見出し画像

【地中海ひとり旅】カルタゴの活気

 これまでのひとり旅において、これほどまでに「危険」とか「物騒」という言葉の似合う瞬間には、なかなか出くわさなかったと思います。"瞬間"というには、1時間ちょっとの鉄路は長く遠いものではあるのですが、"あっという間"という表現を書く際のペンが気持ちよく旅日記帳をすべるにつけ、やはりそれは、瞬間の出来事でした。

 空調の効かない蒸し暑い車内からわたしを救おうとせんのは、皮肉にも、ガラスの割れた窓と、開きっぱなしのドア。カルタゴの大地に振り落とされないようにと必死にポールにつかまる顔の強張ったわたしを、乗客は面白おかしくみていたかもしれません。きっと気のせいであるとは思いましたが、さまざまな民族の、性別の、年齢層の、視線を感じました。

 それでもこの列車での旅路をそこまで悪く書こうという気になれないのは、「危険」や「物騒」の中からあふれ出る"活気"のせいでしょう。言葉や表情なんかのコミュニケーションが東京の路線図のように入り乱れるこの列車内において、それはそれは、不思議な体験としか言いようがありません。

 「僕たち私たちが、自身の未来をあるいはこの国の未来を変えてやるんだ!」といわんばかりの熱気が、およそ列車の加速を助けているような気もして、だからやっぱり、1時間ちょっとのこの鉄路は、"瞬間"だったのです。

地中海ひとり旅日記より抜粋
in Tunis, Tunisia Feb.2024

いつだって視線を感じる列車内

いいなと思ったら応援しよう!