平屋の研究室と秋のコガネザクラ#18(終)

ぴーんぽーん。

平屋の研究室のインターホンが鳴る。

「ピザだ!」

僕はドアを開ける。

愛想のいい明るい配達員さんが、ピザを届けてくれた。

祐樹が代金を支払う。

ハラペーニョソースを8本もらった。

僕ら三人は、テーブルの上のピザにハラペーニョをかけて食べ始める。

「弘大の開発部で、透明な土と人工植物が発明されたんですよ」

涼時さんが言う。

「へえ、透明な土。菌根菌のネットワーク肉眼で見れるのかな?」

「そのようですよ」

涼時さんは言う。

僕は噛み終えたピザを飲み込んでいった。

「人工植物ってどんな?」

「キノコの50個の単語をシグナルとして、根っこから菌根菌伝いにほかの植物の根に伝えるものだそうです。受信もできるそうですよ」

涼時さんが答えてくれる。

「科学は日進月歩だなあ…」

祐樹が恐れ入ったとでも言わんばかりの声色で言う。

「ねえ!涼時さん!その透明な土と人工植物!パラダイムシフトで使いたいんだけどな!」

僕はいたずらっぽくお願いした。

「ええ。そういう話になると思って分けてもらえるよう頼んでおきました。タダというわけにはいかないそうなんですが…室長、いかがでしょう?」

涼時さんが祐樹の方を見ていった。

「即買いだ。桜の盆栽を透明な土で育てながら、人口植物2本からタイミングに差分を設けながらシグナルを送ったり受信したりする実験を実施する!」

祐樹は宣言した。

「おお!なんかいよいよ菌ネットワーク研究室っぽくなってきた!!」

僕は歓喜の声を上げる。

「僕、今電話します」

涼時さんは席を外した。

それからややあって、パラダイムシフトに桜の盆栽と透明な土、人工植物二本が揃った。

「その、涼時さん。どのシグナルを送るかは、僕と祐樹で担当していい?」

「ええ、妖精と仲のいい二人なら、きっと有益なコミュニケーションを桜の盆栽と取り合ってくれるでしょう。僕はシステムの担当をします」

涼時さんは罪悪感なんて持たないでください、といった表情で笑顔を見せてくれた。

「ありがとう!涼時さん!」

僕と祐樹は、50個の単語の中から選んだシグナルが桜の盆栽の根と人口植物の根をつなぐ菌根菌の菌糸を光って通過していくのを見て、ただ歓喜していた。

実験開始から7週間が経った。

「なあ?こっちの菌根菌の菌糸、太くなってないか?」

祐樹は僕に気づいたことを伝えてくれた。

「ほんとだ、昨日の写真より太くなってる」

「写真、撮った」

祐樹がデジカメでさっそく写真に太くなった菌糸を収めた。

「やはり、桜の盆栽の根からの受信に対して即レスしてる側の人口植物とつながってる菌糸の方ですね、太くなってるのは」

涼時さんが状況を確認するように言った。

「ふむ。さらなる変化がみられる可能性を観測するために、ここは現状維持といかないか?今までどおりのやり方で、時間が経過するのを俺は待ちたい」

祐樹が提案する。

「賛成!」

「僕も賛成です」

僕と涼時さんは祐樹に賛成の意を示した。

「じゃあ、今日もシグナルの送信は15時までとしようか」

祐樹が言う。

「そうだね」

「そうしましょう」

僕と涼時さんの同意。

やがて、その日の15時を迎え、その日のシグナルの送信は終了した。

