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視覚の傀儡師

2023/10/22

デイヴィッドホックニー展に行ってきた。場所は東京都現代美術館である。

ホックニーは60年以上にわたり、絵画、ドローイング、版画、写真、舞台芸術といった分野で多彩な作品を発表し続けてきました。本展は、イギリス各地とロサンゼルスで制作された多数の代表作に加えて、近年の風景画の傑作〈春の到来〉シリーズやCOVID-19によるロックダウン中にiPadで描かれた全長90メートルにもおよぶ新作まで120点余の作品によって、ホックニーの世界を体感できる機会となるでしょう。

https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/hockney/index.html

ホックニーが美術に対して様々な視座から向き合ってきたことを、各章で丁寧に紹介している。残念ながら、写真撮影は一部のみ。

とにかく色鮮やかで一目見て、美しいと感じさせる。構図も視線誘導させるように、1つの絵なのにも関わらず、その細部に視点を向けてしまう。おそらく意図的に誘導さえるよう設計したのであろう。
例えば、作品《ジョージ・ローソンとウェイン・スリープ》。右端に多くの余白を設け、最初に左側に視線が向く。しかし、よく見ると、二人の登場人物の視点はお互い交差していない。老人は窓の外、青年は老人を見ている。その視線の先に余白だった部屋の隅がある。その現実世界では目にすることができない不思議な光景が「美」とともに鎮座している点が特徴的だと考える。

作品《クラーク夫妻とパーシー》から読み取れることは空間の歪みである。2次元面に異なるパースのピースが局所的にちりばめられ、1つのパズルを組み立てているようだ。

《スタジオにて、2017年12月》は、ホックニーが今までに描いた作品を「絵の中の絵」にしている。パースペクティブを複雑にずらしながら鑑賞者の視点を錯綜させるテクニカルな構図、写真を絵画に切り貼りしている技法などどことなく「集大成」と感じさせる。本作は、パノラマであるが、まるで本作が空間の延長線上にあるかのように思わせる。しかし、その空間は現実ではありえない接続を可能にしている。

第7章「春の到来、イースト・ヨークシャー」から写真撮影が可能となる。ここでは、32枚組のキャンバスによる大型の油彩画1点と大判サイズのiPad作品12点を展示している。

以下は、絵巻物のようになっている作品だ。この作品は、コロナ禍においてホックニーが自らの周囲の風景を見つめながら描いたもの。鑑賞者は作品に沿って歩きながら、その景色のなかに自ら入り込むような体験ができる。

展示会では、iPadで作品を作る過程も鑑賞することができた。全くレイヤーを使わないその軽やかなタッチは、見ているだけで心が和む。
身の回りにあるものをモチーフとし、その魅力を様々なフィルターを通してみている世界を2次元に描き起こしているようだ。

視覚を自由自在に操り、私たちをホックニーの世界へいざなう。その姿はまるで「視覚の傀儡師」であるかのように見える。

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