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俺、ゲイだから

「俺、ゲイだから。」
初めて会った時に聡はそう言った。
毎日ジムに通っているらしく、いい体をしているのがTシャツのピチリ具合でわかる。
短髪で髭を生やしていているし、見た目は普通の男だ。

聡は初対面の人にも堂々とゲイであることを打ち明け、話のネタにしたり笑いを取ろうとするようなところがあった。

「だから俺、お前のこと好きー。」って言って他の男友達に抱きついたり。

サークルの飲み会の時に「こっちが男でこっちが女ってこと?なら俺は真ん中のゲイ席ね。」と堂々とお誕生日席に座ったりする。

聡はノリがいいし、話が合うから私たちはすぐに仲良くなった。
ゴシップ好きなところや、あの人かっこいいよねって話で盛り上がれるからまるで女友達といるみたいだった。
私が彼氏に振られた時に話を聞いてくれて、一緒にやけ酒してくれたのも聡だった。

ある日バーで飲んでたらチャラそうな男が私に絡んで来た。
「嫌がってるからやめなよ〜。」
隣にいた聡はチャラ男にそう言ってくれた。
それでもチャラ男はしつこく電話番号を聞いてきた。
もちろん私はそんな男に電話番号を教えるわけがなく、無視し続けた。
でもそのうちチャラ男が耳元に息がかかるくらい近くによって来て、囁いてくるから、もう無理!って思った時だった。
「おい、やめろって言ってるだろ!」
って低い声が飛んできた。
誰かと思ったら聡だった。
聡はチャラ男の腕をガッと掴んだ。
チャラ男はその聡の変貌ぶりにびびったように逃げていった。

「なんか今、めっちゃ男出ちゃったよね、へへへ。」
聡は可愛く言った。


バーの帰り、面白いものがあるから見せたいというので聡の家に行った。
「ちょっとこっち来て。」
聡はなぜかアパートの廊下の奥の方に私を連れて行った。
そこには何もなく、突き当たりにある窓から夜の公園が見えるだけだった。
「実はさ、俺、このスイッチをオンにしたら急にゲイになっちゃったんだ。」
暗い廊下の壁にスイッチがあるのが外の街灯によってかろうじて見える。
押したら電気がつくような普通のスイッチ。
「そんなわけないでしょ、何言ってんの。」
私は冗談だと思って笑ってやった。
「だから、これをオフにしたら俺はゲイじゃなくなる。」
まさか。と思ったけど、聡は真剣な顔をしていた。
そして、聡はそのスイッチをを押した。
カチっとなった。
電気はつかなかった。

静かな廊下で二人の息だけが聞こえる。

聡と目があった。
聡はいつもと違う顔をしていた。
目つきが違った。
男の目。
私は自分の胸がドクンドクン言っているのに気付いた。
「で、どうなの?ゲイじゃなくなった?」
私は動揺を誤魔化すために馬鹿にする様に言った。

聡はその答えをキスで返した。
私もそれに答える。
顔が離れた時、聡がささやいた。
「俺、ゲイじゃないから。」
声まで違っていた。

本当はずっと聡がゲイじゃなければいいと思っていた。
実は聡がゲイじゃないかもって少し思ってもいた。

聡と今までと違うやり方で心が通じた瞬間だった。
今までよりももっと深いところから繋がった感じ。

聡があまりにも真剣な目で私のこと私見るから私は少し恥ずかしくなって目を逸らした。
その先にはあのスイッチがあった。
なんなの、このスイッチ。

「電球切れてるだけ。」
聡がそう言った。
そういうことね。
ってことは、聡のゲイは演技だったってこと?

そう思うとおかしくなってきて笑ったら聡も笑った。

男と女の笑い声が暗い廊下に響いていた。

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