小説 勝った日、負けた日、進む日
ピィーーー!体育館に音が鳴り響いた。相手チームのサーブミスにより、あっけなく終わった準決勝だった。仲間は驚く半面、とてもうれしそうだった。とくに三年は決勝に進めたことが何よりうれしいことか。
相手のサーバーは騒然とネットの先の先の‥‥どこまでも遠くを見つめていた。周りは励ましている様子だけど、そんなの耳に入るはずないだろう。
そんな、サーバーの子なんて、審判は気にせず、挨拶をするように指示をだす。
その子は泣かずに、拳を握りしめていた。
強いんだ、心が、
小さく呟いた私の声は誰にも掬ってもらえなかった。
次の日、私たちは決勝にすすんだ。観客席を見ると昨日戦ったチームの人たちが私たちのコートを見ていた。その中にはちゃんとあの時のサーバーの子がいた。それを知って、私は思わず、観客席から目を外した。
決勝戦なのでコートは一個だけ。みんなの視線が私たちに集まる。
「じゃあ、話します。相手のチームは強いです。全国の常連です。でも、きょう、私たちが止めましょう!今までそれぞれが積み上げたものがあります。それを強敵に見せつけてやりなさい。」
監督が力強い声で言った。
はい!
決勝戦は5セット。先に3セットとった方の勝ちだ。もしかしたら、全部のセットを取られてしまうかもしれない。でも、私たちが奮闘するのにはかわりない。
ピーーーー!
よろしくお願いします!
試合が始まる。
最初のサーブが進み、試合がどんどん流れるように進む。
1セット目、25ー20で私たちが敗れた。
「大丈夫、大丈夫ー」
主将がそう言って、周りをはげますけど、みんなのテンションはさがり気味。でも監督の一声で変わった。
「なーに、たかが1セットでなに、落ち込んでんの。つぎ、絶対取りな」
強い口調に聞こえるけど優しい気持ちが混じっていることはチームメイトは知っている。
ピーーー!
二セット目が始まり、
終わる。
2セット目、私たちは25-23でギリギリだが、勝った。
そんなことを繰り返し、もう4セット。2-1で負けてしまっている。このセットで落としたらおわり。三年生にとっては公式戦は本当に終わりになってしまう。そうはさせない。
24-23。そのときに私のサーブが来た。
あの子のような状況と言っていいだろう。
もう私の視線はボールだけど、思考は相手のコートのどこに落とすか、何のサーブで行くべきか、そんなことを考えている。
チラリと観客席を見た。すると昨日戦ったチームのあの子が手すりに身を乗り出して、真剣に私のことを見ていた。まるで、「今度、あの人のサーブをれんしゅうしようかな」とでも思っているかの様子だ。
私はまた、視線をボールに戻す。審判のサインが入る。
ボールを投げて
とぶ。
ジャンプサーブだ。
手がボールに浸透するような感覚が来た。
今だ。
力強く、ボールを投げ落とした。
バンッ!!
大きな衝撃音と共にボールが跳ね返った様子がうかがえた。
立ち上がり、コートを見ると、相手はまだ騒然としていて驚きを隠せていなかった。
私自身をこれは自分の身体なのかと疑い始めた。
信じられない。
仲間が駆けよって賞賛を浴びる。
デュースだ。
❁❁❁
結局、あの後、4セットのデュースにより私たちのチームは敗れた。3年生の先輩は泣きじゃくっている。私も泣く。
でも、昨日のあの子のことを思い出せば涙はすぐに引っ込んだ。
挨拶が終わりタオルできちんと汗を拭く。
ロッカーで着替えた後、私はあの子に会いに行く。
私のサーブの時に力強い「がんばれ」が聞こえたから。
私は進まないといけない。
完
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