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夏の終わり、人生の節目に聴きたい一曲

片道16時間のドライブ中に聴き続けた曲

2004年の、29歳の夏、波乗り仲間と3人で高知までサーフトリップに出かけたことがある。しかも、車でだ。

友人のノアにボード3枚と適当な荷物を放り込み、片道16時間のロングドライブ。

ちょうど北上する台風とすれ違う形となり、明石大橋は閉鎖されるわ、高知に到着した途端、台風一過の晴天続きで滞在中ずっとベタ凪だわ、5日間ほぼ車中泊だわ、なかなか思い出深いトリップだった。

その車中で、何度となくリピートされていたのが、この曲である。

O.P.KING 「通り過ぎる夏」

奥田民生、Theピーズの大木温之、Pillowsの佐藤シンイチロウ、真心ブラザーズのYO-KINGによる期間限定ユニット「O.P.KINGは、サントリーDAKARAのCMソングを含む8曲入りのアルバムをリリースしていた。

当時すでにメンバーそれぞれが「大御所」だった彼らの楽曲は、全てストレートなロックンロール。まるで練習なしでいきなりセッションしたものを一発録りしたような、ラフでありつつも極上の音を鳴らしていた。

そして、アルバムのラストを飾る一曲が、本稿で紹介する「通り過ぎる夏」である。

大木→YO-KING→奥田→佐藤の順に、16小節ずつをリレーしていくスタイルのこの曲は、メンバーごとにメロディも歌詞も全く違っていて、それぞれの個性が爆発している。

とりわけ、ロードトリップ中の僕らの心に響いたのは、メンバー内で1人だけボーカルが本職ではない佐藤(ドラム)のパートだった。

俺は知らねー 何も聞いてねー
夏の記憶も 風に揺れる葉っぱ?
ぼんやりばっかしてるほど
まだ涙は枯れてねーぞ
温泉行きてーなー 海水浴行きてーなー
来年 40

先にも書いた通り、この曲はメンバーがリレー形式で歌唱するスタイルだ。聴けば分かるのだが、佐藤のパートは、それまで歌われている大木やYO-KING、奥田のパートの歌詞をピックアップして茶化した内容になっている。

しかし、最後の二行だけは佐藤本人の心の叫びであり、それが当時の僕らの心境をリアルに代弁してくれている気がして、ぶっ刺さった。

誰もが通り過ぎる、「人生の夏」

当時の僕らは29(全員同い年だった)。自分たちはもう若くないと思い込んでいた。“人生における盛夏”とも言える二十代が間も無く終わりを告げる夏、こんな行き当たりばったりのトリップができるのも最後かも知れない——僕らは、最後の1行をいつも「来年 30」に変えて口ずさんでいた。

アルバムの中でもとりわけブルージーで気怠いテンポのこの曲は、まさに夏が通り過ぎていく時期に、車窓を流れる田舎の景色にもマッチして、なんとも言えない哀愁を感じたものだ。

そしてその予感は当たり、翌年からはそれぞれが結婚したり、子供が生まれたりといった人生の節目を迎え、3人でつるんで無計画なトリップへ繰り出すこともなくなってしまった。

当時「来年 40」と歌っていた佐藤の歳もはるかに超えた今でも、聴くと無性に当時の仲間とトリップに出たくなる、「夏の思い出」的な一曲である。

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