下山事件の新説:朝鮮戦争を前にした国鉄とアメリカ軍の秘密~NHKスペシャル 未解決事件File10
公務員クエスト失敗おじさんの「ありのこ」です。
2023年に潰瘍性大腸炎という病気(=難病)のため国家公務員を当てもなく退職。
今は無職・無収入でお金はありませんが、時間だけは無限にあります。
時間があるのでいろいろなことを考えていきたいと思います。
2024年3月30日、NHKスペシャルで「未解決事件File10」を放送していました。
第1部がドラマ、第2部がドキュメンタリーの2部構成でした。
下山事件がGHQの占領下に起きた事件であることは説明されていました。
しかし今や「国鉄」の説明も必要かもしれません。
45才の私が子どもの頃には「国鉄」がありました。
しかし若い方は生まれたころから「JR」だったわけです。
国鉄という組織を殺したのは中曽根(なかそね)総理大臣です。
1987年に「国鉄分割民営化」とかなり大きく騒がれてましたから。
国鉄という組織を殺したのは中曽根総理ですが「1949年に国鉄総裁という個人を殺したのは誰か?」という謎が残ったままです。
いや「国鉄総裁は殺されたのか?それとも自殺なのか?」すら分かっていません。
以下はNHK「未解決事件」のサイトの引用です。
・従来の下山事件解説
今まで下山事件はどのように説明されていたのでしょうか?
部屋の本棚にある本を見てみましょう。
関係ありそうな本は2冊ありました。
まずは池上彰・佐藤優「真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960」。
この本でで山下事件の部分を読んでみると
「これが、自殺なのか他殺だったのか、永遠の謎ですが、」(p118)とあります。
この本で佐藤優氏は1945年に共産党が「民主人民政権はいまや現実の問題になった」「9月までに吉田内閣を打倒し民主人民政府を成立する」などと言い出したことを重視しています。
このような筋道を立てています。
当局は他の「三鷹事件」「松川事件」を含めて3つの事件がいずれも共産党の仕業であると発表し、共産党は急速に退潮していく。
このことを佐藤優氏は指摘しています。
別の本を見てみましょう。
福井紳一「戦後史をよみなおす 駿台予備校戦後日本史講義録」という本です。
福井紳一氏は駿台の人気講師です。
日本史の講師で主に明治時代以降を担当しています。
私も駿台で教わったことがありますが、かなりの「左派」です。
(ただし左派の思想を生徒に押し付けてくることはありません。左派の思想は語りますが)
この本では
と書いています。
山下事件の前後の文脈も「公務員の大量解雇」とか「共産党系の労組を潰したかっため、別の労働組合・産別ができた」とか労働組合を潰すことに力点を置いています。
佐藤優氏の説明では山下事件は「共産主義革命・共産党」をターゲットした事件だというニュアンスに感じます。
福井紳一氏の説明で下山事件は「労働運動・労働組合」をターゲットにした事件だというニュアンスに感じます。
共産党と労働組合を分けるのは難しいですし、下山事件は未解決事件なのでどちらの本も下山事件のことを明確には書いていません。
だから「ニュアンスをどう感じ取るか」という微妙な問題なのですが。
先の2つの本で挙げた通り、下山事件=殺人説を取る場合「山下事件は共産党や労働組合を潰すためじゃないか?」というのが多数説でした。
前置きが長くなりました。
NHKの「未解決事件File10 山下事件」に話を戻しましょう。
・NHKスペシャル「未解決事件File10」が出した下山事件の新説
おそらく番組はこの新説を一番言いたかったのではないでしょうか?
新説は
朝鮮戦争が起こった場合、国鉄の輸送網をアメリカ軍が使いたかったから
という衝撃的なものです。
簡単に言えば「国鉄はアメリカ軍に協力しろ」ということですね。
朝鮮戦争が起こるのは下山事件の約1年後です。
しかしアメリカは朝鮮戦争が起こる(朝鮮戦争を起こす?)ことを想定していた。
アメリカは「有事の際に国鉄はアメリカ軍に協力する」ように山下総裁に言ったが、下山総裁は抵抗した。
これが下山総裁が殺害された原因だと。
最初に1987年の国鉄分割民営化のことを書きました。
国鉄「分割」民営化。
そう、国鉄は分割されるまではデカかったのです。
日本「全国」の「旅客事業」も「貨物事業」も担っていたのです。
この巨大な鉄道網を朝鮮戦争に時にアメリカ軍は使いたかった。
そして実際に朝鮮戦争の時に、アメリカ軍は国鉄を物資・兵士の輸送に使います。
もし下山総裁がアメリカ軍への協力を拒んで政治問題化するのはアメリカにとってかなり嫌だったでしょう。
占領下とは言え日本国憲法はすでに施行しています。
大多数の国民にとって平和憲法(特に第9条)は受け入れられていました。
右だろうが左だろうが、思想を持っていない人だろうが、大多数の国民は「戦争はこりごりだ」と思っていた時代です。
右側だろうが左側だろうが大多数の国民に「戦争に協力する」こと自体にアレルギーがあったはずです。
共産党や労働組合がどうこうよりもアメリカにとってすさまじいダメージとなりかねません。
国民世論がソ連を味方するとは限りませんが、反米になる危険性は高かったと思います。
「とにかく戦争だけはイヤだ」の日本国民の民意はすさまじく「戦争に露骨に協力するのもイヤ」だった。
ただしこの新説は児玉誉士夫氏がこのように言っていたらしいということだけなのです。
児玉誉士夫氏と言っても若い人は名前を聞いたことがないでしょうし・・・45才のおじさん(=私)ですら「怪しい人」という印象しかありません。
「大物フィクサー」という謎の呼称で呼ばれていたのを記憶しています。
NHKが出した新説は「児玉誉士夫がそう言っていた」という証言しか証拠がありません。
もっと正確に言えば「児玉誉士夫がそう言っていた」と聞いた人はもうすでに亡くなっています。
NHKが出した新説はかなり根拠が弱い。
新説の痛いところです。
note記事は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
現在、私は潰瘍性大腸炎という難病のため無職・無収入です。
皆さまの応援があると非常に助かります。