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【アラスカ旅日記】 ダウンタウンのモフモフ屋
冬季、日照時間が短いフェアバンクスで、太陽がようやく顔を出すのは11時。
朝焼けから淡い水色の空に変わりまもなく夕暮れとなり、3時半ともなるとすっかり陽が落ちてしまう。
滞在が冬至から数日しか経っていない12月末だったこともあり、一年の中でも最も日照時間が短い時期でもあった。
太陽が姿を現すだけで肉体だけでなく心にもじんわり温かさが伝わってくるものだ。厳しい寒さの中ではどれほど太陽の光が愛おしいことか。
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季節があるのは地球が23.4度地軸が傾いていることによるものだが、北極圏で白夜と極夜になるのもこの傾きによるものだ。
ざっくりいうと白夜はずっと昼、極夜はずっと夜。
北緯66.6°以北(90−23.4)がそれに該当する地域となる。
フェアバンクスは北緯64.5°、ギリギリ北極圏手前であるが、日照時間の短さでいえばほぼ極夜ということなのだろう。
こんなふうに地球の傾きを実感する経験ができることは、なんともワクワクする。
できることなら白夜も体験してみたいものだ。
*
明るい時間にフェアバンクス近郊をドライブし、市街地に戻った午後4時にはすでにあたりは暗くなっていた。
郊外はまわったが、まだダウンタウンと呼ばれるエリアをみていなかったので、車をとめ散策することにした。ダウンタウンとは街の中心部だがフェアバンクスの小さなダウンタウンはカフェや土産店などが店並ぶ一画があるくらいで、こじんまりとしている。
暖房のきいた車内から一歩外に出ると、顔の毛穴が一瞬でキュッと閉まるのを感じた。
すっかり油断したがフェアバンクスの中心部は、地形的に盆地であるため最も冷え込みが厳しいらしい。
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その一角で目に見止まったのは毛皮店。
いかにも極北アラスカらしい毛皮製品と、可愛いというべきか怖いというべきか迷うような人形たちが並んでいた。
店主は日本人と見分けがつかない顔立ちのおじさんで、ここは昭和の寂れた商店かと錯覚するような雰囲気。
店内には縫製前の毛皮に始まり、帽子、マフラー、イヤーカフといった小物、ゴージャスなコートなどがずらりと取り揃えられ、数十年前から変わらないのではないかと思うような哀愁と独特な空気が漂っていた。
足元のコンテナの中には、制作時にハギレとなったであろう様々な種類のモフモフが無造作に積まれていた。何らかの偶蹄類の蹄部分が妙に生々しい。
かつてイヌイットなど極北の人々はカリブーやアザラシの毛を衣服にしており、それらは彼ら自身の生活と密着するものだった。しかしロシア領の頃は毛皮交易はアラスカの主要産業となり、乱獲により毛皮産業は減退していった歴史があるという。
実際この店に並ぶ毛皮のほとんどは海外からの輸入品だそうだ。
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店の奥には立派なミシンがあり、ここの製品は店主自ら仕立てているとのこと。
毛皮のコートといえばゴージャスの代名詞でもあるが、実際世の中の毛皮のコートは一体どのような価格で販売されているのだろうか。
ちなみにチラッと見えた値札には5000ドルと書かれていた。
これが安いのか妥当なのか皆目見当がつかない。
結局何も買わずに店を出たけれど、博物館に行くのとも動物園に行くのとも野生の動物に出会うのとも違う、小さな異空間で希少なアラスカ体験となったのだった。