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シャニマスのオタクによるベスト・バイ2024

前文

 買い物────。
 我々は日々何かを「購入」し、「消費」している─────。

 太古たいこの昔、我々が資源を獲得するには、狩猟しゅりょうや採集が必要であった。自然環境における生存闘争への恐れを伴いつつ、欲望にき動かされてきた。
 かつて、何かを手に入れるための行動は、濃密な死の予感とともにあった。

 それから、我々が人類らしい形態を取り始めた頃、より生存に適した群れは、環境より獲得した資源を交換するようになっていた。
 この交換という行動によって、群れに属する個体が確保する資源の恒常性は高まり、群れの維持に必要な資源量は低減した。そうして、より大きな群れを形成するようになったのだ。
 そうして我々のなかには、何かを手に入れるために環境に接触しない個体が出現し始める。

 群れは環境資源に依存した大きさに育つものだが、それに応じて複雑な機能を持つようになっていった。
 その過程で群れを大きくした交換の機能は貨幣によってより効率を高める場合もあった。
 また、この頃には文明と呼ばれた群れは、時に移動する別の群れとの闘争を経験し、時に融合し、時に滅び、そうして環境に洗われ、それを繰り返し、着実に巨大化していった。
 文明社会が高次に、複雑に、なるに従って、何かを手に入れるために環境に接触しない個体が大いに増えた。特に産業構造の変化に伴って、主だった闘争の対象は環境から人へ移り変わり、死の予感は茶飯さはんのことから事件へと移り変わっていった。
 そして、最後の大戦を終えた我々は、遂に「平和」を手に入れて久しいという。

AIに出力させた画像
現代に至るまでの説明であるかのように見える

 ……しかし、それは本当にそうだろうか。

 果たして、我々が物を手に入れるにあたっての恐怖は消え失せたのだろうか。
 恐怖とは、最早ごくまれな自然環境との接触や敵対勢力との闘争のみを指すものなのだろうか。

 ──否、断じて否である。
 我々は日常にも死を予感した。
 具体的には月に一度恐怖を感じるのだ。
 私は怖い、2024年、急増し始めたシャニマス関連のライブやイベントへの参加費用とそれに伴うグッズ費用が、全通を見越したときの参加費用合計額が、そのための交通費や宿泊費が、そしてそれらが渾然一体こんぜんいったいとなって襲来するカードの請求額が。
 社会人になり社会人らしい収入というものを得てからというもの、感情のおもむくままにグッズを手に入れ、イベントに参加してきたが、このまま膨らんでいく供給と欲望のまま買い続ければ、そのうち破産もあり得るように見えてくる。

私の年間推し活関連支出額2024
(諸雑費含。読者に配慮して優しい見た目に調整。推移を示すグラフや来年度予想等はややグロテスクであるため省略。)

 恐ろしくてならない。
 しかしながら、目の前に「期間限定」、「受注生産限定」の文言があれば買わずにはいられないのも確かである。
 買わずにはいられないだけで済めばまだよい、なかには買わなかったことが損失であると思わせられることさえあった。
 そして彼らがこんなにも素晴らしいものであるということは、その当時、誰一人として客観的に証明することができなかった。

 未来は予測不可能である。
 従って、いずれ来るであろう第二、第三のもちほわを避けるためには(もちほわが来てほしくないわけではないし早く来てほしい)、我々は全てのグッズを購入せざるを得ない。

 買えば破産、
 買わねば後悔である。

 ふと、ストレイライトの歌声が脳裏に響いた。
 彼女らの楽曲、『Start up Stand up』だ。
 『CANVAS 05』に収載しゅうさいされたこの曲のタイトルは、CANVASシリーズ第三曲の、色彩や描画形式を示す名の楽曲群のなかにあって異彩を放っている。
 この曲は6thライブでも披露され、私はそれを聴いた。
 あの曲で、彼女たちは歌っていた。

 “────やらずに(買わずに)後悔するより、燃え尽きて散る方がいい…………………”

