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#81 盗みは快感
アメリカンアニマルズ
という映画を観ました。
アメリカの大学の学生が大学の図書館に展示してある本を盗んだという実際の事件を再現した映画です。
盗まれた本は歴史的に価値のある高価な本で、本を売れば巨額のお金を得ることができました。
そしてこの映画は、実際に事件を起こした彼ら本人へのインタビュー映像も織り交ぜながらストーリーが進んでいくので、彼らの盗みの実際の動機が明らかになります。
中流階級の家庭で育ち、大学に通えているという、金銭的にそこまで困っていないはずの彼らが何故犯罪に手を染めてしまったのでしょうか。
盗みの動機を聞かれた彼ら本人へのインタビューの内容をまとめると、
「退屈な人生から抜け出したかった」
ということらしいです。
『ハマータウンの野郎ども』
という、教育に携わる人は必読といわれるイギリスの本があります。
イギリスの階級社会において、労働者階級はなぜ抜け出せないのかを考察していて、労働者階級へのインタビューや実地調査をおこなって書かれている研究書です。
労働者階級の子供達が盗みや犯罪を行う動機について書かれている箇所から引用します。
とにかく現金が欲しいという切迫した思いがあることを軽くみてはならない。しかし、その動機にはもうひとつの特徴的な要素が絡まっていて、それは、「盗むこと」が喧嘩にも似たエキサイティングな経験である、という点にかかわっている。
盗みは危険な行為であり、 自我の平穏な小字宙をかき乱さずにはおかない。「規則の支配」も、細かい取り決めにしばられた日常性も、たてまえの拘束力も、このときばかりはしばし立ち消える。
そこで首尾よくやりおおせれば、権威の裏をかき、その鼻をあかしたことにもなるのである。
「してやった」という気持ちは内に秘めておくほかないとしても、奇妙な自由の感覚が、社会常識には むかい、はむかった代償をせしめたことから生まれてくる。もしも当局の手に「ひっかかる」ようなことがあれば、そのときは「あることないこと並べたてて言いのがれる」特別の技能に頼るのだ。
それもまたエキサイティングなことであるし、「危うく難をのがれる」ことができれば満足感もひとしおである。
もちろん、いつでも「難をのがれる」というわけにはゆかない。私の調査期間中にもハマータウン校の二人の少年が、カーラジオを盗んで保護観察処分を受けている。こうなればみじめだ。両親は呼び出されるし、数々の調書が作成され、裁判の進行にはなんとも言えない不安がつきまとう。
官僚機構のいつ果てるともない手続きを踏まされるあいだに、盛みの現場で味わった興奮はしぼんで憂部にまわる。この間こそ、フォーマルな世界がインフォーマルな世界をふたたび完全に押つぶすのである。
ハマータウンの野郎ども p106~
「権力への反抗」の魅力が、犯罪の動機の一部となることもあるのですね。
そして、アメリカンアニマルズの大学生たちも、イギリスで盗みをした人たちも、結局は権力によって捕まり、さらに自由を奪われてしまうのです。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
参考資料、使用させて頂いた画像など
『ハマータウンの野郎ども ─学校への反抗・労働への順応 』 September 1, 1996 ポール・ウィリス (著)
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