翌日のことだった。

8:30に僕らはパラダイムシフトのドアを開け、中に入った時、異変に気付く僕ら。

「あれ?桜咲いてない?」

僕はその異変に気づいて言葉に出した。

「ほんとだ!桜のお花が咲いてるよ!祐樹!」

聞きなれない子供の声が聞こえた。

「え?」

僕は祐樹と涼時さんにも聞こえただろうかと思って、声を上げる。

「今の声、誰の声ですか?」

涼時さんが言う。

「あれ?クッキーの声が聞こえた?」

祐樹が少し驚いて見せた。

「え!今の声!クッキーの声なの!?」

僕は何が起きてるのかわからず混乱する。

「蜜季!僕の声もみんなに聞こえるの!?」

エンブレムの声が肉声のようにはっきり聞こえた。

「ど、どうなってるの!?」

僕らはエンブレムとクッキーの声を試しに録音してみたけど、機械には何の反応も残らない。

「つまり、空気を振動して鼓膜に届いてる声ではない、ということになるな」

祐樹が現状を分析する。

「ねえ!みんな!桜のお花のこと忘れてるよ!」

クッキーの声が僕らを桜の盆栽に咲いた花の方に誘導する。

「咲いてるよね、しかも、金色だ…」

僕らは金色の桜に見とれた。

「声のことは僕らの記憶にしか残りません。証拠が残せない以上そういうことになります」

涼時さんは言った。

「なら、せめて金色の桜が咲いたことは論文に書きたいよな」

祐樹が言う。

「論文は僕に任せてください」

涼時さんが言う。

「祐樹!文化衛星に乗っていい!?」

クッキーの声が祐樹に許可を求めた。

「え!?文化衛星って!いつか祐樹が話してくれた技術構想!?妖精の世界にはもう実在するの!?」

僕は驚いて声を上げた。

「祐樹!バカ!絶対バカ!なんで妖精の世界にしか無いもの!!知覚しちゃうかなあ!!その辺!ほんとに!!祐樹は天才!!」

クッキーが無邪気に言う。

「乗るとどうなるの!?祐樹!?」

僕は祐樹に尋ねた。

「俺の幻覚の中では、ワイプの中に、乗った人格の顔が映った」

祐樹が言ったのを聞いて、エンブレムとクッキーは、「はっ」と息をのみ、「エンブレム!操縦席に行こう!」、「うん!今すぐ行こう!クッキー」という声を発してその声がしばらく聞こえなくなった。

涼時さんがパソコンでカタカタやってる。

「涼時さん、さっきから何を書いてるの?」

僕は涼時さんに聞く。

「速記がてら、ここでの会話の忘備録をつけてました」

涼時さんが真剣な顔でカタカタを続ける。

「有能だ。涼時くん。君を採用してよかった」

祐樹は安心したように言った。

その時だった。

僕たちの前に突然ワイプの中の子供の顔が見えた。

「わ!エンブレムの顔だ!」

「ほう、エンブレムはそんな顔してたか」

祐樹が初めて見るエンブレムの顔をみて感心の声を上げた。

「僕もいるよ!蜜季!」

クッキーが言う。

「うん!カードにえがかれてたまんまの顔!!」

「うん!」

クッキーは嬉しそうに頷く。

「すごい!これが文化衛星なの!?祐樹!どうしてこんな技術を構想できたの!」

僕は興奮を禁じ得ない。

「ある時から、人間の生首をガラス箱に入れて四つ重ねる、ってイメージが湧いてきてたんだ。それは、ワイプの中の顔、って文化衛星の真実の姿を歪曲して知覚したものだったわけだ」