THE IDOLM@STER SHINY COLORS “CANVAS” 05

 ────私には分かった。
 未来は知れず、後悔するのは常に未来の自己である。そうであれば後悔する可能性は常に存在する。
 従って、「買うか、買うまいか」という思考は、畢竟ひっきょう、解決するものではないのだ。
 そして、我々は解決しない問いに思考を費やす べきではない。 
 私は疑う。それは思考に伴う安全な疲労を無為むいへの excuse とする怠惰たいだなのではないかと。私は疑うのである。それは理性の活動によって意識という名の自己存在を拡張する快楽にふけっているに過ぎないのではないかと。
 私は、その活動がきわめて安全であることから目を背けているのではないかと考えるのだ。
 社会にいつわる大人と対蹠たいしょ的な思春期の偽証ぎしょうを──安全地帯で自涜じとくに耽る虚しさを──腰抜けとそしることについて、我々には一切の躊躇がない。
 心の Noise を掻き消し突き進んだ先にあるのは、ようやく馬鹿のそれではない、それをそう呼ばせ、今日に至るまで我々を存続せしめた、「思考」である。

 即ち、我々が考えるのは、「全部買って破産するか、全部買わずに後悔するか」ではない。
 我々が考えるのは「何を買って破産するか」だ。

 ………………だけど本当は、その結論はもしかすると果敢はかないものなのだろうとも思う。


 ────だから、


 買った先に本当に破産してしまったら、一緒に『(お金もう)なかったね』って笑ってくれますか





記事概要

 本記事では2024年に私が購入した「アイドルマスターシャイニーカラーズ」(以下シャニマス)の関連グッズから、買って良かったものについて紹介する。
 本記事では失敗を記述しない。
 失敗は常に個別的であり、言葉はいつも一般的な抽象物である。そのため言葉による失敗の表現は概ね適切でない。また、高次の行為を促進するためにも過剰なおどかしをもくした表現の行使を好ましく思わない。さらに各人の欲望の総量や、各人の基盤となるもの強靭度によって問題視するべき損失の程度も異なる。
 少なくともこの世界は砂漠のように単一ではなく、不毛なものでもあり得ないから、そこで生きる我々にとって失敗ほど自ら経験するべきものはなく、後悔ほど共有されぬべきものはない。
 具体的な失敗談などというものは、精々ミスを起こして冷静でない新人を、早急に立ち直らせるための応急的な慰藉いしゃに足りれば、概ねそれで十分である。

 そういうわけで、私のカード請求額を構築したもののうち、現在においてなお買って良かったと評価するものをいくつか抜粋して記録する。
 シャニマスP諸氏よ。私のしかばねを越えていけ。


買って良かったもの

CDシリーズ THE IDOLM@STER SHINY COLORS “ECHOES”

 作品「アイドルマスターシャイニーカラーズ」のオリジナルであるenza版ゲーム「アイドルマスターシャイニーカラーズ」からリリースされた2024年度のCDシリーズ。2024年12月現在リリース中で未完結。価格は ¥2,200/ 枚。
 これまでのシリーズと同様に各ユニットごとに一枚、そして全体を合わせた一枚が制作されており、衣装やコミュ(ゲーム内シナリオ)など、その時々の彼女たちを反映したコンセプチュアルな楽曲シリーズとなっている。また各サブスクリプションサービスや配信サービスでも楽曲は配信されているが、CD版にはInst音源やスペシャルオーディオドラマが収載されており、こちらも非常に魅力的である。
 今年のシャニマスでは非常に多くの楽曲が発表されたが、特に“ECHOES”シリーズは質、内容ともに豊作だった。様々につちかわれてきたものが鮮やかに記され、演じられ、歌われている。これらもまた彼女たちを形作るのだろう。
 またオーディオドラマにもそれぞれに面白いところがあった。特に人気どころで言えば、ECHOES06の『にゃクチル』、ECHOES07の『warmth』などがある。個人的にはECHOES03の『初夏のトワイライト』が綺麗で、気に入った。
 他に特筆するべきものには『Migratory Echoes』がある。本シリーズでは前シリーズである“CANVAS”シリーズに引き続き、一つのCDに3曲が収載されており、そのうちの第3曲目が全ユニット共通で『Migratory Echoes』の題を持つ楽曲だ。
 歌詞や作曲など、楽曲の大部分を共有しつつも、リズムの変化や編曲、歌詞を含む変化がユニットらしく色付いており、連作的な楽曲に仕上がっている。
 歌詞に用いられた「渡り鳥」は同年12月に開催されたイベント「THE IDOLM@STER M@STER EXPO」での展示にて発表された文章、そしてこれまでの軌跡を踏まえてみると、プルーストの七篇《へん》の引用であろうか。
 それでいて彼がその著作で試みた反論の対象である、ある批評家ひひょうかの主張が、CDシリーズ自体や楽曲それ自体の構成としてざっているところが面白い。
 現在発表を待っているその結論もまた非常に楽しみである。
 その先は言うべきにもあらずか。


THE IDOLM@STER M@STER EXPO 公式M@-1ジャケット (アイドルマスター シャイニーカラーズ ver.)

