HahnーBanach拡張の一意性の条件 strictly convex
HahnーBanach拡張の一意性
定理:(Hahn-Banachの拡張定理)
$${X}$$を線形ノルム空間とする。$${Y}$$ を$${X}$$ の部分空間とする。このとき、$${g\in Y'}$$に対して、$${f\in X'}$$ が存在して、$${f\left| Y \right.=g}$$ かつ$${\left\| f \right\|=\left\| g \right\|}$$となる。
$${f\left| Y \right.=g}$$という記号は、
$${f\left( x \right)=g\left( x \right)}$$($${x\in Y}$$ )という意味である。
ノルムは変えないで、$${Y}$$ 上定義された線形汎関数$${g}$$ に対して、$${Y}$$ 上では$${g}$$ と同じ値をとり、もっと広い空間$${X}$$ 上で定義された線形汎関数$${f}$$ の存在を言っている。$${f}$$ は$${g}$$ の一つの拡張であるが、一般にはそのような拡張は無限個存在しうる。しかし、$${{{X}^{'}}}$$ がstrictly 凸 なノルム空間である場合、この拡張は一意であることを示すことができる。ここで、線形ノルム$${X}$$ がstrictly 凸 というのは、$${x,y\in X}$$ 、$${\left\| x \right\|=1=\left\| y \right\|}$$ 、$${x\ne y}$$ のとき、$${\left\| \frac{x+y}{2} \right\|<1}$$ を満たすことを言う。つまり、円周上の異なる2点を線分で結んで、その中点が円周上にはなく、円の内点になっている場合である。言い換えれば、中点が円周上にくる:$${\left\| \frac{x+y}{2} \right\|=1}$$のは、$${x=y}$$ となるしかない場合である。strictly 凸の例として、$${{{l}^{p}}}$$,$${1< p<\infty }$$ がある。$${p=1}$$ や$${p=\infty }$$ では単位円は正方形でこれは凸だが、円周上の2点をとってその中点が円周上にくることはありうので、strictly凸ではない。また、$${p<1}$$ のときは、単位円はもはや凸でなく内側にへこんでしまう。$${{{\mathbb{R}}^{2}}}$$の場合は下図のようになっている。
今日のメインテーマは次の定理である。
定理(Taylor-Foguel 1958)$${X}$$ を線形ノルム空間とする。$${X}$$の任意の部分空間上のすべての有界線形汎関数がノルムを変えずに一意な線形拡張を持つための必要十分条件は、$${X'}$$ がstrictly 凸なことである。
この定理は、
Foguel,S.R., "On a theorem of A.E.Taylor”,
Proc.Amer.Math.Soc.9,p.325(1958)
によるもので、最初にTaylor が事実を指摘し、その後Foguel がきれいな証明を与えたものであろう。つまり、$${{{l}^{p}}}$$ 空間では拡張が一意ということである。おっと、$${X'}$$ がstrictly 凸 であるは$${X}$$ がstrictly 凸 を意味しない。$${{{X}^{'}}}$$ は$${X}$$ の共役空間。しかし、大丈夫:$${{{\left( {{l}^{p}} \right)}^{'}}={{l}^{q}}}$$で$${q}$$ は$${p}$$ の共役指数$${\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1}$$ より、$${1< p< \infty }$$のときは$${1< q< \infty }$$であるから、$${X'}$$ がstrictly 凸 という仮定を満たしている。それでは証明に入る。証明は技巧的だが美しい。
証明)$${X'}$$ がstrictly 凸と仮定する。$${Y}$$ を$${X}$$ の部分空間、$${g\in {{Y}^{'}}}$$として 拡張が2つ
$${{{f}_{1}},{{f}_{2}}\in {{X}^{'}}}$$があったとしよう。つまり、
$${{{f}_{j}}\left| Y \right.=g}$$, $${\left\| {{f}_{j}} \right\|=\left\| g \right\|}$$,$${j=1,2}$$。
このとき、
$${\frac{{{f}_{1}}+{{f}_{2}}}{2}\in {{X}^{'}}}$$ 、$${\frac{{{f}_{1}}+{{f}_{2}}}{2}\left| _{Y}=g \right.}$$。したがって$${\left\| g \right\|\le \left\| \frac{{{f}_{1}}+{{f}_{2}}}{2} \right\|}$$。他方 $${\left\| {{f}_{j}} \right\|=\left\| g \right\|}$$,$${j=1,2}$$より、
$${\left\| \frac{{{f}_{1}}+{{f}_{2}}}{2} \right\|\le \frac{\left\| {{f}_{1}} \right\|+\left\| {{f}_{1}} \right\|}{2}=\left\| g \right\|}$$であるから
$${\left\| g \right\|=\left\| \frac{{{f}_{1}}+{{f}_{2}}}{2} \right\|}$$がなりたつ。これは、両辺を$${\left\| g \right\|}$$で割ってみればわかるが、$${X'}$$ がstrictly 凸であることから、$${{{f}_{1}}={{f}_{2}}}$$ でなければならないことを示している。
逆に、$${X'}$$ がstrictly 凸でないを仮定して$${X}$$ がHahn-Banachの拡張において一意性がないことを示そう。
$${{{f}_{1}},{{f}_{2}}\in {{X}^{'}}}$$で
$${\left\| {{f}_{1}} \right\|=\left\| {{f}_{2}} \right\|=\left\| \frac{{{f}_{1}}+{{f}_{2}}}{2} \right\|=1}$$、$${{{f}_{1}}\ne {{f}_{2}}}$$
