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使い続ける展 2024 / MUGE

展覧会概要

  • 会期:2024年9月28日~10月6日

  • 会場:京都建仁寺両足院

  • テーマ:「融通無碍(ゆうずうむげ)」- すべてのものが調和し合って融合すること

会場入り口、シンプルなポスターが目に入る

2024年のポイント

昨年度は掃除機や冷蔵庫など具体的な家電のプロトタイプだったが本年度は抽象的なプロトタイプにしていた。そうすることで鑑賞者に考える余白が増え、自分だけの解釈がより生まれる。

展示内容

構造として柔軟に組み替えるものが多い印象。 人と家電の関係を、もっと柔軟でオープンなものとして捉えなおすことで、使い続ける新しいかたちを提案している。

響 - KYO -

  • 振動スピーカーを用いた柔軟な構造のオーディオ。


  • 建築の古材や欠損のある木材から再生した木をパネル状にして使用している。

  • 接着剤や釘を使っていないため、組み合わせ方も自由。それによって音質も変わる。

  • 分解や修理、アップデートを気軽に行うことができる。

  • 経年による音や外観のエイジングを楽しむことも可能。

  • サイズ感に関しても来場者と会話があったそうだ。大きいほうがインテリアとして最適、小さいほうが机の上にもおけるなど。


雲 - UN -

  • モジュール型冷蔵庫

  • 野菜や果物、調味料など、最適な温度によってボックスを分けることができ、必要に応じて増やしたり減らしたりボックス数を調節することが可能。

  • コンセプトモデルのため機能は実装していないが、技術的には実現する見込みが高い。

  • 会場ではみかんと柿、お茶が見本として出されていた。話を聞くと、果物は育った環境の温度のまま保存するのが良いとのこと。そのため従来の冷蔵庫の温度は果物に適していない。

  • 冷蔵庫を椅子など家具に見立てる意見もあったのこと。

泉 - SEN -

  • フィルターを主役にした空気清浄機

  • 国産の樹木から生まれたファブリックデザイン

  • 梁から吊り下げる方式。錘をつけることで重心を調整。

  • ファンとファブリック、接合部、錘と、簡易的な構造。金属の接合部の折れもファンのとりつける位置を調節するため。

  • ファンは露出しているが、触ってみても少し痛いと感じるぐらい。けどちょっと危ないかも。

  • 有機的な素材と木目調のパターンにより、建築空間との一体感を生み出している。このパターンは職人の個性が反映しているそうだ。左3つは木材、右は銅を用いている。

  • 光の反射や角度によって様々な表情を見せる、動的な作品である。

寿 - JU -

  • 竹で作られた筒状のパッケージと再生素材で作られた布状の風呂敷。木の切れ端や間伐材、建築の古材を用いている。

  • 竹が余っている背景から着想を得たそうだ。同様に不要な木材を有効活用。

  • 元々竹は水筒としても使用されてきた経緯があり、それを現代のライフスタイルに昇華。穴をあけることで空気清浄機としても使える可能性(中に入れたテキスタイルがフィルター代わりになる)。

  • 竹は乾燥によって割れてしまうとのこと。筒状に穴をあけた数日後に割れてしまったらしい。節と節があれば強度はあがる。

  • ファブリックは常にプロダクトの近くに置いておくことで拭う行為を誘発している。


展示空間について

古き良き日本家屋を活用した展示空間は、畳敷きの和室を基調とし、伝統的な建築様式と現代的なデザインの調和が印象的。空間全体が非常に丁寧に整えられており、展示品と建築物が見事に融合していた。

特に訪問した時は小雨が降っていたため、陰影が印象的だった。

「露」:自然と解体された部品が融合した作品

障子越しの光が印象的な空間に、苔や植物、金属製の造形物(エアコンの室外機に使用されていた銅と真鍮の冷媒配管)を組み合わせた作品が展示されていた。錆びた金属の質感と生命力溢れる緑の対比が印象的だ。 展示会場ではこれが作品だと気づかなかったが、これも「露」という作品だそうだ。その意味は、禅宗では、むき出しになった本質だそうだ。「新しい製品へと生まれ変わる前の一瞬、むき出しになった素材の本質的な美しさを味わってもらうことを意図しているという。


使い続ける展のつぶやき

和紙のような質感の黒いパネルが、畳の上に静かに佇んでいる。美しい空間だ。けれど、その美しさゆえに、少し歯がゆい思いも残った。

展示解説を読もうとしゃがみ込んだとき、「あぁ、もう少し違う置き方があったのでは」と考えてしまう。確かに床に直置きされた解説パネルは、空間の佇まいを壊さない配慮なのだろう。でも、来場者の立場からすると、もう一歩踏み込んだ工夫が欲しかった。

「響」という漢字一文字が印象的な作品の前で立ち止まる。美しい文字だ。けれど、その意味するところは、説明を読んでもすぐには飲み込めない。もし小さなスケッチや図解があれば、もっと直感的に理解できたかもしれない。

結局のところ、展示とは対話なのだと思う。作品と観客の、静かでも確かな対話。その架け橋となる解説の在り方を、もう少し考えてみても良いのではないか。ただし、その工夫は決して押しつけがましいものであってはならない。

大河原克行のNewsInsight(330) 「使い続ける」を「文化」に、パナソニック「→使い続ける展 2024 / MUGE」を見る | マイナビニュース (mynavi.jp)

最後に

本展示は、単なる製品展示会を超えて、より深い文化的な対話を試みる意欲的なプロジェクトだと感じた。
「融通無碍」というコンセプトの下、伝統と現代、自然と人工、製品と空間といった異なる要素の調和を探求する意欲的な展示だった。特に展示空間自体の美しさと、各作品との調和が印象的だ。
様々なお客様に見て、感じて、一緒に考えてもらうきっかけになるコンセプトは強く感じた。共感や意見をもらいながら、展覧会自体も変化しつづけ、「つながり続ける」と考える。

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