【地中海ひとり旅】ステレオタイプな十字路
「あんた、日本人かい?だったら頼む、この車直してくれないか?」
フロリアナのホテルをチェックアウトしてまもなく、路地裏の十字路でそう呼び止められました。振り返ると、体の大きいお兄さんが車のボンネットを開けていて、わたしに背を向けてはいましたが、話しかけてきたのはきっとあの人に違いありません。綺麗なスキンヘッドに、ヨレたジーンズ。ちょっと怖そうです。
「そんなこと言われても、わたし車のことなんてこれっぽっちも知らないですよ。ごめんなさい。」
「はは、冗談だよ。日本人は機械に詳しいってイメージがあったからね。それに見てくれよ、この車日本車なんだ。かっこいいだろ。」
日本人に対するステレオタイプはさておき、確かにこの大きくてごつごつした車は、このお兄さんに、それからこの街並みによく似合っているように感じます。
お兄さんとのやり取りはこのくらいで終わった気がしますが、次の日記に行く前に、彼にひとつ謝っておく必要がありますね。別れ際に、彼はこちらを見て「良い一日を」って言ってくれましたが、それはそれは、優しい笑顔だったんです。透き通るような中性的な声で、ひんやりとした冬朝のマルタには、ちょっとにつかわしくないくらい。ちょっと怖そうって言ってごめんなさい、お兄さん。
つまるところ、お互いさま。ステレオタイプな十字路で、わたしとお兄さんの、気だるげな交差。