うるさい比喩御膳・竹

〈冷たい〉

・南極の氷くらい冷たい

・結婚4年目の夫くらい冷たい

・短時間でガッツリ稼げるという文言につられて応募した工事現場のバイトで、ほとんど熱中症になりかけの状態で差し入れられた、自販機で買ったばかりのアクエリアスくらい冷たい

・同じ高校に通う姉のクラスに、彼女が忘れていった弁当を届けた際、所属するサッカー部の悪い先輩に捕まってしまい、教壇の上で一発芸を無理やりやらされた後の、しんと静まり返った教室くらい冷たい

・連続殺人犯が自分の幼馴染の男だと分かり、気の迷いが生じそうになるが、それらをかなぐり捨てて正義のために犯人を逮捕し、取調室で変貌した彼を前に流した、刑事になってから初めての涙くらい冷たい

〈太い〉

・サイのツノくらい太い

・イーロン・マスクの財布くらい太い

・父の実家に帰省すると必ずいる、甥の自分をららぽーとに連れて行くことを生き甲斐にしている叔父の、お腹まわりくらい太い

・高層マンションに住み、好きなだけ物を買い与えられ、エスカレーター式の大学を卒業して就職した会社で自分の知らなかった社会を突きつけられ、引きこもりになった男の実家くらい太い

・彼氏の横柄さに飽き飽きし、好きという気持ちがだんだんと離れはじめた2月、そのことに危機感と苛立ちを感じた彼氏に頬を打たれ、アパートを飛び出てヤケになってガタイの良い男をひっかけ、ベッドの上で頭を撫でられながら見た、そのよく焼けた二の腕くらい太い

〈熱い〉

・1月末の受験塾くらい熱い

・甲子園準決勝9回裏、3:2、ノーアウト2塁くらい熱い

・入道雲が遠くに見える長崎のド田舎、40分後のバスを待っている間にあの子とした、先ほどまで食べていたソフトクリームがほのかに香る、ぎこちない接吻くらい熱い

・中学の技術の授業中、バレー部の美人の先輩と付き合うことになったと言い出したクラスメイトを取り囲み、事情聴取をして盛り上がっていたところ、教師に注意されて泣く泣く散会するが、興奮が冷めぬまま不意に握ってしまった、はんだごての加熱部くらい熱い

・「血のつながりなんて関係ない、彼女は君の子で、そして僕の子だ」娘が寝た後の1DKでそう言った、6個下の再婚相手の、肌触りの良いポロシャツを濡らしてしまった、私の涙くらい熱い

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