祐樹は懐かしそうに言った。

「文化衛星は!一つのパーティに四つまで搭載できる!」

涼時さんのカタカタが聞こえる。

すごいスピードだ。

「クッキー、涼時くんに手記をお願いしたまま、つまり、涼時くんに声を届けながら、俺と蜜季でフィールドワークに出ることは可能か?」

祐樹はクッキーに尋ねる。

「うん!可能!おちゃのこさいさい!!」

クッキーが誇らしげに言う。

「わあああ!!何それ!!すっげーー楽しそう!しかもログを涼時さんが手記として残してくれるなんて!」

僕は叫んだ。

「行こう蜜季!涼時くん!涼時の手記を頼んだぞ!!」

祐樹が指示を出す。

「任せてください!」

僕らはパラダイムシフトの扉を開けてフィールドワークに出た。

物理的には、何も変わらない庭。

だけど、すべてが違って見えた。

僕と祐樹が歩くと、エンブレムとクッキーの乗った文化衛星がついてくる。

「わは!ほんとにゲームみたい!」

僕は文化衛星のエンブレムとクッキーを振り返りながら言った。

「横に来いよ、クッキー?」

「うん!」

クッキーの乗った文化衛星が祐樹の顔らへんの隣に並ぶ。

「エンブレムも!おいでよ!」

「うん!蜜季!」

僕らのパーティはパラダイムシフトの庭を散策する。

「蜜季!この子!」

エンブレムが僕を引き留める。

「このたんぽぽがどうかしたの?あ!!わかった!!あの時の安心感だ!!」

僕は名推理をした探偵のようにそのたんぽぽの名前を思い出した。

「よく覚えててくれたね!って言ってる!」

クッキーが通訳してくれる。

「涼時くんにもこの声聞こえてるんだよな?」

祐樹がクッキーに尋ねる。

「はい!聞こえてますよ!涼時の手記を書くの!すごく楽しいです!」

ノイズのかかった涼時さんの声が聞こえる。

「これなら…少し遠出してもよさそうじゃないか?蜜季?」

祐樹が僕に言う!

「是非したい!どこにいく!?」

僕は祐樹に向かって聞く。

「弘前公園一択だ!!」

言って、祐樹は走り出した。

「あ!待ってよ!!祐樹!!」

僕は祐樹を追いかけた。

「急げ蜜季!信号に振り回されるのとはわけが違うぞお!」

祐樹はそう言いながらすぐ息を切らせて歩き出した。

「もう!弘前公園までどのくらいあると思ってるの!!ずっと走っていけるわけないでしょ!!」

僕は祐樹をしかった。

『あははは!!』

エンブレムとクッキーが笑い声をあげた。

その笑顔も今は視認できる。

「スパイダーもつれてきてあげるんだったな…」

祐樹はミスをしたんじゃないかと言った声色で言った。

「スパイダーには今蛇口と排水溝の肉体があるから乗せてあげられないよ!知らなかったからできたこと!ベストな選択でここまで来た!」

クッキーが祐樹を鼓舞する。

「そうだよな。俺らはいつでもそうだった!」

祐樹の過去の冒険、どんなものだったのかな?

