ai小説光の咲く庭
夏の終わり、祖母の家の庭で彼は言った。
「もう、一緒にいられない」
その瞬間、風鈴の音が切なく響いた。
私たちは、この庭で出会い、恋に落ちた。
毎年夏になると、ここで祖母の世話をしながら過ごしていた。
彼が去った後、呆然と庭を見渡す。
祖母が大切に育てていた花々が、夕日に照らされて輝いていた。
ふらふらと歩き出す。
気がつくと、祖母の寝室の前に立っていた。
そっとドアを開けると、祖母が微笑んで迎えてくれた。
「おかえり、どうしたの?顔色が悪いわよ」
祖母の優しい声に、堰を切ったように涙があふれ出した。
祖母は黙って私を抱きしめ、背中をさすってくれた。
「ねえ、あの写真を取ってきてくれない?」
涙を拭うと、祖母の指さす方を見る。
古びた写真立てが、窓辺に置かれていた。
手に取ると、若い頃の祖母と見知らぬ男性の写真だった。
「あれはね、私の初恋の人なの」
驚いて祖母を見つめる。
祖母は穏やかな表情で続けた。
「彼とは結ばれなかったけど、その経験が今の私を作ったの。
あなたのおじいちゃんとの出会いも、その後にあったのよ」
祖母の言葉が、心に染み込んでいく。
「失恋は終わりじゃない。新しい始まりなのよ」
その夜、庭に出てみる。
月明かりに照らされた花々が、優しく揺れていた。
ふと、足元に小さな芽を見つける。
きっと、祖母が新しく植えた花なのだろう。
そっと指で触れると、
生命の力強さを感じた。
深呼吸をして、空を見上げる。
星々が、まるで私に微笑みかけているようだった。
翌朝、早起きして庭の手入れを始める。
雑草を抜き、水をやり、新しい種を蒔く。
汗をかきながら働いていると、
少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。
昼過ぎ、祖母が庭に出てきた。
「あら、こんなにきれいになって」
嬉しそうな祖母の顔を見て、思わず微笑む。
「ねえ、おばあちゃん。私も、新しい花を育ててみたい」
祖母は優しく頷いた。
「そうしましょう。きっと、素敵な花が咲くわ」
夕暮れ時、二人で庭に種を蒔いた。
まだ見ぬ花を想像しながら。
失恋の痛みは、まだ心の中にある。
でも今は、新しい希望の種が芽吹き始めているのを感じていた。
この庭のように、私の人生もきっと、
いつか美しい花で満ちあふれるだろう。
そう信じて、静かに目を閉じた。
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