 先にも触れた「THE IDOLM@STER M@STER EXPO」を記念して制作・発売されたMA-1ジャケット。
 アイドルマスターシリーズにて衣装制作を担当している株式会社オサレカンパニーの方々とアイドルマスターシリーズでの共作として制作されている。
 オサレカンパニーはアイドルを中心とした舞台衣装制作に携わっており、SNSで調べたところ、その制作には定評があると言ってよさそうだ。シャニマスにおいては、ゲーム内イラストを基に現実の舞台衣装として再構築している。いつものことであろうとも、いつ見ても新鮮に素晴らしい仕事ぶりだ。
 本商品はそんなオートクチュールブランドであるオサレカンパニーによってデザインされた一作であった。

 商品の詳細や思い入れについては、私の文章よりも公式の紹介がより良く説明するだろうから、私からは実際の着装感について述べたい。
 ファッション&カルチャー誌『NYLON』がアイドルマスターシリーズのコラボレーション企画として特集した『NYLON JAPAN THE IDOLM@STER 20th ANNIVERSARY BOOK』では、「衣装制作会社」として舞台の衣装の制作過程について触れており、その中で、彼らは「『高級感』を大切にしている」としていた。
 確かに着てみたところ、既製服きせいふくであるとしてもなおレディ・メイドというよりはプレタポルテの質感がある。
 素材はもちろん、特にシルエットが特徴的かつ重要なMA-1ジャケットという軍服のレプリカにおいて、見目良さ、そして可動性、「MA-1」であることのいずれも理想的であるように感じられる。同社の学校制服や医療用制服などの制作経験なども万全に活きているような印象も受けた。
 それほど服飾ふくしょくに興味を持っているわけではないが、完成度から想像する限りは、これ以上のものは探してもなかなか見つからないだろう。

 買うときこそモデルが余りにも美しかったことに怖気おじけ付いたが、そこはやはりプロ、私が着るにあたっても満足のいくものだったというのも良かった。

 採算が取れているのかはやや心配になるが、そこは株式会社バンダイナムコの製作費用、ひいては我々の推し活費用で補われたい。

 オサレカンパニーさんにはいつも感謝が尽きないというか、いつもライブが良くて、その後で改めて素敵な衣装だと見返して、それから感謝を覚えている。
 何にしろ、その時々で素晴らしいものには気が付かなくて、通り過ぎて振り返ってからはじめてそれを知るというのが人なのかもしれない。
 だからこそ、何か一つのものが終わること、それを振り返って初めて素晴らしさを知って、それからもまた次があること……そしてそれが続くこと……というのが楽しみで、幸せなのだろうというふうに思う。


OKAYAMA DENIM×ASAHI SERIZAWA デニムジャケット

 アイドル芹沢あさひと、「岡山デニム」とのコラボレーションジャケット。
 販売価格 ¥33,000(税込)と、同時期に発売されていたグッズのなかでは映像商品を除けばほぼ最高価格だったのではないだろうか。
 購入から到着までにはかなりの期間があり、デニムジャケットが着られる季節が来るまでには更に待つ必要があった。
 値が張ったのはもちろん、待っただけあって、かなり良い品物だった。

 ファングッズの宿命か、これを着ていこうというイベントの日には、会場で多くの同類を見つける……要するに、被ることがよくあった。
 そうして見るにあたり、何となく個体差があるような印象を受ける。それは品質管理上の失敗というよりは、生地の触感であったり、濃い藍染あいぞめの抜け始めた箇所かしょであったり、擦れている布の厚さの感触であったりからそういう印象が漠然ばくぜんとある。
 そうしてみると、少し硬いデニム生地きじの性質はもちろん、はじめに付けている型なども好ましく映る。
 今年は端境期はざかいきが比較的短かったこともあり、今のところはっきりと見違えるようなところはないが、公式紹介文にもある通り今後の変化が楽しみだ。
 完成された既製服を買い、劣化すれば新しい完成品に取り替える……そんなファッションの時代だからこそファングッズとしてのアパレルが成立したのかもしれない。
 しかし、比較的着用機会が少なくなりがちなファングッズという立ち位置の製品として、このような制作物が出てきた。この逆説の面白さには、存続することへの決意や、もしくは時代が移ろうことへの期待が含まれているようにも思われる。
 何にしろ、次の季節が待ち遠しい。