いつか、涼時さんにログを残してもらいながら語ってもらってもいいかもしれないと僕は思った。

「弘前公園では何が起きるかなあ!?」

僕は祐樹に尋ねた。

「もし、桜に、種族魂とでもいうようなものがあるとしたら、いつか俺らの中でだけ起きた奇跡が、一般化するかもしれない」

祐樹は真剣に語ってくれた。

「要するに、種族魂を介して僕らの研究室の中で起こった桜の突然変異が!世界中の桜に伝搬する日が来るかもしれない!ってことだよね!?」

僕は持ち前のバランス思考で祐樹の言いたいことを整理する。

「そういうことだ。蜜季は!ほんとに!おっりこっおだああああ!!」

祐樹が叫んだ。

「ゆ、祐樹!!不審者として通報されたらやばいよ!」

僕は祐樹をなだめようとした。

「祐樹は懲りないんだなあ。目の前で奇跡を起こしておいて、いつも限界を味わった後に強制入院になっちゃう」

クッキーが言った。

「やばいじゃんそれ!僕は祐樹を守りたい!クッキー!エンブレム!力を貸してほしい!!」

『合点!承知の助!!』

エンブレムとクッキーが声を合わせる。

「大丈夫だよ。今ので最後にするから」

祐樹は平静だった。

「びっくりさせないでよ!祐樹!祐樹が強制入院になってまた診断つけられたら僕悲しいよ!」

僕は本気で言った。

「うん。だよな。だから、俺だって、お前との日々を犠牲にするほど馬鹿じゃない。叫んですまなかった。歩こう」

やがて、僕らは弘前公園に到着した。

「もうすでに、研究室の桜と共鳴してる木がある可能性だってある。コガネ色の桜を咲かせてる木を見つけたら写真撮ろう」

祐樹は言った。

僕らは文化衛星に乗ったエンブレムとクッキーを交えて、おしゃべりをしながらの散策を続けた。

「図書館前のスタバに行かないか?のどかわいたよ、俺」

祐樹が言う。

僕らは満場一致でスタバに向かった。

飲み物を二つ頼んで品物を受け取った後、僕と祐樹は席に着く。

文化衛星はほかの人には知覚できないようだった。

「僕!金の桜の紋章になる!!」

エンブレムが宣言した。

「あの桜の花びらに金が含まれてたりしたら、その花びらから採取した金でエンブレムを作りたいというわけだな?エンブレム」

祐樹がエンブレムに言う。

「僕、今日のこと一生覚えておきたい!」

僕は言う。

「涼時の手記があるから大丈夫さ」

祐樹が返す。

「しかし、これだけ超常現象が起きてるのに、フィールドワークってのも、なんか違うよな?」

祐樹が同意を求めて僕に聞く。

僕は自信たっぷりに言い放つ。

『ライフワークのはじまりだね!!』

自分の声を体の耳で聞いて、僕は、目を覚ました。

「それ、いいな」

という祐樹の声がフェードで消えた。

夢?

僕は青ざめた。

どこから?

僕はスマホでラインを開く。

祐樹は、いる。

涼時さんもいる。

祐樹とのログをずーっと、最初まで遡った。

僕の送ったゆるキャラのスタンプ、祐樹の送ってくれたりんごのスタンプ。

出会った日は、夢じゃない。

僕の胸騒ぎは止まらない。

僕は鍵も閉めずにスマホだけを持って平屋の研究室に走り出した。

あっという間に平屋の庭につく。

(平屋も…!ちゃんとある…!)

僕は時刻を見た。

5時45分。

迷惑でも構わない、僕は祐樹を起こすつもりで裏口のインターホンを押そうとしたけど、裏口にはインターホンが無いんだった。

祐樹にラインで発信する。

出ない。おやすみモードにしてるに違いなかった。

僕は、こんこん、と、裏口の戸をノックする。

僕は、思いっきりドアを叩きつける音を出したら、祐樹が、僕のことを嫌いになってしまうのではないかと思って、小さな音しか立てられなかった。

(エンブレム!クッキー!スパイダー!お願い!祐樹を起こして…!!)

僕は目を閉じて妖精と精霊たちに懇願した。

「蜜季?」

中から声が聞こえた!

