【展覧会レポート】風と共に舞う線:カルダー展
7/9(火) 18:30~19:30
今回は専門スタッフが展示室内で解説をしてくれるギャラリーツアーに参加した。たまたま友人から学芸員の解説付きの会があるという連絡を受け、その場で予約した。
解説は約30分程度で終了したが、キュレーションの視点から解説してくれた。
展覧会ツアー | SPECIAL | 麻布台ヒルズ ギャラリー カルダー:そよぐ、感じる、日本 (azabudai-hills.com)
アレクサンダー・カルダーについて
アレクサンダー・カルダーはアメリカ生まれのアーティストで、美術の発展において重要な役割を果たした。特に「モビール」で知られ、彫刻の概念を覆す作品を数多く制作を行った。従来の彫刻作品が固定され、動かないものであったのに対し、カルダーは風や人の触れ合い、環境の変化を作品に取り入れ、従来の考え方を覆した。
さて、ここから解説してくれた順通りにレポートにまとめていこうと思う。
最初にお出迎えしてくれた作品はこちら。よくみれば尻尾がある。まるでドラゴンみたいだな~と思っていたら本当にドラゴンだった。
この展覧会は基本的に年代順にカルダーの作品を紹介している(多少外れた作品もある)。これまで美術館で公開したことがない作品も含まれており、カルダーのお孫さんが日本の皆様に特別にお見せするということで選んだそうだ。東京でのカルダー展は35年ぶりとなり、カルダー財団にとっても非常に重要な展覧会となっている。
カルダーのモビールには3種類がある。
スタンディングモビール:固定されているが、動く要素を持つ作品。
天井モビール: 天井から吊るされるモビール。
スタビル: 地面に設置されるモビール。
これらの作品は限られた線で描かれ、繊細なバランスによって成り立っている。
カルダーのモビールは元々個人のリビングに置くことを想定し、目線の前に吊るされた作品を押して通ることで、インタラクティブな体験を考えていたそうだ。現在ではインタラクティブアートは一般的だが、カルダーの時代には外部からの影響を受けない作品が主流だった。
ビングをイメージした空間設計が独特だった。まるでIKEAのショーケースみたいだなと感じた。
カルダーは多くのアーティストのようなコンセプトを考えて、作品制作を始めるのではなく、アトリエでブリキを切りながら考えて制作する直感的なアプローチだった。
黒と赤の形が日本の扇のように見える非対称のものもあり、これに美を認めるカルダーの感性が反映されている。カルダー自身は日本に来たことはなかったが、彼の親が日本の作品を持っていたため幼少期から日本の美学に触れていたことが伺える。
ちなみに、お値段はビルが1棟買えるぐらい高いとのこと。
黒い和紙で囲まれた空間。什器までもが和紙。今までに類を見ない斬新な空間設計だなと感じた。
黄色の地に黒が図として描かれた作品。この作品は、彫刻が1枚の絵画のように見えるもので、図が動くことで生まれる美しさを表現している。
展覧会冒頭で展示されていた作品の中に移っていた作品のひとつ。カルダーには子供向けのワークショップのオファーも来ていた。だが、モビールを作るのはダメだったとのこと。学芸員の個人的な見解として誰でもできてしまうのではないか…考え。もしこれが本当だったらかなりお茶目。
ジブリに出てきたそうなキャラクター。
大きな黒いクリスマスツリーに見える。カルダーの黒はかっこいいけどなぜか不気味だなーって感じてしまう。
モビールはその動きもだが、影が美しい。両者がともにダンスをしているみたいだ。動的で有機的なモビールと静的で人工的な四角い絵画作品の組み合わせは非対称的だが不思議なバランスが存在している。
映像作品もある。音楽はジョン・ケージが担当したとのこと。
大型作品の先駆けとなった作品。
マティスの切り絵の作品みたいに人工物と自然物を組み合わせたようなフォルム。完全に直線ではない点がやや不思議な感覚に陥る。ちょっと紙にも見える。
この作品はよく見ると、小さな穴が開いている。この作品は穴が開いている状態の木版に絵を描いたとのこと。ブラジルに別の作品を送った時に用いられた木箱だそうだ。この穴は輸送の際、その木箱を固定するために開けられた穴であり、ブラジルの展覧会に出した作品に呼応している点が魅力的。
ナイトメアー・ビフォア・クリスマスも出てきそうなくるくる。
終盤にかけて、モビールの板がどんどん薄くなっていく。その理由として戦時中のため物資不足だったことが起因している。
色は傷など多少の修復は入っていたが、当時の色のまま。
このいかにもリサイクルされた褐色の壁紙とやや光沢のある銀色の文字の組み合わせが新鮮。とてもかっこいい。
最後に面白話として、一般的に作品を空輸する場合、保険の関係で1機のカーゴ便に載せることができる作品の総金額が決まっている。カルダーの作品の場合、作品1つの金額が高すぎて作品1つで上限値にいってしまう。そのため、1機のカーゴ便にカルダーの作品1つということも発生していたそうだ。高い買い物は輸送費でも高いことを痛感するお話だった…。