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武蔵野市男女共同参画フォーラム 映画 「ザ•トゥルー・コスト」から見るフェアトレードと女性のエンパワーメント

6月下旬。東京都武蔵野市で、あるフェアトレードのイベントが行われていた。

武蔵野市をフェアトレードタウンにしよう!という熱い思いを持った方々が企画し、それに賛同した人たち合計91人が参加した大きなイベントになった。(主催:武蔵野市、企画運営:フェアトレードむさしの)

この場所でいったい何が行われていたのか?

登壇者として参加させていただき感じたことを踏まえて、イベントの様子をお届けします。


成蹊大学の講義室を一室使用した会場。
そこにぞろぞろと参加者が列を連ねる。

エシカルなイベントでは女性の参加者が目立つが、ここでは年齢や性別を問わず幅広い方々が参加していた。

その様子は、企画者のフェアトレードむさしのの方々のイベント告知の努力の賜物、武蔵野市のエシカル普及に対する市民の熱の高さが反映しているようだった。

クロストークの会場の外では、武蔵野市内のエシカルなお店やブランドのブースが広がる。
クロストークが始まるまでの時間、参加者は各ブースを訪れ交流を深める。


クロストークの会場に参加者が集まりだすと、フェアトレード武蔵野代表の柴山さん、パネルトークのファシリテーター山口さんによる開会の挨拶でついにイベントが幕開けた。

今回のイベントの主軸、「ザ・トゥルー・コスト」の上映が始まる。

「ザ・トゥルー・コスト」は2012年に発生したバングラデシュのラナプラザビル崩壊事故を元にしたドキュメンタリー映画。

大量消費の資本主義システムがもたらしたアパレル業界最悪の惨劇に、会場内は一瞬で静まり返り、参加者全員が画面に釘付けになっている様子が伝わってくる。

(c)TRUECOSTMOVIE
(c)TRUECOSTMOVIE
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私も何度か見ているが何度見ても、縫製業の作り手の劣悪な労働環境に心が苦しくなる。

ラナプラザビル崩壊の様子(c)TRUECOSTMOVIE
(c)TRUECOSTMOVIE

この映画から参加者は何を感じたのだろうか? 
後半のパネルトークの質疑応答では、参加者が感じたその思いに触れられる瞬間があった。

パネルトークは、ラナプラザビルのその後について共有し、低賃金・劣悪な労働環境から作り手を守るフェアトレードのモノづくりについて深めていく流れで展開していった。

まずは、簡単に登壇者の自己紹介が行われた。
今回の登壇者は、ファシリテーターに山口大人さん(MASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE、FashionGood lab.)、パネリストに小川晶子さん(認定NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会)、そしてシサム工房に所属する私の3人で進められた。

シャプラニールの小川さんからは、ラナプラザ跡地の様子や、ラナプラザ事故の救助活動に参加したボランティアが抱えるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の問題について話があった。

映画を見た後だったこともあり、参加者からは興味津々な様子が伺えた。

そして、私からは作り手を守る仕組みの一つであるフェアトレードについて(国際認証ラベル・フェアトレードプレミアム)、フェアトレードがもたらす女性のエンパワーメントへの効果について話した。

では、どうしてアパレル業界には低賃金労働・劣悪な労働環境が根強く残っているのか?を、探るところからクロストークがスタートした。

このような状況が発生する原因としては、複雑化する生産過程に問題があるとし、フェアトレード事業を20年以上続けるシサム工房のものづくりを例に話は展開していった。

シサム工房のものづくりは、とてもシンプル。
販売者のシサム工房のスタッフと作り手の間にいるのは現地のNGOのみ。

シサム工房HPより引用

この単純な構造により、作り手にも適正な収益が満遍なく分配される。また、作り手の労働環境もNGOを通して知り発信ができるため、消費者にとってもトレーサビリティを追う事が容易である。

また、賃金の基準が最低賃金(法律で定められている賃金の下限額)ではなく、生活賃金(最低限の生活を維持するために、生計から算出される賃金)が支払われている重要性にも触れられた。

ラナプラザビルの事故から10年が経ち、アパレル業界にも変化は起こっているが、その変化はまだまだ十分とは言えない。

企業は生産過程の透明性を上げること、消費者はできる限り透明性が高いブランドの服を求めるように意識を変えること。

その服はどこで作られているのか?作り手の労働環境は配慮されているのか?裏側に関心を持つことの大切さを、シャプラニールの小川さんはNGOの立場から、私は小売りの立場から、フェアトレードの重要性を議論していった。