パンフレット・書籍しょせき

 ライブやアニメ先行上映に雑誌での特集など、多様な書籍が出版された。
 それぞれに様々な魅力があり、前々から気になっていたところもあれば、思いも寄らない知らせがあったりもした。
 出版された書籍に掲載けいさいされる言葉や写真というのは、その完成のための多くを既に存在するものから拝借はいしゃくする。そういう意味では、絵画や音楽などといったものと比べて、芸術としての格を低く見積もられがちだ。
 そうした芸術としての格の低さからか、私たちの体験することになる楽しさの量はどうにも価格には反映されてこないらしかった。
 今年の出版物では、表立った演者だけではなくいわゆる裏方を含む様々な制作者たちの、制作に関する文章が掲載されていたことが特に印象に残っている。
 何かを制作する人間は、制作するにあたっての所感や、具体的な経験を口に出すことを避けがちだ。そこには様々な理由があるのだろう。例えばそれには、結果で全てを表示することへの誇りがあり、続いてほしい今の感覚が途絶えてしまうことへの恐れがあるためであるように思う。
 そういうつつしぶか謙虚けんきょな態度を、私は好ましく思う。その上で、それでも折に触れて今現在の自身を見つめ直すことをおこたってはならないのだろうとも考える。
 より遠くへ向かうために、より大きくなるために、これからもそうあるために、そのためには自らの身をあらためる手続きを疎かにしないことが大切だと感じる。
 もちろん、そういった彼ら自身についての話ばかりではなく、夢についても語られていた。
 それは当然ながら様々な夢で、ここでは決して紹介し尽くせないような彩り豊かな夢だった。


チョクメ!

チョクメ!は声優・アーティストから画像と文章のメールが届くサービスです! ここだけでしか見ることのできない、声優・アーティスト本人の素顔がチェックできます! 受け取ったメールに返信することでコミュニケーシ ョンを取ることもできます! 月額費用は1人の購読につき330円(税込)です。お試し期間として購読1ヶ月目は無料となりますので、ぜひお試しください! 

「チョクメ!とは」

 「チョクメ!」とは、声優を中心としたアーティストとそのファンとの間で、電子メールを通した文章や画像でのやり取りを可能とするサービスである。
 SNSの普及ふきゅうと発展が目覚ましい昨今、電子メールはほとんどビジネスの現場でしか用いられないようになってきた。そのような時代に錯誤さくごしたサービスであるという考え方もあるだろう。
 分からないではない。
 ただ一方で彼らがチョクメ!を購読している可能性は非常に小さいという推定も間違ってはいないだろう。
 これ以上に私が言葉を並べる必要はない。


THE IDOLM@STER M@STER EXPO 公式『Cafe Takayama』セット

 繰り返し触れてきた「THE IDOLM@STER M@STER EXPO」では、企画の一つとしてアイドルマスターシリーズの各ブランドプロデューサーがグッズを出しあい、その売り上げから最も優れたグッズを出したプロデューサーを選ぶ「最強グッズプロデューサー決定戦!」が催された。
 私もシャニマスプレイヤーの一人として、「高山を王にする」という決意のもとにCafé Takayamaグッズを購入した。(なぜか高山Pのみステッカーとこのグッズセット、アクリルマドラーの三種類が販売されていた。当然全種購入。)
 エプロンこそ着ける機会がないものの、それ以外は何かしら常用しており、特にタンブラーについては機能としても申し分ない。
 なお、アイマスエキスポday2の結果発表はDJ Yusuke Takayamaのプレイに向けた準備のために立ち会うことができなかったが、「学園アイドルマスター」の佐藤大地プロデューサー、山本亮プロデューサーの出品した「THE IDOLM@STER M@STER EXPO 公式スキルカードコースターセット」が勝利したらしい。

