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注射用高濃度カリウム製剤の安全使用に関して考える

本記事は、主に医療従事者向けに記載をしております。また、本記事の内容は、私の所属している施設などとは一切関係がないことを併せてご承知の上、記事をご覧ください。

はじめに

薬剤師は危険と隣り合わせの業務を行っていることはいうまでもない。
このうち、医療安全に関わる薬剤師の役割というのは非常に重要と考えられる。

医薬品のうち、ハイリスク薬については、日本病院薬剤師会が公表している、ハイリスク薬に関する業務ガイドライン[1]では下記のとおり定義されている

機関の規模・機能によってさまざまな考え方があるので、現在の制度下では各医療機関が「医薬品の安全使用のための業務手順書(以下、業務手順書)」に定めるものである。

つまり、明確な定義はなく、医療従事者にとって使い方を誤ると患者に被害をもたらす薬の総称という扱いである[1]。

このハイリスク薬に定義されている薬剤は、薬剤管理指導料の中で規程をされているが、この中で、注射剤のカリウム製剤が指定されている。

注射用カリウム製剤として、日常診療では、塩化カリウム、リン酸カリウムなどが使用されることが多い。これらの薬剤は1mEq/mLのカリウムを含む製剤である (製品としては, 10mEq/10mLや20mEq/20mLなどの製剤が汎用されているかと思われる)。
これらの薬剤は高濃度カリウム製剤 (注射剤)などと表現される。

今回、注射用高濃度カリウム製剤 (以下、高濃度カリウム製剤とする)の安全使用について考えていく。

高濃度カリウム製剤を取り巻く問題

高濃度カリウム製剤はなぜハイリスク薬に指定されているのだろうか?

答えは簡単である。使用を誤ると、患者を致死的な状況にする可能性があるからである。

例えば、認定病院患者安全推進協議会のHPに、2004年に広報された内容が掲示されているが、医療従事者が誤って、塩化カリウム製剤を原液で投与し、死亡した事例が掲載されている[2]。

こうした死亡事例が起こったことから、認定病院患者安全推進協議会のHPに緊急提言として、アンプル型高濃度カリウム製剤の病棟・外来への在庫を禁止すること、エラープルーフを考慮した製剤(プレフィルドシリンジ)の採用が示された[3]。

最近では、2017年度に日本看護協会が日本病院薬剤師会と協働で「カリウム製剤投与間違い撲滅キャンペーン」を打ち出し、取り組まれた[4]。このキャンペーンのサイトでは、カリウム製剤の投与間違いの発生状況についてもまとめられており、2004年から2014年までの期間に、医療事故情報収集等事業に報告のあったカリウム製剤の急速静注に関連した事例は合計7件であり、看護師、医師が当事者として関わっていることも報告されています [5]。

このような状況から、関係団体より高濃度カリウム製剤の使用に関しての様々な注意喚起に関する文書が出ています (下記図参照)。

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しかし、近年も高濃度カリウム製剤の誤投与により、患者の命を医療従事者が奪ってしまうという状況が繰り返されています。

高濃度カリウム製剤の安全使用はどうすればよいのか?

答えは簡単である。添付文書に記載をされている事項を守ることで安全に使用できる。

高濃度カリウム製剤の添付文書には、基本的に、

●本剤は電解質の補正用製剤であるため,必ず希釈して使用すること(カリウムイオン濃度として40mEq/L以下に必ず希釈し,十分に混和した後に投与すること)
●ゆっくり静脈内に投与し,投与速度はカリウムイオンとして20mEq/hrを超えないこと.
●カリウムイオンとしての投与量は1日100mEqを超えないこと.

以上の文言が添付文書に記載をされています[6, 7] (アスパラカリウム注の投与速度については、溶解後の1分間あたりの投与速度の注意が記載をされており、表現の相違はあるが、基本的には上記の内容です)
(下記図は, 添付文書等を参考に作者の考え等を記載したまとめになります)

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このため、上記を守り投与を行い、さらに、患者の状態に応じて、カリウム製剤の投与後の電解質バランスやバイタルサインの確認を行うなどの必要な対応を行えば、高濃度カリウム製剤を安全に使用ができるはずです。

添付文書を逸脱する方法での安全使用はどのようにすれば良いか?

