謳う嘲る、そのオモイ
鮮やかな感情を視たことがあるだろうか。
喜び、悲しみ、なんでもいい。どんな感情でもいい。
目の前に色を放ち、身体のなかにマグマが沸き立つような、すべてを凍りつかせるようなそんな感覚を感じる人はあまり多くないといい。
ただの願いだ。
私のなかにはそんな「鮮やかな感情」がとぐろを巻いている。
ふとした瞬間に発散してしまいそうになるそれを抱えるのは一苦労だから私は様々なものを育て、集め、宝飾にすることにした。
ただの趣味だったものはいつの間にか大きくなり、一種のブランドとして名を知られるようになったのはつい最近。
-美しく、鮮やかに-がコンセプトの作品たち。
私の内側を写すモノ。
美しいと称賛されるたびに、見る目がないと嘲笑うのは内緒。ただ一人のために創る作品が様々な手に渡る。
ただ一人のために創られたモノ。私の作品。
十人全員が美しいと称しそうな男が立ち止まった。
「初めてですか?」穏やかに人の好きそうな声と話し方、表情をするように気をつけている私を一瞥した。
「よければ合わせてくださいね」と男性でも着けやすいものをすすめてみれば、「いえ、結構です。火傷をしてしまいそうだ」と男が微笑んで立ち去った。初めて出会った見る目のある人だった。
ーーー
話題のアクセサリーブランドの本店があるとは知っていたが、おもった以上に近場にあった。今までも通っている道の途中、大通りに面した店舗。気づかない方が珍しいだろうと自分で思いながら店内に入る。大衆がいうような魅力は感じない。
「初めてですか?」
ネームプレートに「オーナー」と書かれた女性に声をかけられた。
「よければ合わせてくださいね」と女性が作った笑顔を深めたのを眺め、オススメされたシリーズを見る。
「いえ、結構です。火傷をしてしまいそうだ」
まるで作り手の感情が宿ったような作品だ。
とても強い感情の宿った美しい作品。生け花も、アクセサリーも、あの店にあったものは感情豊かだった。
「よぉ、どうした。疲れた顔をしてるな」
「いやぁ、誰かのために創られた作品に籠められたものはなにになるのかなとおもってね」
色と装飾に秘められたオモイ。
まるで、誰か一人に向けた強い殺意。
少し歩けば電子POPが件の作品ときらびやかに艶やかにオーナーを紹介する。
「まるで、美しい殺意だな」
苛烈なオモイが籠った作品はどこまでも美しい殺意に見えた。