THE IDOLM@STER M@STER EXPO 公式スキルカードコースターセット

 この敗北について、私は口惜しく思う。
 だからこそ、これだけははっきりと述べておきたいのだ。
 高山祐介は負けていない、と。
 百歩譲ひゃっぽゆずってこれが敗北であったとして、それは2024年度の学園アイドルマスターへの敗北であって、佐藤Pならびに山本Pへの敗北ではないのだと。
 来年は我々の高山Pが勝利を収める。
 私はそう信じている。


花王 めぐりズム 蒸気でホットアイマスク

心地よい蒸気が働き続けた目と目元を温かく包み込み、気分リラックスするアイマスク。まるでお風呂のような心地よさ。快適温度約40℃、快適時間約20分。一日の緊張感から解き放たれ、気分まで奥からじんわりほぐれていきます。開封するだけで温まるので、手軽に使えて外出先でも便利。つけた瞬間ふっくら。さらに蒸気のチカラでふくらみ、目元にあわせて密着フィット。つければたちまち、ひたるひとり時間。

MY Kao Mall 「蒸気でホットアイマスク」

 使い捨てのホットアイマスク製品。
 原理としては使い捨てカイロと同様、製品の封を切ると同時に、含まれている鉄粉が空気中の酸素と反応する酸化熱によって加熱し、40℃程度に温度が保たれるというものらしい。2024年12月31日現在、様々な香料付きのものや管理医療機器として認可されたものも販売されている。ちなみにホットアイマスクが入眠にもたらす影響についての看護分野での学術研究もあるらしい。

 今年10月に開催されたライブイベント「THE IDOLM@STER SHINY COLORS 6.5th Anniversary LIVE “Chapter 283”」の現地会場では、事務員である七草はづきから来場者であるプロデューサーに差し入れるという形で配布された。
 ライブ協賛である花王のブランド「めぐりズム」の配布は、単純な製品の宣伝以上に、「差し入れめぐりズム」という企画を盛り上げる一助になれば、というような意図もあったのだろうと思われる。

 蒸気でホットアイマスクを差し入れにする文化が根付いたのかは分からないが、後日のアイドルマスター関連イベントでも引き続きコラボレーションがあったということから、少なくとも単純な広告効果を認められたことは窺われる。

 個人の使用感としては、かなり心地よい。
 体感する印象として強烈に睡眠を促すというわけではないが、例えば夜行バスや遠征ホテル等の普段と異なる環境で眠る際には、違和感からくるストレスを効率良く緩和かんわできた。
 また、手持ち無沙汰にスマートフォンを使ってしまうような時間でも「この睡眠は¥108/ 枚(12枚入り)である」という感覚を惹起じゃっきすることで、「スリープモード」に移行させるという想定外の効果も体験した。
 およそ20分間は効果が続くということだが、その後も香料付きの製品については心地よい匂いが残ることや、単にやさしく目が塞がれていることなど、安らかな眠りにコミットする機能が完全に消えるわけではない。
 特に、目に直接触れたり、耳に掛けたりして使用するというので、接触部分が痛くなるのではないかと心配していたが、いずれもやさしい感触で違和感を感じなかった。
 総じて良い製品で、いわゆる遠征などの際には積極的に使用している。


【安眠特化ASMR】保健室の姫君は、ぐうたら共依存が気持ちいい。【CV.山根綺】

 2024年10月発売のいわゆるASMR音声作品。
 いわゆる保健室登校をしている美しい高校生「黒川憂妃くろかわゆうひ」に恋をした主人公(僕)が、彼女の要求に応え、そして見返りを受け取り、徐々に「共依存」の関係へ……という筋書きとなっている。
 公式の作品紹介に記された『この物語はベッドの上で行われています』という一文が興味深い。

 特筆するべきは、第5トラック「保健室のお猫様~愛はギブアンドテイク~」であろう。
 “いつも本物の猫を相手に研究した私の本気の猫ちゃん、あなたに見せてあげる”という台詞に引き続く、山根綺さんによる2分21秒に渡る猫ちゃんは、時代をその前後に別った。
 ところで、クラシック音楽では、曲によっては「カデンツァ」という、協奏曲の独奏者などの技巧的ぎこうてき即興部分そっきょうぶぶんが存在するのだが、著名ちょめいな者を含む多くの作曲家はこの即興の余地をはいしてきた。西洋音楽は諸々の事情から楽曲に厳格な規則を要求してきたのだが、一方では、そのような背景を持ってなお即興を要求する作曲家も確かに存在する。
 以前の私は、どちらかといえば、この即興部分を純粋な即興として残す意義については懐疑的かいぎてきな考えを持っていた。
 しかしながら、私はこの作品を聴くことを通して、演者の自由なパフォーマンスにゆだねることの価値を感じることができた。