しかし、前述した安全な使用のうち、濃度については守れない場合も臨床ではよく出くわします。
例えば、水分制限をされている患者 (心不全等)の患者で、利尿剤の使用などにより低カリウム血症が発現している場合などが考えられます。

では、上記のようなシチュエーションも踏まえて、安全な使用をどうしていけば良いのか?ということを少し考えていきたいと思います。

過去に、高濃度カリウム製剤のイレギュラーな使用方法に関してPubmedで調べてみました。近年では、日本から報告されているものを1本ですが発見しました。
大阪市大病院からの報告でした[8]。

https://bmjopenquality.bmj.com/content/8/2/e000666

この報告では, 下記のスライドにまとめたように、介入を2段階で行い、ICUとそれ以外の部門、薬剤師の業務構築を行なっている。

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上記の報告のうち、考察では、KCLの原液使用から、一般病棟では多くが100 mEq/L以下となって安全に使用できたと記載されている。根拠として、海外ではプレフィルド製剤として、100mEq/Lの希釈製剤が販売されているとのこと。下記は、FDAに掲載されている、USで販売されている高濃度KCL製剤の注意文書の一部です (図の下のリンクに文書が掲載されています)

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https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2017/019904s014lbl.pdf

また、他人のブログですが、KCLの色々な濃度の安全性に関しての報告をまとめているものもあります

さらに、UpToDate [9]にも下記のとおり記載されています

In any 1000 mL-sized container of appropriate non-dextrose fluid, we suggest a maximum of 60 mEq of potassium.
In a small-volume mini-bag of 100 to 200 mL of water that is to be infused into a peripheral vein, we suggest 10 mEq of potassium.
In a small-volume mini-bag of 100 mL of water that is to be infused into a large central vein, we suggest a maximum of 40 mEq of potassium.

つまり, ブドウ糖液以外での溶解について, 
・60mEq/Lが一般的な使用方法
・末梢ルートからの使用時は50-100mEq/Lの投与が可能
・大動脈 (中心静脈と思われる)からの投与であれば, 400 mEq/L以下の投与が可能
と記載をされています。このため、海外では一般的に使用をされています。

しかし、日本では前述のとおり、かなり厳しい制限下で使用をする必要がありますので、原則は添付文書通り、水分制限等で濃度を逸脱する場合は、バイタルの確認を確実に行えたり、投与ルートを確認する、輸液ポンプ/シリンジポンプを使用する、安全な環境で使用をするなどの安全対策を十分に行い、患者さんに不利益が無いように使用をすることが望ましいと考えます。

最後に

今回、私自身が医療安全に関わっているので、こういうテーマを書いてみました。
患者さんに誤った使用による不利益が無いようすることは一番の目的ですが、医療従事者も知識がなく、誤った使用をすることで、関わった皆が不幸になってしまいます。このため、KCLを使う可能性のある全ての医療従事者が知識としては知っておく必要があるのではないかと考えます。

ただし、今回私の記載した内容は、個人的主観もたくさん入っていますので、あくまでも参考程度としていただければ幸いです(私の所属している施設などとは一切関係がないことを再度ここに記載しておきますので悪しからず)。


[1] 日本病院薬剤師会, ハイリスク薬に関する業務ガイドライン(Ver.2.1). (http://www.jshp.or.jp/cont/13/0327-1.pdf. 2020年10月27日アクセス)
[2] 認定病院患者安全推進協議会HP, 高濃度カリウム製剤および、10%キシロカインの急速静注による死亡事故について (https://www.psp-jq.jcqhc.or.jp/post/proposal/132, 2020年10月27日アクセス)
[3] 認定病院患者安全推進協議会HP, アンプル型高濃度カリウム製剤の病棟および外来在庫の廃止10%キシロカインの病棟および外来在庫の廃止 (改訂版)(https://www.psp-jq.jcqhc.or.jp/post/proposal/726, 2020年10月27日アクセス)
[4] 日本看護協会 HP, 「カリウム製剤投与間違い撲滅キャンペーン」(2017年度事業)(https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/anzen/kalium/index.html, 2020年10月27日アクセス)
[5] 日本看護協会 HP, カリウム製剤の投与間違いの発生状況 (https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/anzen/kalium/occurrence/index.html, 2020年10月27日アクセス)
[6] KCL注10mEqキット「テルモ」, KCL注20mEqキット「テルモ」添付文書 (2008年8月改訂, 第3版)
[7] アスパラカリウム注10mEq 添付文書 (2017年10月改訂 第12版)
[8] Improving the safety of high-concentration potassium chloride 
Nakatani K, Nakagami-Yamaguchi E, Shinoda Y, Tomita S, Nakatani T. BMJ Open Qual. 2019 Jun 12;8(2):e000666. doi: 10.1136/bmjoq-2019-000666. PMID: 31259289; PMCID: PMC6567953.
[9] UpToDate. Clinical manifestations and treatment of hypokalemia in adults. (Recommended approach のセクションに記載)




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40代病院薬剤師
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