桃の缶詰。
熱があるときの楽しみは、
桃の缶詰が食べられることだった。
冷えた桃のあの甘さは、
イガイガした喉をつるんっと通りすぎて、それだけでも熱が下がりそうで心地よい。
1人暮らしを始めて3か月。
誰も看病してくれる人はいないから、
ただ寝ているしかない。
何にも口にしたくない。
せめて、氷をなめるくらい。
あーぁ。
桃の缶詰が食べたいなぁ…。
玄関で、ことり、と音がする。
重い頭でフラフラしながら、おそるおそるドアを開ける。
ドアノブには、ビニール袋。
中には手紙と桃の缶詰。
「連絡しても返事がないから、多分熱でも出して寝込んでるんだろうと思って。熱には、桃の缶詰。冷えてないけど食べてね!元気になあれ。○○より」
胸いっぱいになりながら食べた桃の缶詰は、今までで1番甘くて美味しかった。
おしまい。
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