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【こはる日和にとける】#1 蝶々の手

美しい爪の指先にほんのりと赤みが差し、細く、厚みのない華奢な手にあこがれた。

大人になれば自分もきっとそんな手になれると思っていたのに、悲しいかな。いつまでたってもわたしの手はずんぐりと短く、分厚く、指先までしっかりと丸いままだった。

蝶々のようにひらひらと手を舞わせて喋り、本を捲る手はその本に馴染んで美しい。
さらにピアノの鍵盤の上を弾む優雅な手は、時にしっとりと美味しそうな料理をも生み出す。

ついぞ、どれもこれも叶わなかった。

叶わなかった反動か。大人になり、手に対するあこがれはますます強くなっている。
もはやそれは見た目だけの話ではない。

土を均す手。
野菜を洗う手。
針仕事をする手。
線を引く手。
絵を塗る手。
紙を折る手。
髪を梳かす手。

これらなんてことはない手の動きに釘付けになる瞬間がある。
と言っても決して誰でもよいというわけでもない。
ただ、気づくと見惚れ、時間を忘れて見入ってしまう手を持つ人がいる。

その手は指先まで想いがゆき届き、やさしく丁寧に対象となるものを扱い、話しかけるように親しげに動く。
心に皮膚のような感覚があるとするならば、見惚れている間、その手にわたしの心も同じように擦られ、丁寧に凝りをほぐされているような感覚に陥るのだ。

そしてそのじんわりとした心地よさの中で「まだ止めないで」と切実に願いそして「あ、この人好きだぁ」と、訳もなく思ってしまう。

単なる手の動きに見入っただけで安心感と心地よさ、さらには好意まで抱いてしまうとは。

これはもはやあこがれというより、変わった癖(へき)としか言いようがない。

けれどなんの因果か、わたしはいま、手を使う仕事に辿りついている。

植物のオイルと精油を用いて直接体に触れるトリートメント業である。

「あなたの手はとても心地よい」

そんな言葉をいただくと、ちらりと我が癖が頭をよぎり、わたしの心に蝶がひらと舞う。


text by haru  photo by sakura


はじめまして
haruといいます

ここまで読んで下さりありがとうございます

『こはる日和にとける』という
エッセイを書いています

寒い日に暖かな日を浴びて
ほおっと心が溶けてほどけるような…
そんな文章を書きたいと思い
表題を
『こはる日和にとける』と
名付けました

#1 「蝶々の手」は、
自己紹介も兼ねたエッセイとなっています

自宅で開業した
アロマのトリートメントサロンで
お客様をお迎えする傍ら

やっぱり
文を書くことがすきで
書店に並ぶ本を出すことを目標に
パソコンに向かう日々を送っています

写真はすべてsakuraさん
毎回文章に合わせて
季節の植物や風景を探して
撮影下さっています

愛情溢れるやさしい写真も
ぜひ愉しんで頂けたらうれしいです

今後は毎週日曜日に
1話ずつ投稿していきます

主に
九州の炭鉱町で育った
わたしの幼い頃の話です

どこか懐かしい
昭和のありふれた情景が
読んで下さった誰かの記憶と
ふれあうことができたらしあわせです

また
スキ、コメント、フォローなど
初心者ゆえぎこちないかと思いますが
気軽に交流できたらうれしいです

どうぞ宜しくお願いします

haru


追伸

ネット販売限定の本は
今年6月にパブファンセルフ出版から
出すことができました

よければ
チェックしてみてください♪




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