となったとする。ここで、
$${Y=\left\{ x\in X:{{f}_{1}}\left( x \right)={{f}_{2}}\left( x \right) \right\}}$$
とおくとこれは$${X}$$ の部分空間となっている。$${\left\| {{f}_{j}}\left| Y \right. \right\|=1,j=1,2}$$
が示されれば、Hahn-Banachの拡張において一意性が破綻してしまう、これを示す。
$${{{f}_{1}}\ne {{f}_{2}}}$$であるから、$${a\in X}$$ をとって、
$${{{f}_{1}}\left( a \right)=1\ne {{f}_{2}}\left( a \right)}$$ となるようにする。
$${\left\| \frac{{{f}_{1}}+{{f}_{2}}}{2} \right\|=1}$$とノルムの定義
$${{{\left\| f \right\|}_{{{X}^{'}}}}=\sup \left\{ f\left( x \right):{{\left\| x \right\|}_{X}}=1 \right\}}$$より、$${\left\| {{x}_{n}} \right\|=1}$$を満たすある点列$${\left\{ {{x}_{n}} \right\}\subset X}$$ があり、$${n\to \infty }$$ のとき、$${\left| \frac{{{f}_{1}}\left( {{x}_{n}} \right)+{{f}_{2}}\left( {{x}_{n}} \right)}{2} \right|\to 1}$$となる。他方
$${\left| {{f}_{j}}\left( {{x}_{n}} \right) \right|\le \left\| {{f}_{j}} \right\|\left\| {{x}_{n}} \right\|=1}$$、$${j=1,2}$$
であるから、これらの関係式を満たすためには$${\left\{ {{x}_{n}} \right\}}$$の部分列に対し(書き換えるべきだが表示を簡単にするため添字をもとと同じ記号そのまま使い)
$${\left| {{f}_{j}}\left( {{x}_{n}} \right) \right|\to 1}$$、$${j=1,2}$$
とできる。ここで、左辺の絶対値は外せる。つまり、$${\left| {\alpha}_{n} \right|=1}$$をうまく選び
$${\left| {{f}_{j}}\left( {{x}_{n}} \right) \right|={{f}_{j}}\left({\alpha}_{n} {{x}_{n}} \right)}$$となるようにする。そしてまた$${\left\{ \alpha {{x}_{n}} \right\}}$$を改めて$${\left\{ {{x}_{n}} \right\}}$$と書き直して、
$${{{f}_{j}}\left( {{x}_{n}} \right)\to 1}$$,$${j=1,2}$$
となる。いま、$${n=1,2,\cdots }$$ に対して
$${{{k}_{n}}=\frac{{{f}_{1}}\left( {{x}_{n}} \right)-{{f}_{2}}\left( {{x}_{n}} \right)}{1-{{f}_{2}}\left( a \right)}}$$ とおく。$${{{k}_{n}}\to 0}$$ で$${\left\| {{x}_{n}} \right\|=1}$$であるから、十分大きい$${n \ge {n_0}}$$ では、$${\left\| {{x}_{n}}-{{k}_{n}}a \right\|\ne 0}$$である。$${n \ge {n_0}}$$ で$${{{y}_{n}}=\frac{\left( {{x}_{n}}-{{k}_{n}}a \right)}{\left\| {{x}_{n}}-{{k}_{n}}a \right\|}}$$ とおく。このとき、
$${{{f}_{1}}\left( {{y}_{n}} \right)=\frac{\left( {{f}_{1}}\left( {{x}_{n}} \right)-{{k}_{n}} \right)}{\left\| {{x}_{n}}-{{k}_{n}}a \right\|}}$$$${=\frac{\left( {{f}_{2}}\left( {{x}_{n}} \right)-{{f}_{2}}\left( a \right){{f}_{1}}\left( {{x}_{n}} \right) \right)}{\left( 1-{{f}_{2}}\left( a \right) \right)\left\| {{x}_{n}}-{{k}_{n}}a \right\|}}$$$${=\frac{\left( {{f}_{2}}\left( {{x}_{n}} \right)-{{k}_{n}}{{f}_{2}}\left( a \right) \right)}{\left\| {{x}_{n}}-{{k}_{n}}a \right\|}={{f}_{2}}\left( {{y}_{n}} \right)}$$
が得られる。したがって$${{{y}_{n}}\in Y}$$となった。 $${{{k}_{n}}\to 0}$$、$${{{f}_{j}}\left( {{x}_{n}} \right)\to 1}$$,$${j=1,2}$$
をつかうとこの関係式から
$${{{f}_{j}}\left( {{y}_{n}} \right)\to 1}$$,$${j=1,2}$$
であり、$${\left\| {{y}_{n}} \right\|=1}$$からノルムの定義より$${\left\| {{f}_{j}}\left| Y \right. \right\|=1}$$,$${j=1,2}$$
となって異なる2つの拡張$${{{f}_{1}},{{f}_{2}}\in {{X}^{'}}}$$が得られてしまった。おわり。
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