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『ラークシャサの家系』第14話

◇「連携プレイ」

 その日の夕食は、上野村の食堂で蕎麦を食った。オレは、蕎麦には少々うるさいほうだが、この店の、田舎切り、乱切りの蕎麦は、歯応え良し、香り良しの逸品だった。上品な更科ではなく、蕎麦の風味が引き立つ挽きぐるみでオレの好みだ。鳥取の溝口に住んでいた時、同じような蕎麦をよく食った。蕎麦ツユは、カツオ、昆布、それと、なんだろう?サバか?あと椎茸の僅な香りもあって複雑でキレのある風味だ。総じて水が良いところの蕎麦は美味い。様々な要素の連携プレイも、肝心な水が悪いと台無しだ。

 家から2時間と少し遠いが、自分好みの蕎麦を食えるところがあるとは、今回一番の収穫も知れない。
 また来よう・・・

 七瀬の指示で、村民の寝静まる時間、おおよそ午前0時まで、1ボックス車の武蔵2号で待機することになった。オレたちは、少し山に入ったところにある、キャンプ場の駐車場に車を停めて待った。武蔵2号のボディーには、防音、防振処理がされており、オレたち鬼でも、車内の様子がわからないようになっている。茂木兄の仕業なのだが、なんでもアメリカ NASAで使用されている、何とかという特殊な材料を、ボディーの隙間に隈なく充填しているらしい。オレは、かなりの時間、七瀬と井村明子のどうでもいい話に付き合っていた。特に、”女子高あるある”で、二人は異常に盛り上がっていたが、共学で世代の違うオレには、さっぱり理解できなかった。この待機時間はとても平和な時間に感じたが、この日和った感じと、これから始まる殺し合いの緊張感、このギャップは、オレに不思議な高揚感をもたらした。
 本能に訴えかけるような興奮とでもいうのだろうか・・・表面上は落ち着き払っているように見せてはいたが、内心は気がくるってしまいそうだった。そんなオレの状態に気づいているのか、井村明子が、時折、心配そうな視線をオレに向けていた。視線を感じれば感じる程、オレは自分を抑えきれなくなりそうだった。

 今まで何度も、シュードラやアチュートを殺してきたが、こんなふうになったのは初めてだった。

 しばらくして、井村明子が反応した。
「動きました!2体、こちらに向かっています。は、速い。」
「えっ?なに?向かってきているの?明子ちゃん?」
「はい、七瀬さん。速い、すごい勢いで近づいてきます。もう来ます!」
「向こうから来てくれるとは、なんて手のかからない連中だ。さてと2人は少し離れていてくれ。七瀬参事官、席を代わってくれ。」
「キダさん、一応これを。戦闘中にコミュニケーションが取れるようにと、茂木さんが作ってくれた、超小型インカムだそうです。私たちだけでなく、アークとも交信可能だそうです。」
「へぇ・・・激しく動いても取れないのかな?まぁいいや。七瀬、ありがとう。そこの建物の影まで、こいつを移動させてくれ。オレは外で奴らを待っているから・・・じゃぁな・・・」

”ガチャ・・・バン”

「七瀬さん、行きましょう。七瀬さん?」
「・・・」
「七瀬さん?どうしたんですか?ぼうっとして。」
「あっ、ごめんなさい。今、移動します。」

”ボボボボボ・・・バウンッ!ボボボボボ・・・”

よし、車ごと建物の陰に隠れたな。


 来るか・・・
”キダさん、来ます。右っ!”

 インカムから聞こえる井村明子の声とともに、2匹が同時に攻撃してきた。手には、なにか長物らしきものを持っている。

”ザッ・・・ビッ・・・”

「っう! 速っ!」
かすっただけだが、思った以上に動きが速い。

”二手に分かれましたっ!両方から来ますっ!”
「えっ? 両方?」
 嫌な展開。

”ザッザッ・・・ビビッ”

「痛っ・・・」
 オレの皮膚が裂ける。間合いが確実に詰められている。今のはヤバかった。まともに喰らったら両腕がなくなる。

”キダさん、七瀬です。大丈夫?”
「あぁ・・・辛うじてね。っていうか、七瀬、こいつらアチュートだよな?さっきから戦い方がアチュートっぽくないぞ!」

”キダさん、両サイドに散っています。次も両サイドからの同時攻撃かも?・・・来ます!”
「了解!」

”ザッ”

「ワンパターンだねー、やっぱアチュート野郎か!」
”ちがっ”
”ドッ・・・”
 インカムから聞こえる井村明子の声とほぼ同時に、オレの腹部はジワッと熱くなった。

”ポタポタポタ・・・”

 奴ら、とっさに攻撃方向を90度ずらしやがった・・・前からの攻撃は防いだが、後ろのはモロだ・・・背中から刺さった武器みたいな板が、腹から出ている。
 何だ?この武器は・・・なにかの模様?番号?が付いてるけど・・・よく見えないな・・・何かの部品?

”ジュル!・・・”
「がぁっ・・・うぅ・・・」
 こいつ容赦なく武器?板?をオレから抜きやがった。さすがにこれは痛い。

”キダさん、ごめんなさい・・・次はもっと早く”
「明子ちゃん、大丈夫。ちょっとオレ、こいつらのこと嘗めてたみたい・・・」

 アチュートが連携攻撃、かつ武器の使用?こりゃ初めてだ。まぁ、多少、手強いシュードラだと思えば・・・

”来ますっ!横っ!”
「えっ?」

”ゴン!”
”ボタボタボタ・・・”

「痛ぁ・・・頭切れた・・・ぐう・・・」
 マジで痛い。打撃はいいが、出血が多いのはまずい・・・再生能力に影響する。なんでこんなに手こずるんだ?

”キダさん、来ます。上です!あっ横からも・・・”
「上?えっ?横?」

”ドスッ・・・”

「好き放題やりやがって・・・」
 右横腹に刺さった板が左へ貫通していて、板上に書いてある模様がよく見える。
「あっ!これ航空会社のマークだ・・・墜落した飛行機の部品かぁ?」

”ズッ・・・”
「ぐあっ!・・・ごほっ・・・」
刺さった板が抜かれる度に、激痛で変な声が出る・・・もうオレの腹はぐちゃぐちゃだ。さっき食べた蕎麦が全部出てしまっている。勿体ない・・・

”キダさん、ごめんなさい・・・本当にごめんなさい。”
「明子ちゃん、大丈夫、大丈夫。すぐに反撃するから、大人しくして見ててね。」
”えっ?”
 こいつら相手に、急造コンビでの連携プレイは無理だ。奴らのほうがはるかに上手だ。

”キダさん・・・”
「おう、七瀬、ちょっとお姫さんを黙らせておいてくれ・・・集中できん。オレのやり方でやる。そもそもこのインカム?こんなの付けてるのが、オレのやり方らしくないんだよ。」
”ちょっキダさん、インカム取らないでくださいよ!キダさんっ!”

「よーし、これで集中できますな。くそ野郎が。」
 七瀬や井村明子には申し訳ないが、今はこのほうがいい。五感を研ぎ澄ませ、獲物が間合いに入った瞬間に襲うだけでいい。
 難しいことは考えない・・・
 生きるためにどうするのか・・・
 簡単なことだ・・・

「っ!」
来るっ左右からの同時攻撃。

”バイーン・・・”
2匹の持つ武器がぶつかり、緊張感のない音が響いた。

「???」
「フーフーフー???」
「なに2匹でびっくりした顔してんだ?本気出せばそんな板っ羽根、簡単に避けられるんだよ。」


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◇第15話へつづく

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