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第17話 エッセイ『死なないように生きていた』

死なないように生きていた時期がありました。
だから、結局、死んだように生きることになりました。

おそらく、私は幸福だったのでしょう。気に入った仕事に巡り合い、家庭もそれなりに平穏。経験を積んでいい年になり、世の中にそうビクビクすることも減りました。自分が何者なのか分からず、怯えることも無くなりました。
そんな日常に感謝して、静かに眠りにつく日々でした。

しかし…、私は朽ちかけていました。
平和な日々にまどろみながら、どこか生煮えのまま腐食してく内側の気配に、人知れず苦しんでいました。
何をみても、何をしても、かつて夢を追いかけながら貪った、ビビッドな情熱を感じられないのです。
それでも私は、「贅沢な悩みよね」と自分を戒めて、ぼんやりと桃色に霞む日々に甘んじました。



ある日、歌が耳に飛び込みました。「命を使い果たせ」と叫ぶ歌です。
命を使い果たす。衝撃でした。私は命を使い果たしていない、と感じました。
何かを失うことを恐れ、失敗の痛みを恐れました。つまり、傷つかないように、死なないように生きていたのです。
傷つくのを避けて何が人生だ。悲しみは抱きかかえてゆけと、その歌は私をけしかけました。

ビクビクも怯えも、喪失も失敗の痛みも織り込み済みで、情熱のまま踏み出し続ける人生を、つまりは「命」を、私は味わいたがっていることに気がつきました。

死なないように生きるのをやめました。
痛みを避けるようにして生きるのをやめました。

命は守るものではなく、燃やすものだったのです。

fin

(600文字エッセイシリーズ)



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ありのり
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