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遠野市

(2017年5月19日の投稿を改訂)

SLは12時過ぎに遠野に到着したものの,訪問先は決まっていなかった.なんとなく東北の伝承の不気味さに憧れていた程度で,遠野物語も前日の大沢温泉で慌てて本を買い,ざっと目を通したのみだった.

予想外のSL.特別料金がかかるがこれを逃すと次は数時間後.


遠野は観光案内所が自転車を貸し出ししていた.この日は快晴28℃.隅に短時間滞在向けに往復10km程度の伝承館のみのコースを見つけた.帰りの列車までは昼食を含めて3時間.

今となっては人口としてあまり大きな街ではない.駅から3分も走れば市街地を抜けてしまう.しかし思った以上に平地部は広く,緩やかなアップダウンとともにひたすら続く水田の脇を漕ぎ続けた.

岩手県に入ってから気になっていたが,遠野は特にギャンブレル屋根(*)の小屋が目立つ.東京などの大都市では斜線制限を躱すためにこの屋根を用いることがあるが,こちらではさらに優しく緩やかな軒を伸ばしており,流造を思わせた.牛や馬などの家畜を飼っていたようだ.


裾付きのギャンブレル屋根が目立つ.この地方の屋根は特に裾(軒)が長く出ているように思う.なぜだろう.
伝承館では語部の女性から遠野について教わった.伝承というと流石にもう形式的に静態保存されているだけなのだろうと思っていた.しかし話を聞くと,伝承の場はシステム的に提供されるものの,語られる中身については今も自由に変化し続け,生きているようだった.

伝承館にあった河童の屏風.不気味に描かれている



語部のおばあさまによれば,遠野の伝承はただの井戸端会議で盛り上がった話から,子供に言って聞かせるための話まであるそうだ.だから,柳田国男の本にも「こんな不気味なことが起こった.だが何かの前兆というわけではなかった.」というタイプのオチのない話が幾つか存在する.他にはオシラサマの話が有名だが,あれも遠野の養蚕の始まりを不気味に仕立て上げただけで,特に教訓めいたものでもないのかもしれない.

伝承館の愛想の良い店員(ソフトクリームを度々薦められた)に名残惜しさを感じつつ,急いでもと来た道を戻った.

本当は博物館や程洞のコンセイサマも見に行きたかったが,少し寂しくなるような民話と町の実情を直接聞き,カッパ淵では「カッパが釣れた!」と小学生が叫び,オシラサマの,それこそ不気味な姿を拝んだと思えば,非常に充実した3時間だった.

河童が釣れたらしい.


*遠野市はマンサード屋根という言葉を使っているが,一般的にはギャンブレル屋根と呼ばれる形態だろう.

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