見出し画像

法学徒徒然④

1前回のおさらい

さて、前回の投稿では、法学部で勉強する内容を私なりにまとめてみました。法学部生の大半は4年間かけて二つのことを学びます。➀法律の扱い方②法律家の物の考え方、です。今回は、それが何の役に立つのか、について検討していきたいと思います。

2「法学の勉強って、何かの役に立つの?」

➀法律の扱い方を知っているということ

パンデクテン・システム
みなさんは,「ポケット六法」「デイリー六法」なるものをご存じでしょうか?よほど不真面目な法学部生でも最低一つは持っている持ち運び用の六法です(二つは出版社が違います)。
六法とは言いつつ,いわゆる「六法(憲法,民法,刑法,商法,民事訴訟法,刑事訴訟法)」以外にも,知名度が比較的高い法律が掲載されています。法学部生はこれを「六法」と呼び、どんな授業でも「まぁとりあえずは六法くらい持っていくか」と、寝食を共にするのです(ちなみに枕としても大変優秀です。ちょうど良い硬さ)。

たとえば,民法の項目を開いてみましょう。まず最初に「目次」があります。まずはこの見方を知っておくことが大変重要なんです。最低限これだけ知ってりゃ,法学部卒業してもいいんじゃないかな、とか思っております。

法律は,条文の並び方、条文の中の文言の使い方、文言の順番まで、緻密に計算されて作られます。日本の民法は、ローマ法の伝統を継受して、「パンデクテン方式」を採用しています。

パンデクテン方式の特徴は、次のことにある。すなわち、多くの生活事象について、ある観点から共通性を見つける。その共通性を基礎に、事柄の具体性を捨象して、ひとまとまりの抽象的な規定群を用意する。そして、それによって法典の体系化を図る、と言うことである。

佐久間毅「民法の基礎1 総則 第5版」7頁

つまり、「多くの行為に共通するルールは前に括りだして、そのルールの例外規定であったり、そのルールではカバーできないことについては別途後付けする」と言う規則で民法は並んでいます。共通ルールを「総則」、共通ルール以外の部分を「各則」と言うことが多いです。例えば、民法の場合は、

第1編 総則
第2編 物権
第3編 債権
第4編 親族
第5編 相続

民法の基礎1 総則〔第5版〕7頁より抜粋

の順番で並んでおり、第1編から第3編までが財産法、第4編・第5編が家族法と言うグループ分けになっています。(そもそも財産法と家族法っていう分け方は何?と思われる方、ここではそういうモノだと思っておいてください)。
さらに、共通ルールは前に括りだすというやり方は、物権や債権、親族・相続の各領域において、また民法全体においてもさらに徹底されています。

パンデクテン方式は(法学部生にとっては)一つの悲劇をもたらします。試験では、条文を行ったり来たりしまくらなければならないのです。ただ、慣れたらほとんど知らない法律でも、何とか読み下していけるようになります(なってしまう、とも)。

法学部の、特に六法科目の試験範囲は何せ広く、試験範囲全部をすべて勉強しきることができる人はごくわずかです(たぶん)。試験直前でも全然試験範囲の勉強が追いついていない人に対して何かアドバイスするなら、私は以下のように伝えると思います。

⑴とりあえず、目次をみて、その並べ方の意味を教科書で確認する。
⑵余裕があれば、その法律全体の趣旨、重要そうな規定の趣旨を頭に叩き込む。
⑶「規定の解釈⇒事実認定⇒適用」という頭の使い方と度胸をもつ。

対処療法的な戦略に見えて、実はそうでもないんじゃないかな、っと思っております。試験勉強という意味で言えば、おそらく規定の解釈が分かれるところである「論点」だけを勉強するのがスタンダード。規程の解釈がどのようにどういう理屈で枝分かれしていくのかを知ることは確かに大切だと思いますが、それは原則ルールを知っているからこその話です。「論点」が気になる人は、私のアドバイス中「重要そうな規定」を「論点が関係してくる規定」に読み替えて勉強してもいいのではないでしょうか。

そして,とりあえずこういう「法律の読み方」さえ知っておけば、未知の法律も読める(又は何を確認すれば読めるようになるか分かる)はずです。


法令用語

一般に対するわかりやすさということだけを考えれば、…(作者中略)…日常会話や日常の文章に使われるような用語のみを用いて法令を作り上げるということが理想的かも知れないが、表現の正確さということを、法令のわかりやすさということと同等に尊ぶ立法の世界では、日常用語だけで法令を書くということは、技術的に不可能に近い。これは、あたかも、アルファベットを使わずに英語を綴れというのに似た無理な注文である。

林修三「法令用語の常識」8頁

よく法学部の最初の授業では「法令用語は外国語だと思って勉強するように」なんて言われたりします。それぞれの分野では「専門用語」があって当然です。法律学にも専門用語があります。ここで特に取り上げたいのは、法律の専門用語ー法令用語ーです。法令用語の中には,日常生活で使われる言葉もたくさんありますが、日常生活での使い方とまるきり違ったりします。

私は、少し前に「又は」という表現を使いました。この言葉は,日常生活では「若しくは」と同じ意味で使われると思います。では,法令用語としてはどうでしょうか?

【法令用語としての「又は」「若しくは」】
●「又は」
単純・並列的な選択的接続の場合に使われる。
例:「公の秩序又は善良な風俗」(民法90条)

●「若しくは」
「A若しくはB又はC」のように使い、ここではAとBが選択的に接続され、A・BのグループとCが選択的に接続されている。
例:「裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者若しくはその第三者の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その第三者を訴訟に参加させることができる。」(行政事件訴訟法22条1項)

●接続の段階が三段階以上も続く場合には、最後の一番大きい接続だけ「又は」を使い、その他の接続には、いくつ段階があっても全部「若しくは」を使う。
例:「執行役又は業務を執行する社員が、法令若しくは定款で定める会社の権限を逸脱し若しくは濫用する行為又は刑罰法令に触れる行為をした場合において、法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に又は反覆して当該行為をしたとき」(会社法824条1項3号)

●「または」「もしくは」とは書かず、「又は」「若しくは」と書く。ま
た、立法例の上で、「あるいは」という言葉が使われた例はあまりない。

林修三「法令用語の常識」



とまぁこんな感じで,日常語に比べて厳密に使い分けられています。こういった,法律の規定特有のの用語の使い方を知らなければ読めるものも読めません。さらにもう一つ言えることは、「法令用語は、同じような言葉を複数使い分けているし、ある特定の言葉を採用していることに意味がある」ことを知っておくことです。そうすれば、条文を読んでも「さらっと」読めなくなります。「この言葉遣いには意味があるのではないか」「この言葉は具体的にはどういう意味か」ということを深堀する意識が芽生えてくるのです。この意識が、法律を理解し、解釈し、現実に適用しようとする態度へとつながっていきます。

今回はここまでとします。一応毎回の投稿を3000文字程度に収めることにしていますので。

明日以後は、「②法律家の物の考え方を知ること」について検討していきたいと思います。

参考文献
佐久間毅「民法の基礎1 総則〔第5版〕」7-10頁
林修三「法令用語の常識」14-15頁


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?