クロストークの時間はまたたくまに過ぎていき、質疑応答の時間が取られた。

ザ・トゥルー・コストを観覧しその後のクロストークを経て、参加者はどのような思いを持っているのか?その思いを共有する時間になった。

様々なバックグラウンドを持つ参加者からの質問が寄せられた。
特に印象に残ったものがこれらだ。

フェアトレード学生ネットワークに所属する男性

「縫製の仕事は低賃金や悪質な労働環境にある場合が多いにも関わらず、どうして労働者は他の職業を選択しないのでしょうか?」

フェアトレードの生産者含め、社会的に弱い立場にいる生産者は都市部ではなく農村部で暮らしていることが多い。
都市部では他の職業選択が可能かもしれないが、彼女たちは選択の余地もないのである。

しかし、生産者の生活環境は見えずらい。だからこそ、このような純粋な問い生まれる。改めて生産者の置かれている環境を届けきれていないのだと実感した。

小さなお子さんがいる女性

「初めてこの映画を見ました。何かしたいとは思うのですが、個人の立場で何かできることはありますか?」

今回のテーマに沿って言えば、fashion revolution weekの「who made my chlothing?」アクションだろう。
このアクションは毎年ラナプラザビル事故が発生した4/24に向けて1週間前から行われる。
自身の服のブランドタグを写真で撮り、SNSで「who made my chlothing?」という言葉とともに発信する。


さらに、できるだけフェアトレードなど作り手の人権に配慮して作られた洋服を買うこと。
それが、個人でもできる活動だろう。

この女性はイベント終了後、私のところにやってきて、「少しずつ自分ができることをやっていきます!」と声をかけてくださった。

30代女性

「フェアトレードやそれに近いことをしているブランドなのか見分ける方法はありますか?」

私はこの問いはフェアトレード業界が抱えている現在の問題だと思う。
SDGsやサステナブルという言葉が先行し、フェアトレードの認知も上がっているが、一方で情報が溢れてどれがフェアトレードの服でサステナブルな服なのかがわからない消費者も少なくない。私もその1人だ。

そのために、フェアトレードは認証マークがある。認証マークは消費者にとって安心と信頼を与える一つの目印である。また、ホームページでしっかりと活動の結果や生産背景について掲載しているかも、そのブランドを信頼するための一つの手段である。

どちらにせよ、情報が溢れている現代では、ものを買う前にその消費が、労働者や地球環境にどういった影響をもたらすのかを考えて購入することが求められている。

20代女性

「フェアトレードの服でも、たくさん買えば次は大量消費の問題が関わってくると思うのですが、それについてはどう考えていますか?」

この質問は正直痛い。と小川さんも私も苦笑を浮かべた。

私もシサム工房で働いていて、何度も立ちはだかる壁である。
たくさん販売することは、よりフェアトレードの作り手を支えることにつながる。
だが、その一方で大量消費の問題に加担してしまっているのではないか、と悩むことがある。

しかし、私はどうせものを買うなら、フェアトレードのものを買って欲しい!と考えている。
そして、1人の人にたくさんではなく、たくさんの人に大切な一枚をフェアトレードの服で選んで欲しい!と願っている。

そう伝えると、嬉しいことに多くの参加者が明るい表情でうなずくのを確認できた。

このイベントに参加された方は、フェアトレードに関心を持っている方が多く集っている。
だからこそ、多くの方が感じていた葛藤であり悩みだったのかなと感じることができた。

最後は、フェアトレード武蔵野推進協議会代表の林さん(パタゴニア東京・吉祥寺)による閉会の言葉で幕を下ろした。

イベント終了後は多くの方が、会場の外の各ブースで思いを伝え合っている姿を見た。

吉祥寺のシサム工房では、イベントを通してフェアトレードや服の生産背景について深く共感した方が、フェアトレードの服を買いたい!見てみたいと足を運ばれた方がいたそうだ。

イベントは約5時間。
その時間は、多くの方の服やそれに従事する生産者への興味をかきたて、行動を後押しする大きなきっかけになった。

この日、この場所での出来事が、後に武蔵野市フェアトレードタウン認定への大きな一歩に繋がっていくことを願って。

執筆:エシカルジャーナリスト ARISA
   (FAIR TRADE SHOP LIST メンバー)
写真提供:髙見(FAIR TRADE SHOP LIST 共同代表/フェアトレードむさしのメンバー)
主催:武蔵野市
企画運営:フェアトレードむさしの
協力:武蔵野市立男女平等推進センター企画運営委員会、成蹊大学サステナビリティ教育研究センター、FashionGood lab.


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