悲しいことがあった私はうちの猫のことを書く

悲しいことがあって仕事を早退して、昼間からリビングに寝転んで、こたつ布団にくるまった。

なぜこんな季節にリビングにペッとこたつ布団が置いてあるのかというと、今年の春先にこたつをしまった時に、こたつ布団、洗う?クリーニング出す?干すだけでよしとする?うーんやっぱり水洗いしてから仕舞いたいよね...とか言いながら、こたつ布団は畳んでその辺に置いておいて、そのまんま今になったワン。

悲しいことがあって早退した時、厚くて重たい布にスッポリ覆われるといいのは常識なので、今日はそのこたつ布団の出番になった。

グズグズと泣きながらこたつ布団をえっちらおっちら開いて、かむると、2頭の同居猫がワラワラワラ...と近づいてきた。そしてザワ...ザワ...って書き文字が見えそうな態度でスンスンスン、フンフンフン、ソワソワソワっと、こたつ布団を点検した。

自分がくるまってるこたつ布団を猫が点検しにくるやつ体験したことがありますか?

すっごい、いいんだ

入りたいのかなーと思って、布団めくったりすると、猫ってその隙間に小こいお鼻先だけ突っ込んで、入...入...入.....らないわ。って言う。

分厚い布の表面を、小こいお手手で、シャカーシャカーシャカーってやるから、乗る?って聞くと、乗...乗...乗......らないな。って言う。

そんでワラワラワラ...と三々五々、自由解散といった趣でどっか行っちゃう。

私は泣き止んだ。とりあえずは。

うちの2頭の猫のうち1頭は、私のことを好き過ぎておかしい猫だ。家の中で常に私のいるエリアにいる。私が移動すればついてくる。私が起きると一緒に起きる。私が寝転ぶととりあえずはお腹を踏む。熟睡してるとき、一緒に猫が寝てるのに気が付かないことがある。うっかり蹴飛ばしてしまうことがある。うっかり猫を蹴飛ばすと私はどんなに熟睡しててもすぐに覚醒する仕様になってる。バッと起き上がり、猫の安否を確認する。

人間にに間違えて脚をぶつけられた時、普通の猫は逃げる。ピューって逃げる。脱兎より脱兎なことは猫と暮らす人間の常識だ。だけど私のことを好き過ぎておかしい猫は、私にぶつかられると、その場で目をまん丸くしたままどこにも行かない。


「痛い!謝る?謝りたいよね?謝っていいよ!」

と言っているのだ。私にぶつかられると、次には私の「ごめんね」が来るのが当然だと思っていて、それを待ってくれるのだ。私は「ごめんね。間違えてぶつけてごめんね」といい、ぶつけたところを撫でる。すると猫は「いいよ!痛かったけど、いいよ!」と言って私のおなかを踏み始める。

もう一頭の方の猫は、うっかりぶつかられるほどには人間の周りで気を許さない。くっつくし、お腹も見せてくれるのだが、最後の警戒心の砦は残しておいて、ぶつかられそうになると脱兎になる。こちらもこの体格差で大事な猫にぶつかりたくはないので、猫側の技量でぶつかりを避けてくれるのは助かるところがある。だけど私を好き過ぎておかしい方の猫は、熟睡中の私に近づき過ぎたばかりに、私の寝相で何度アイタな目に遭っても、へっちゃらで私と寝る。

私を好き過ぎておかしい方の猫は、ボール遊びでテンションが上がり過ぎて大きい声を出し過ぎることがある。ある程度黙認するが、気候がよくて窓を開けている時はご近所に悪いからなぁとか、窓を閉め切って外部に声が聞こえる心配がなくとも、普通にわたし眠いから静かな方がいいなぁとかの事情で、ボールを取り上げることがある。取り上げたら、戸棚にしまっちゃう。

すると猫は、「あれ?今猫が遊んでたボール知らない?」と私に聞いてくる。

最初これに気づいた時、驚いた。

巧妙な手口で、私の犯行と分からぬようにこっそりと取り上げているわけじゃない。

猫の見ている前で、なんなら、猫の目を見て「ごめんね、おしまいしてね」とか声をかけながら、取り上げている。でも猫は、そうやって私が取り上げたボールが消えた理由が不思議で、私に質問してくる。

多分なのだが猫は「猫が大好きなこのボールで猫が楽しく遊んでいるのに、猫が大好きなこの人間がそれをやめさせるわけはないもんなぁ....ということは、さっきまで遊んでいたボールが消えたのは、不思議や不思議、神隠しの類なのでしょう。人間に頼んで一緒に探してもらおう」と思っている。

かわいい。かわいい。かわいいよー

多分自分の猫語解釈は合っているだろうと思っている、思いたい。

この猫が時々、家に迷い込んだ小さな虫さんを見つけてジーッと見つめていることがある。猫、しばらく小さい虫を見つめた末に、目を閉じて勇気を出して、エイって、小さい虫に、自分の小さい鼻をぶつける。すると猫の濡れたお鼻に小虫がくっつく。猫は流れるような仕草で小虫をペロリんと舐め取っちゃう。南無拝、安らかなれ小虫さん。なんだけど猫は自分が小虫を食した自覚がなく、「なんか鼻についた、掃除掃除〜ペロン。よし。引き続き虫さんを観察〜」と言い、そしていなくなった小虫を延々探し続けたりする。

もしかして私が猫について、私のことを好き過ぎてやっているんだなと解釈している行動は、もしかして、私を好きだからじゃなくて、この猫が度を超してオットリしているだけなのかもしれない。

それならばそれもまたよしだ。
悲しいことがあったけど、この猫のこと書いてるのは、少し楽。


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