絵画はたくさんあります!
たとえば、《皇太子バルタサール・カルロス騎馬像》という作品です。丸太のようにがっしりとした馬の胴体は、この絵が壁に展示された時に、下から見上げる鑑賞者がより迫力を感じるための工夫です。屋外を舞台に描かれているこの作品では、黄金時代のスペインの雄大な自然が感じられますね。

ベラスケス《皇太子バルタサール・カルロス騎馬像》1635 Wikipediaより参照

また、《王妃マリアナ・デ・アウストリア》は黒いドレスに赤色の頬紅と装飾品が特徴的な肖像画です。ベロアのような重厚感のあるドレスに銀の装飾が高級感を漂わせています。ラス・メニ―ナスにもみられる、この特徴的なスカートの形がこの時代のスペイン王室の典型的なドレスだといえます。

ベラスケス《王妃マリアナ・デ・アウストリア》1652-53 Wikipediaより参照

2召使の描写
作品のタイトル《ラス・メニ―ナス》は、日本語に訳すと「女官」という意味です。つまり、タイトルは中央の女王様を示しているのではなく、彼女に仕える侍女のことを指しています。この作品に描かれている右から二番目の女性は小人症なのではないかと言われています。ベラスケスは、《バリェーカスの少年》に代表されるように、度々小人を題材に作品を制作しました。ベラスケスの画家人生において、宮廷に住む人間と同様に、重要な人物であった小人の登場する絵画は、《ラス・メニ―ナス》以外でも、上記の作品や《道化セバスティアン・デ・モーラ》が存在し、全てプラド美術館で見ることができます。服装からは彼らが宮廷で担っていた役職が読み取れます。また、表情の描写やポージングはとてもチャーミングです。どの作品も興味深いので、お偉いさんの肖像画にばかり気をとられず、彼の描いた小人や道化師の作品も見逃さないでください!

ベラスケス《バリェーカスの少年》1635-45 Wikipediaより参照
ベラスケス《道化セバスティアン・デ・モーラ》1645 Wikipediaより参照

3描き方の変化
《王妃マリアナ・デ・アウストリア》のドレスのように、細かい装飾を正確に描くことに長けていたベラスケスは、《ラス・メニ―ナス》を最高潮に新たな技法を確立します。《王妃マリアナ・デ・アウストリア》の頭部にあるファーをよく見ると、筆致の粗さでその素材の特徴を表現していることがわかります。この作品では、その部分に独占的に使用されていますが、《ラス・メニ―ナス》においては、王女のドレスの光沢や髪質、胸元の花にもこの技法が使われています。つまり、遠くから見ると緻密な装飾の描写にみえるのですが、近くで見ると筆致が荒く、それは単なる絵具の集合体なのです。これは、印象派(の技法)の先駆けとも言われています。《皇太子バルタサール・カルロス騎馬像》の風になびくスカーフや金色の装飾にもこの技法が使用されています。

4実験的な構図
この絵画は、二次元に三つの空間が広がっています。まず、王女と侍女たちという第一フェーズがあります。次に、王女の後ろにある鏡に反射している国王夫妻の存在が確認できます。鑑賞者と同じように、画面の外に立っていると解釈させる構図です。そして、王女の後ろに見える、部屋の外へ階段を上っている男性の姿が見えます。これにより、作品の中に見事な奥行きが発生しています。残念ながら、この実験的な構図の作品は他では見られません。このダイナミクスこそが《ラス・メニ―ナス》の魅力です。

このように、ベラスケスと言えば《ラス・メニ―ナス》ですが、他の作品もそれぞれの魅力を持っています!
プラド美術館の素晴らしいベラスケスのコレクションを堪能してください!✨

次回はソフィア王妃芸術センターとティッセン美術館です!是非お楽しみに💛





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