「祐樹!!」

僕は声を殺して叫んだ。

裏口の戸が開く。

祐樹の顔を確認するなり僕は祐樹に抱きついた。

「夢、見たんだ!あまりにも出来過ぎてて、全部、全部!祐樹と出会ってからの全部が夢だったのかと思って!すごく、すごく怖かった…!!」

「蜜季…、やっと人間になれたな」

「え?」

「お前の心の奥の鍵をどうやったら外せるのかと、ずっと俺は試行錯誤してたんだ」

「僕は、人間だよ?」

「事実上はな…」

「事実以上の何があるって言うんだよ!祐樹!」

「なんで、思いっきりノックしなかった?」

「あ…」

僕は。

自分のことがようやく、わかったのかもしれない。

僕の心の中の鍵。

祐樹がずっと、人生を賭して開けようとしてた鍵。

「僕が、今この瞬間人間になれたのなら、僕は、今まで何だったの?」

「お前は宇宙だったのさ」

祐樹が親指を入り口に向け、中に入ろう、と促してくれた。

「蜜季、コーヒー飲めるか?」

「牛乳入れたのなら…」

「牛乳は無いな…。紅茶はどう?」

「朝からおしゃれだねっ」

僕は、いつもの僕に戻っていた、だけど、僕が人間じゃなく、宇宙だったと祐樹は言った。

その意味をこれから聞かせてくれるに違いない。

「ホットとアイス、どっちがいい?」

「冷たいのがいい」

「任せろ。料理はできないけど、アイスティーくらい作れるぜ?」

「うんっ」

僕は、祐樹の欠落を尊重した。

やがて、祐樹の作るアイスティーが完成する。

「俺はホットコーヒーにするよ」

残ったお湯をコーヒードリッパーに注ぐ祐樹。

僕は、祐樹がテーブルに着くのを待った。

「お待たせ。突発早朝お茶会だ」

「うんっ」

祐樹はスマホをいじる。

「これ、俺が10年前に描いた漫画の表紙」

漫画のタイトルの下で、二人の少年が弁当とおにぎりを持っている。

その二人の少年の間には、フレームに囲まれた南京錠が描かれていた。

「この鍵、何?」

「俺が開けようとしてた鍵だ。全4話の中で、開けることはできなかった」

僕は、どうして祐樹が僕をこんなに大切にしてくれるのかが、少しわかった、ような気がした。

「僕の中に、この鍵があったの?」

「そういうこと」

祐樹がホットコーヒーをすする。

僕もアイスティーをすする。

「この鍵、宇宙の鍵?」

祐樹は少し目を潤ませた。

「そうかもな」

「開いた今、宇宙はどうなったの?」

「人間になったわけさ」

僕は、祐樹のことを再びさん付けにしたいと思い始めた。

「祐樹さん」

「ん?」

「呼んでみただけ」

「敬意か…」

僕ら二人の、苦ではない沈黙がしばし流れる。

「この漫画、僕も読みたいな」

「お前は、ラストのページで今までの自分に会えるかもな」

僕は、こんなストーリーテラーかいるだろうか、と思った。

「うん!読む!読み終わるまでどのくらいかかる?」

「2時間あれば、多分」

「いける?」

「ああ、ノートパソコンで読ませてやるよ」

僕はそれから、半分読んだところで家に顔を出してご飯を食べた後、すぐに平屋に戻り、祐樹の10年前に描いた漫画を読破した。

最後のページで、宇宙の少年が笑った。

===

「僕、学校にも行こうかな」

僕はぽつりとつぶやく。


「うん。蜜季が楽しく通える学校生活を、言葉で考えてたんだ」

「聞かせて?」

「ライフワーク!どうだ?」

僕は涙ぐんで言う。

「最高だよね」

祐樹に見送られて、僕は平屋を出て行く間際、エンブレムのセフティーの前で立ち止まる。

(ねえ、君たち、エンブレムはどこにいっちゃったんだろう?)

エンブレムー!かくれんぼしてるー!

その声たちのフォントの中に、エンブレムの声は混じってなかった。

僕は、見つけてあげられるかな?

ん〜〜!!どうでしょ〜〜!?

ははっ…と僕は力無く笑った。

これ以上のことを望めば、許されたものすら全て無くなってしまいそうで、僕は、エンブレムとの再会を、願うことさえできなかった。

===

それから僕は学校でライフワークをするために登校の準備を始めた。

クローゼットにしまってた黒い学生服のハンガーを取り出した時、ん?とボタンに違和感を覚えた。

「あ…」

金の桜の紋章のボタン。

見つかったー!!

と、エンブレムの声。

「エンブレム!」

僕は制服ごとエンブレムを抱きしめた。

シー!!蜜季!ダメ!肉声に出して話すのは危険って祐樹に教えてもらったでしょ!!

(エンブレム!もう会えないのかと思った!!祐樹との日々が夢じゃなかった代わりに、君がいなくなってしまったんだと思った!!)

妖精には!粋を大切にする心がある!

蜜季の見た夢!僕が生き証人になってあげる!

(ありがとう!ずっと一緒にいよう!エンブレム!)

もちのろんきち!!

エンブレムが断言してくれた。

僕は制服に着替えた。

そして、ヘルメットと鞄を持って一階に降りて行く。

母さんが見送ろうとしてくれる。

「ヘルメット、面倒くさかったらかぶらなくてもいいのよ?」

「学校は研究室と違って、祐樹さんの管轄じゃないからねっ」

僕は母さんに見送られながら、自転車を漕ぎ始めた。

蜜季!学校には!どんな子がいる!?

(百聞は!一見にしかず!ってね!)

第一ボタンのエンブレムと一緒に僕は通学路を駆け抜ける。

時間は、輪切りで、計れない。ライフワークのはじまりだ。

「ライフ!ワークの!はっじまっりだああああっ!!」

僕は叫んだ。

前を歩いてた子がびっくりして振り返る。

その子はクラスメイトだった。

「おはようっ!!」

僕は追い越す時に朝の挨拶をした。

その子は、力の限りの声で、おはよおおおおっ!!と僕の背中に叫んでくれた。

あの子!いい子!

エンブレムが言う。

(みんな、いいやつなんだ!本当は!)

祐樹が、生まれた時から37年の歳月をかけて鍵を開けたように、僕もみんなをそんなまなざしで見つめ続けたい、そう思った。

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