健康って?
健康について考えるとき2人の患者さんの顔を思い出す。
もう20年ほど前になる古い話だ。当時病院はまだ、喫煙者天国だった。入院病棟や待合室、はたまた、ナースステーションどこでも喫煙可能。患者さんたちは売店で好き好きのたばこを購入して病棟に設置された灰皿の前でたき火のようにタバコを吸いまくっていた。
一人目の患者さんは、90歳近いご高齢の大姉御様。なぜ、大姉御だというと、お年もさることながら、しぐさと言うか、心意気と言うか、風貌と言うか、とにかく、姉御なのである。一挙手一投足が粋でカッコいいのである。
その彼女は肺がんで肺を一個摘出していた。それでも、彼女はタバコをやめなかった。缶ピースをいつもソファーのひじ掛けの上において、両切りたばこの端をトントントントン机でたたいていた。
「〇〇さん。タバコ辞めないと、肺一個しかないのだから、もう一個やられたら死んじゃうよ」
と、私が意見すると。彼女は、耳にタコが出るよと言わんばかりにうんざりした表情を浮かべて、
「あんなぁ。先生。健康のためだって言われても、何のために健康じゃなきゃいけないんだい?好きなタバコ吸うために健康で長生きしなきゃいけないって言うんならわかるけど、タバコ止めろ止めろ言われて、何のために長生きするのさ。好きなタバコ吸って死ぬんだったら、もう悔いはない年なんだよ」
まったくもって正論。納得させられてしまった。
もう一人の患者さんはこれまた、88歳とご高齢のおじさまの話。
この方、糖尿病で両足が随分切断されていて、半分ぐらいになっていた。
「〇〇さん。お酒止めないと、足なくなっちゃうよ」
と、私が意見させていただくと、
「あのな~先生。好きな酒飲んで、足なくなっても別に構わないんだよ。明日、死んでもいい。死ぬまで酒飲むためにリハビリやってんだから。酒止めるんだったら、何のためにリハビリするんだよ」
と、言い放たれた。まったくもって正論。そんな目標の立て方があったのか~。とその当時の私は目から鱗が落ちる思いだった。
いや~。健康って何なんでしょうね。