第112回有田朝飯会ご案内
有田朝飯会 開催要項
本ご案内は、毎月開催している有田朝飯会で発信しているご案内文を添付しております。開催要項はこちらです。
もし、ご参加をご希望の方は、下記のメールアドレスにご連絡をくださいませ。
<arita.chohankai@gmail.com>
以下、ご案内文
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6月から有田朝飯会事務局になりました深海宗佑(ふかうみ そうすけ)です。
本メールは事務局の高田亨二と深海の2人で発信とご確認をしております。
講演する際の気付き (深海)
8月は3回ほど人前でお話しさせていただく機会をいただきました。
1. 弘道フォーラム(明治設立の国民道徳振興団体)
2. 有田工業高等学校 セラミック科 教員 夏季研修
3. 東洋陶磁学会 大会3 福岡会場
です。メディア出演+講演では、過去3年間で70回ほどお話しさせていただいています。講演も慣れ、うまくなっただろうと慢心していたのですが、、、、
余白の必要性・頭で考えたことではなく心で感じた事が人の心を動かす
事を痛感した月でした。
さて、なぜそう感じたかと言いますと、東洋陶磁学会での出来事です。
東洋陶磁学会では、4人のパネリストがそれぞれ順番に話すものでした。
私はいつも通り講演していたのですが、私の後の有田の陶芸作家さんのお話しの方が私のそれよりも何倍も聞き入ったのです。スライド投影さえないにもかかわらず。
理由としては、しっかり論理立てられている上に、どういう気持ちや考え・悩みでどの様に解決していったかというもので、その話にはドラマがあり、起伏がありました。
だからこそ、私が頭で考え作った講演よりも聞き入ったのです。
また、休憩時間にその作家さんに感動した旨をお伝えしたところ、
「深海さんの発表の後は完璧すぎて、緊張しました。」
と仰いました。
その言葉から、完璧というのは余白がなく、相手に緊張を強いるものだと感じました。日本家屋・柿右衛門様式など品があるものは、余白の取り方が素晴らしい事が多々あります。
ですから、今後、
余白の必要性・頭で考えたことではなく心で感じた事が人の心を動かす。
ということを意識してお話ししたいと思います。
来月から下半期を迎えるにあたり、社内や社外でプレゼンをする機会も増えると思います。人前でプレゼンをする事に苦手意識を持っておられる方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
アート・工藝・産業の役割とCRA
それと、私は伝統産業においては、アート・工藝・産業の3つの観点とそれぞれの役割があると考えています。
アート:概念のアップデート ※デザインとアートは別
工藝:伝統技術の集約と積層
産業:市場及び技術開発・雇用と技術の永続化
です。どれも欠けてはならず、それぞれが補完関係にあります。
今回の高田のコメントは、CRA(Creative Residency in Arita)の奮闘記です。
※オランダ側ではCRAは超高評価。この事業のためにオランダ国外からオランダへの移住者も。私は英語も話せるため、Uターンしてから3年近くCRA受入の一事業者として全アーティストと関わっています。
CRAの重要性は強く感じておりますので、奮闘記ぜひ、ご一読ください。
高田コラム
以下は今月の高田のコメントです。
毎日暑い日が続いておりますが、お元気でしょうか。この高温の異常気象が、あと1月も続きそうと聞いて、ゲンナリしております。そんな中、新たに9月からの新たなオランダからのクリエイターが到着しました。
モーガンさんは物静かでバスさんは全身がアート、他の町内に滞在するアーティストも合わせると、また新しい風、変化の予感がします。
クリエィティブレジデンシー有田(CRA)で見えること
さて6月から8月までの、オランダからのクリエイターのジンさんとミルテさんの、3ヶ月間の活動にお手伝いした感想です。
最初の2週間は、我々スタッフがご案内して、有田をめぐり、窯業関係者の店舗や工場、美術館を見て理解をし、自己紹介のプレゼンを有田セラでして、いよいよ窯業技術センターにスタジオをお借りして、センターや事業者の方々と製作活動開始、7月佐賀大学での中間発表と学生との交流、そして8月有田セラで最終発表会を終え、慌ただしく作品の梱包や発送をして、3ヶ月を終えました。この間皆様には大変お世話になりました。
