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第12話 エッセイ『沈丁花のファンファーレ』
「金木犀は高く香り、沈丁花は低く香る」
ある本に出てきた言葉である。小さなラッパのような形の花が、ブーケ状になって咲く沈丁花。好きな花の一つであるため、この一文が印象に残った。
確かに、金木犀は小高木樹であり、沈丁花は低木樹である。香りと出会う位置が違うということか、と、その視点にハッとした。秋に、青く高い空を見上げたとき、ふと金木犀の香りに気づく。また、春めいた日に、足元の小さな若葉が目に入り下を向くと、沈丁花の香りと出会う。そんなイメージが膨らんだ。素敵な表現だなと思った。
しかし、実は、私は逆だった。金木犀は低く香り、沈丁花は高く香っていると感じていた。おそらく、香りをトーンで捉えていたからだ。金木犀の香りのトーンはとろりと甘く低い。一方、沈丁花の香りも確かに甘いが、冴えていて高い。
これが私の、この花たちの印象だった。
沈丁花の開花は、春の花の中でも早い。2月の終わり頃、路地で沈丁花にバッタリ出会う。春を知らせる甘く清々しい薫香は、うっすら溜まった冬の澱を、一気に吹き飛ばしてしてくれる。「そうか、春が始まるのだ」。一瞬で心はときめき、春の宝探しをスタートする。
よく見ると、シロツメグサや、イヌノフグリが、ちらちら風に揺れている。冬の間、無口に気配を消していた梅の枝には、花が膨らみ始めている。やがて、白木蓮、コブシなどの花が現れる。その大きな白い花を身にまとう木に見惚れて、足を止めたりするようになる。暖かい日が増え、ビビットな色彩の三色すみれやミモザが目立ち始めたら、さあ、いよいよ、桜の満開を楽しみに待つ日々がやってくる。
ああ、実に楽しい。春の始まりは、なるべく早いうちに気がついた方が得だなと、いつも感じる。
なるほど、そういうことか。
沈丁花は、低い場所で、高く香る。
足元の若葉も目に入らぬほど、冬の澱を分厚く溜め込んで歩く人もいる。
深くうつむいて歩く彼らのために、沈丁花は春を知らせるファンファーレを高らかに鳴らしているのだ。
(800文字エッセイシリーズ テーマ『春景色』)
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