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エビとトマトと水耕栽培
2023/10/20
琵琶湖アクアポニックス、それは井戸水を給水しながら高効率な設備を独自設計し、オーガニックなトマトの栽培、オニテナガエビの養殖を行なっている水耕栽培農場。
かつては消防設備の会社が運営していたこの施設は、農業だけではなかなか採算が合わない現実に立ち向かい、独自の産業化を模索しているのだ。
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このアクアポニックス農場では、トマトやバジルなどが栽培され、食育にも力を入れている。彼らの特異な点は、直売で販売しているが、卸売は行わないこと。また、小学校や中学校の修学旅行など、団体様からの訪問も平日に合わせて受け入れている。
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農場内にはいくつかのラボがあり、それぞれ異なる用途である。
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Base Labにはカフェスペースと直売所があり、農地レストランでは植物の栽培を行っている。
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Forest Labでは、トマトやキュウリなど、数多くの植物が栽培され、1株で5万粒のトマトを目指すギネス記録にも挑戦している。
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水耕栽培はまだ歴史が浅く、ノウハウもないため、フウセンカヅラ、バターナッツなどトマト以外の植物が水耕栽培に適しているのが常に試行錯誤も行なっている。
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さらにRainbow Labには505本もの白いパイプが立ち、2,3000本以上のトマトが生育している。Earth Labでは50匹の魚が飼育されている。しかし、それでは栽培されている植物の栄養が賄えないため、Birth Labで井戸水を供給し、1000匹以上の魚を通した栄養分ある水を農場に行き渡らせている。フンを多く出す鯉や金魚などの場合、個体数は少なくて済むが、エビはそこまで多くないため、多く必要とする。農場内にはプールも設置されている。
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水耕栽培の場合、気温が直に水温に反映されるため、植物や季節によって、栽培方法や野菜の品種を変えている。トマトには縦型の水耕栽培が行われ、胡瓜には横型の水耕栽培が採用されている。
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さらに、各植物の根っこの違いに合わせてパイプの配置も調整される。夏場にはスイカとメロンが育てられる。 水耕栽培の場合、アメリカや地中海地方など気温の変化が少ないところで開発された。そのため、四季のある日本においてはそのノウハウはまだ整っていない。さらに、農家や養殖漁業から苗や魚を仕入れることはできるが、そのノウハウを教えてもらうことはできない。そのため、地道に試行錯誤を繰り返しながら、方法論を編み出していく必要がある。
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水耕栽培は一般的な栽培方法より、4倍も速く育てることが出来る。農場内では、水の循環方法に工夫が施されている。夏場は高温になるため、水中の酸素が少なくなる。さらに水中のバクテリアも酸素を消費するため、水中への酸素供給が必然となる。その仕組みとして、凹凸のある箇所が点在しているパイプに勾配をつけることで、水を空気中の酸素に触れさせる仕組みが実施されている。現在は秋キュウリに植え替えたばかりであまり実はなっていないが、夏場には最大3000本のキュウリが収穫される。
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児玉スイカやメロンなど、水分調整が必要な植物も栽培している。一般的な機械をほとんど用いずに、ポンプなど最低限の装置を用いてコストを抑えている点が特徴です。また、屋根には35年以上も持続するAGCの特殊なフィルムが使用され、太陽光を効果的に利用している。
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ロックウールが土の代わりになる。裸の根がパイプの中でぶら下がっている。
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この農場はバリアフリーの考え方に基づき、車椅子の方も受け入れられるよう広い通路に設計されている。
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植物の受粉作業においても、農薬を使っていないと謳うため、蜂ではなく(農業界の闇で蜂を入れたら農薬が入っているとなってしまう)、パイプを揺らすことで受粉させている。二酸化炭素発生器を活用しておらず、人の呼吸で二酸化炭素を賄っている。例えば、SDGsと絡めながら、小学生に食育をすること、二酸化炭素も補っている。一般的な農家で、二酸化炭素発生器を使用する理由は、農家は年中同じ出荷量を求めるからだ。
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また、バジルとトマトなど、相性の良い植物(コンパニオンプランツ)を一緒に植えることで、栄養バランスが整い、防虫対策にもつながる。その理由は、窒素が多すぎると実はつけないのに個体が大きく成長してしまうが、バジルはその窒素を吸収してくれるためバランスが整う。バジルは育てやすいが、虫がつきやすい。しかし、トマトと一緒に植えることで、バジルが身代わりになることで、トマトに虫がつかなくなるのだ。根が大きくなりすぎるとパイプや容器が詰まってしまうため、定期的な植え替えが必要とのこと。
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また、パイプの中を高圧洗浄することも必要である。水耕栽培でも菌が繁殖する。その水を全て入れ替えないと菌を除去できないため、接木苗を使用して菌の影響を抑えている。接木はトマトにも適用可能で、栽培期間を延ばすのに役立つ。根が広がる土台を提供し、冬でも安定した出荷量を維持できる。接木は年に3回行われ、コスト的には変わらないとのこと。ただし、根切りは実をつける植物には適していない。
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トマトの糖度を上げるために、点滴を用いて、根に滴る程度の水を与える。こうすることで、植物に常にストレスをかけ続けることができる。この地域には15度以上の寒暖差があるため、糖度につながる。また、苔が過度に成長すると苔が栄養を吸収してしまう。さらに水分が全体に行き渡らず、根腐れや夏場の高温障害が起こることがある。スポンジと水を使って苗を発芽させている。種子を一回冷凍庫に入れた後、外に出すと、苗が冬から春になったと勘違いする。大きい植物になると種子が硬くて突き破りにくい場合もある。
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オニテナガエビは、青く、30cmまで大きくなるとのこと。エビなどの魚類のフンを栄養分として、野菜に供給される循環システムである。オニテナガエビの飼育において、水流を左回りに保ち(自然の摂理)、エビをずっと泳がしている。そうすることで、より身を引き締められる。
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またオニテナガエビは、飼育が他の魚と比べて難しい。具体的には、水質が良くなかったら、脱皮不全に陥る可能性もある。脱皮後、数分間動けなくなるため、他のオニテナガエビの個体に食べられる=共食いも発生する。卵を孵化させるのに海水で行う必要があるため、他の塩が入った水槽に移す手間も生じる。トマトが好むpHとエビが好むpHが異なる点も管理が難しい。 同じ水槽にグッピーを入れている理由は、グッピーは最初に死んでいく→水質の目印となるためだ。
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ランチには、栽培されているトマトとキュウリのサラダと鴨肉ハンバーグのランチプレートをいただいた。ついでに琵琶湖ビールも。
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この水耕栽培農場は、独自の方法でエビと野菜を組み合わせ、効率的な農業を実現しようとする試みの一つであり、環境に配慮しつつ、新しい可能性を探る場所と言えるだろう。琵琶湖アクアポニックスでの一日は、植物の成長に関する様々な工夫や課題について学びの多いものだった。
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