 なお、この作品については制作者が(少なくとも私の見ている範囲では)しゃしゃり出てこないところも好ましい。
 以前、ASMR音声作品について、誰ともしれないSNSのアカウントと私の交わしたやり取りがさらされる形で拡散したことがあった。そのときには、呼んでもいないシナリオライターがどこからかしゃしゃり出てきて、私にとってのその作品の機能的価値を不可逆的に毀損きそんしてしまう事案も経験した。
 少なくとも現時点でそのような事が起きていないという点において、この作品の制作者を評価することができるだろう。

これ以降、僕がその音声作品を鑑賞する際にはあなたの顔が思い浮かびます。どうしてくれる。

 ──もしかすると、この買いものは「シャニマス関連作品ではない」と考える読者もいるかもしれない。しかしその考えは決定的に間違っている。
 まず、本作品の演者は緋田美琴を演じる山根綺さんである。当然シャニマスへの興味の範疇はんちゅうに含まれることは明らかだ。
 次に、アイドルマスターシリーズ自体に音声作品への展開が見込まれるということがある。
 来年2月には、アイドルマスターSideMのイベント「理由(ワケ)あって書店員!Beit in 書泉ブックタワー」が開催される。
 このイベントは日本出版販売株式会社の提供するサービス「ボイスフレンド」との企画であり、場所と音声作品を組み合わせた体験ができるらしい。
 同社の事例紹介を見るにあたり、この「ボイスフレンド」には、かなりの拡張性があるように思われる。

 それだけでなく、今年度、シャニマスのハロウィンにて実装された「2024 アイドルからのイタズラ」は『異世界ささやき(バイノーラル風)』であった。これもた非常に良く、SNSなどでの評判も上々であった。
 私が何を言いたいのか。これ以上の説明は要らないはずだ。


買って、よかった

 今年はシャニマス関連した色々なものを買ってきた。
 購入の動機は様々で、いつも通りに購入したものもあれば、かねてより欲しかったものが偶然製作されたようなものもあるし、製作発表当時から興味のいたものもあったり、誰かが持っているのを見て欲しくなったものもあった。
 そうして、色々なものを買ったように思う。
 当然ながら、なかには期待していたものとは違うものもあれば、手に入れると同時に興味が失せてしまったものも、保存に困って捨てたものもある。
 それでも、いずれも何かしらの面白みがあり、それぞれに楽しむことができた。そういう意味では、今年は買い物に失敗しなかった。
 その理由にはシャニマス関連の物品が概して良いものであったり、それを選べたということも含まれるのだろう。
 そしてそれと同時に、全ての買い物で、買うと決めて買ったという実感もまた重要だったのではないかと思う。
 「自己を破産せしめるもの」として買うものを選んだという意識は、手元にやってきたグッズを楽しもうとする心を支え、更に購入しない未来に関する不要な空想を競合的きょうごうてき阻害そがいした。そのことがいざ品物と向き合う段になって、私を疲れていない状態でいさせてくれたように感じる。
 また破産を念頭に使い切るつもりでいると、それを免罪符めんざいふにどのように使い切れば華々しいかと、あれやこれや妄想を始めることになった。そうするうちに破産という目標に当初抱いていたはずの崇高すうこうさは薄れていき、幸か不幸か、結局破産とは程遠い結果に終わることとなった。

 不思議なことであるが、破産を念頭にグッズを買った結果、良いものを手に入れることができて、楽しめて、支出額も想像していたほどではなかったのである。


おわりに

 本記事では代表として買い物に触れたが、一事が万事、決断においては覚悟の決め方が大切なのだろう。その時点の決断における感性の品質を高めるために、また決断以降の長い時間のために。
 私の2024年は、幸いにしてそうした良い決断が下せた一年であった。
 ただ、ある瞬間の決断が、決断であったことに常に気が付いたわけではなかった。後になってからそのことに気が付いて、しかしながら、やはり元気に対応して、それ以降は気が付くようにするための習慣や規則を設けた。
 例年通り、そういう一年であった。
 例年通り、良い一年であった。
 来年、2025年も、そうした年を送っていこうと思う。
 また、これからの新しい可能性にも期待を込めて。

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