ペヤングやりすぎ伝説
ペヤングの奇抜な商品開発とサンクコストバイアス
ペヤングといえば、定番のソースやきそばを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、近年は「激辛やきそば」や「アパ社長カレー味やきそば」など、奇抜な新商品が毎週のように発売されています。
これらの商品は一見、やりすぎに見えるかもしれませんが、実は無難であることを恐れないチャレンジ精神に基づくマーケティング戦略なのです。
その背景には、行動経済学のサンクコストバイアスという概念が関係しています。
サンクコストバイアスとは
サンクコストバイアスは、埋没費用とも呼ばれ、すでに発生していて取り消せない事柄のコストに気を取られ、合理的な判断ができなくなる心理傾向のことです。
例えば、UFOキャッチャーで商品よりお金を多く払ってしまったと分かっているのにここまで来たから止められないという心理状態などがそれに当てはまります。
サンクコストバイアスは一種の認知バイアスで、情報を誤って解釈し、意思決定に影響を与えてしまう思考のエラーです。
サンクコストバイアスに陥ると、自分に利益をもたらさない不合理な判断で、さらに深みへとはまり込んでしまいます。
サンクコストバイアスを打破する商品開発
ペヤングの商品開発は、サンクコストバイアスに惑わされず、固定概念を捨て新しい味に挑戦し続けることが躍進の原動力となっています。
その証拠に、ペヤングの新商品はほとんどが期間限定で販売されており、定番商品として定着するものはほとんどありません。
これは、過去の成功体験や失敗体験に囚われず、常に新しい市場ニーズや消費者心理を探求しているからです。
ペヤングの新商品開発の背景には、社長の丸橋嘉一氏のアイデアマンぶりがあります。
丸橋氏は、「世間をにぎわすブームは盛り上がった後に冷め、時間を空けて再び盛り上がる」という考え方を持っており、「激辛は絶対にブームが再来するから作ってみよう」と言って2012年に「ペヤング 激辛やきそば」を発売しました。
この商品はあまりに辛過ぎる味が話題になり大ヒット。
以降、ペヤングは毎週のように新商品を発売するようになりました。
ペヤングの新商品は、一見奇抜でも消費者の興味や好奇心を引くものばかりです。
例えば、「ペヤング アパ社長カレー味やきそば」は、アパホテルの「アパ社長カレー」を再現したコラボ商品で、社長である元谷芙美子氏の顔写真を大きく印刷したパッケージも話題になりました。
「ペヤング わらじかつ風やきそば」は、福島県郡山市名物「わらじかつ」をインスパイアした商品で、地域活性化にも貢献しました。
「ペヤング イカトパスやきそば」は、「イカトパス」という造語から想像する味が分からないという不思議感が注目されました。
これらの商品は、消費者に新鮮な驚きや楽しさを提供するだけでなく、SNSで拡散されやすくメディア露出も多くなるため、ブランド認知度や購買意欲も高めます。
また、期間限定で販売することで希少性も演出し、消費者の購入行動を促しています。
ペヤングの成功方程式
ペヤングの成功方程式は、「無難であることを恐れないチャレンジ精神」と「綿密な戦略」です。
無難であることを恐れるということは、サンクコストバイアスに陥らないということ。
過去の投資や結果に囚われず、常に新しい市場ニーズや消費者心理を探求し、それらに応える新しい価値を提案することです。
しかし、それだけでは不十分です。
無難であることを恐れずチャレンジするだけでは、「変化球」だけ投げ続けることになりますので、それでは消費者も飽きてしまいます。
そこで必要なのが、「綿密な戦略」です。
綿密な戦略というのは、「変化球」と「定番」のバランス感覚。
「変化球」だけではなく、「定番」もしっかり投げることです。
ペヤングでは、「変化球」である新商品だけではなく、「定番」であるソースやきそばもしっかり売っています。
ソースやきそばは1975年から48年間愛され続けており、現在でも人気のロングセラー商品。
2022年によく売れた商品でも1位の」「ペヤングソースやきそば」から6位の「ペヤング激辛やきそば」までは、レギュラー商品が順位を占めています。 (「激辛やきそば」はすでに定番なのですね)
ソースやきそばが安定した基盤を提供し、「変化球」である新商品が差別化と成長を促す構図ですね。
さいごに
ペヤングはサンクコストバイアスに惑わされず固定概念を捨て新しい味に挑戦し続けることで躍進していますが、その原動力は、経営トップが外す(売れない)かも知れないリスクをとって、製品開発に取り組んでいることにあります。
経済学のケインズ先生は「アニマルスピリッツ」という言葉で、経営者の野心的な意欲を表現しました。
ペヤングを製造する「まるか食品」は、2023年3月期の売上高は過去最高となる163億円。
「変化球」と「定番」のバランス感覚を持ち合わせ、互いの要素が組み合わせる戦略によって実現した成果です。
マーケティングもさることながら、無難でないことに挑む経営者のチャレンジ精神が新時代を切り開いていくのだなと感じました。