陶磁器の経験は浅い二人が、元々どう作るかはお構いなしに、何を作りたいからから始まる自由で奔放な考えから生まれるものは、最終発表会でご覧の様にとても面白いです。
CRA事業で見えてきた産地の課題
この間彼女たちを支えて下さる窯焼きさんや、土屋さん、生地屋さん、型屋さんを一緒に巡ると、感動と共に、深刻な課題が見えました。
例えば整形の山辰さんに、二人ともずいぶんお世話になりました。彼女たちが作りたい無理難題を一緒に考えて嬉々として取り組み、週末でも受け入れ教え、機材や環境の少ないヨーロッパに帰っても修復できる様なものを、ミクロン単位まで追求する姿勢に打たれて、彼女たちは、暑さを忘れて取り組みました。
クリエイター同士のもの作りに打ち込む姿は、見ていて清々しいものがありました。
一方高齢の方の多い職人の皆さんは、冷房のない40数度の中で、黙々と働いておられます。
この業界に若い人や後継者がいないのも、理解できます。
商工会議所の調査で見たように、後10年で、産業の欠かせないインフラが、誰もいなくなり、それと共に技が、伝統が消えるという状況が現実感を持って見えます。
地元の有工生200人に2600社から求人が来る少子化人口減少時代に、低賃金で冷房なしでは、他産業に負けます。
ここに付加価値が回る仕組みなしでは、有田焼自体が、消滅しそうです。
我々のこれまでの単価を下げることで他産地、他産業と競争する方式は限界がきています。
ここからは故障し燃費が悪いイタリアの名車の言われるものが、故障しない高燃費のプリウスの53台分の利益を出す、それだけ付加価値を上げていることの意味を考える必要があります。それは燃費や効率ではなく、好きという感覚やブランド、ファッションという価値観の活用です。
こうやってくるオランダからのクリエイターは50倍80倍の競争で、有田に憧れを持ってきて、刺激、インスピレーションを得て、ヨーロッパに戻ります。
彼らから見たら、極東の離れ小島の日本が、鎖国して独自の文化を成熟させ歴史を回してきた日本、ヨーロッパにない価値観が、その異質さが彼らを惹きつけていて、有田焼もまたその一部として受け止められている様です。
今日も南アフリカの親子が有田に来てくれました。娘さんが陶芸をやっているからと、1ヶ月の旅の一部で有田にお見えでした。これがアートの力なのだと感じました。
2016年から続くCRAは、有田ではこれまで彼らは、言葉が通じない、発注しても小ロット、商業デザインとしてすぐに売れるものがない、付き合うのに手間がかかるという様なことで、敬遠され、生かすということに消極的であったと思います。
しかしヨーロッパデザインの最先端を走る彼らを生かさない手はありません。
CRAから見える2つの可能性
ここから、見える可能性は、二つ考えられます。
1.クリエイター達を活かす
一つは毎年CRAで毎年来る他にこれまで40名来ているクリエイターを、活かすことです。
ここから考えを変えて、彼らが単純に3ヶ月過ごして満足して帰すのではなく、彼らの日本人にない発想を関わる我々が学び、また彼らと長い視点で付き合い、お互いのニーズや関心を持ち寄ってコラボして、商品やサービスにし、彼らの背後にある顧客と繋がり、ウィンウィンの関係にしていくことです。これにより海外という市場に、彼らをパートナーとして、彼らの顧客にアピールし浸透していく可能性があります。
2.有田でのレジデンスの仕組みをシステム化
二つ目は、滞在して学ぶことを、教育や体験を、有田としてシステムにして提供することで、国内外から焼き物好きや陶芸家を集め、同時にその方達が、作家として、かつ職人として技も繋ぐというものです。
卑近な例は、私もお手伝いする幸楽窯でのアーティストインレジデンス事業です。
カナダ人の職人ジェレミーの頑張りで、1ヶ月単位の滞在し製作活動をする人が急速に増えていて、今月でもオランダ人2名、シンガポール人1名、インドからのインターン1名が学んでいます。他に韓国人の作家、日本人の作家が仕事をしながら、自分の作品も作っています。ミャンマー人の二人は生産ラインを担当しています。いつの間にか社員の中に外国人が2割以上ほどいる環境が生まれています。
幸い自動翻訳の普及という追い風もあります。
彼らはアニメを見て育ち、カタコトの日本語を必死に覚えようとしています。
お互いつながりたいのです。つながれば何かが生まれそうです。
まずは小さな一歩を踏み出し、彼らとハローと日本語でも言葉を交わすことから始めませんか。