二項級数binomial seriesと一般のべき
二項級数binomial seriesと一般のべき
二項展開
$${{{\left( 1+x \right)}^{k}}=1+\sum\limits_{n=0}^{k}{\left( \begin{matrix}k \\n \\\end{matrix} \right)}{{x}^{n}}}$$
はよく知られた式である。係数$${\left( \begin{matrix}k \\n \\\end{matrix} \right)}$$ は二項係数と呼ばれパスカルの3角形などで効率よく計算される。
二項係数は
$${\left( \begin{matrix}\alpha \\n \\\end{matrix} \right)=\frac{\alpha \left( \alpha -1 \right)\cdots\left( \alpha -n+1 \right)}{1\cdot 2\cdots n}}$$
と定義される。$${n}$$ は自然数だが、$${\alpha }$$を複素数としても右辺は意味をもつ。
Konrad Knopp
Elements of the theory of functions, Dover 1952
の最後の節で$${\alpha, z }$$を複素数として
$${{{\left( 1+z \right)}^{\alpha }}=1+\sum\limits_{n=1}^{\infty }{\left( \begin{matrix}\alpha \\n \\\end{matrix} \right)}{{z}^{n}}}$$
という式を見つけた。
$${\left| \left( \begin{matrix}\alpha \\n+1 \\\end{matrix} \right){{z}^{n+1}}/\left( \begin{matrix}\alpha \\n \\\end{matrix} \right){{z}^{n}} \right|=\left| \frac{\alpha -n}{n+1}z\right|\to \left| z \right|}$$
より、$${\left| z \right|<1}$$でべき級数の収束条件を満たしており、右辺の級数は 絶対収束することがわかる。しかし、これが左辺$${{{\left( 1+z \right)}^{\alpha }}}$$
に等しいことをいうには、一般のべきを正しく理解する必要がある。
$${b}$$ と$${a}$$ をゼロでない複素数とするとき、
$${{{b}^{a}}={{e}^{a\log b}}}$$
と定義する。ここで、対数logは 多価関数であることに注意しなければならない。上の右辺の展開式は絶対収束な級数の値として1つに決まるので左辺の多価関数と等しいとは言えない。
一般のべきの例として
$${{{i}^{i}}={{e}^{i\log i}}={{e}^{i\left[ \frac{\pi i}{2}+2k\pi i \right]}}={{e}^{-\left( \frac{\pi }{2} \right)-2k\pi }}}$$
($${k=0,\pm 1,\cdots }$$ )
である。虚数の虚数乗が実数をあらわすのは少し驚きかもしれない。
$${k=0}$$ とした$${{{i}^{i}}={{e}^{-\left( \frac{\pi }{2} \right)}}}$$は主値とよばれる。
また
$${{{b}^{a}}\cdot {{b}^{a'}}={{b}^{a+a'}}}$$ や$${{{\left( {{b}^{a}} \right)}^{a'}}={{b}^{aa'}}}$$
などは一般に成り立たず、左辺のほうが右辺よりもたくさんの値をもっている。
そのような状況でも
$${{{\left( 1+z \right)}^{\alpha }}=1+\sum\limits_{n=1}^{\infty }{\left( \begin{matrix}\alpha \\n \\\end{matrix} \right)}{{z}^{n}}}$$
は意味を持ち、一般の複素数$${\alpha ,z}$$ にたいし、$${\left| z \right|<1}$$ において右辺級数の値は、左辺の主値をあらわしていることがKnoppの書物で説明されている。
実は一般の二項級数の歴史はもっと古くIsaac Newton(1642-1727)により1665年に定式化された。そのときは変数もべきも実数に限っていた。
$${{{\left( 1+x \right)}^{\alpha }}=1+\sum\limits_{n=1}^{\infty }{\left( \begin{matrix}\alpha \\n \\\end{matrix} \right)}{{x}^{n}}}$$
において$${\alpha }$$ が自然数の場合は
$${\left( \begin{matrix}\alpha \\n \\\end{matrix} \right)=\frac{\alpha \left( \alpha -1 \right)\cdots\left( \alpha -n+1 \right)}{1\cdot 2\cdots n}}$$を$${n\ge \alpha +1}$$ ではゼロと定義するので級数は有限和となり普通の二項定理にすぎない。しかし、自然数でない
$${\alpha >0}$$ では$${-1\le x\le 1}$$ で級数が$${{{\left( 1+x \right)}^{\alpha }}}$$に一様収束することが証明される。
さらに、$${\alpha =-\frac{1}{2}}$$ のとき、
$${\left( \begin{matrix}-\frac{1}{2} \\n \\\end{matrix} \right)=\frac{\left( -\frac{1}{2} \right)\left( -\frac{3}{2} \right)\cdots \left( -\frac{2n-1}{2} \right)}{1\cdot 2\cdots n}}$$$${=\frac{{{\left( -1 \right)}^{k}}\left( 2n \right)!}{{{2}^{2n}}{{\left( n! \right)}^{2}}}}$$
であり
$${\frac{1}{\sqrt{1+x}}=1+\sum\limits_{n=1}^{\infty }{\frac{{{\left( -1 \right)}^{n}}\left( 2n \right)!}{{{2}^{2n}}{{\left( n! \right)}^{2}}}}{{x}^{n}}}$$
および
$${\sqrt{1+x}=1+\sum\limits_{n=1}^{\infty }{\frac{{{\left( -1 \right)}^{n+1}}\left( 2n \right)!}{{{2}^{2n}}{{\left( n! \right)}^{2}}\left( 2n-1 \right)}}{{x}^{n}}}$$
が$${\left| x \right|<1}$$で成立する。
証明は以下の文献に載っている:
Peter Duren Invitation to classical analysis,
pure and applied undergraduate texts 17, American Math.Society
pp.87-89
にある。
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