見出し画像

はじめに-「インターネット等の利用により外部の情報にアクセスできる環境」を実現する(未定稿)

いまのところ、日本の図書館には必ず本棚(書架)があります。本棚にはその図書館の蔵書が並んでいます。私たちは図書館を訪れると、おおむね本棚を見て回ります(ブラウジング)。あらかじめ探しものが明確なら特定の分類の棚を訪れ、その分類に配架されている本(図書や雑誌、ときに貸出不要で持ち帰り可能なフライヤー類)を手にします。探しものが明確でないときや、なんとなく広く探索しているというときは、より気ままに本棚の間を行き来します。これは私たちが図書館に抱くごく一般的な利用シーンのひとコマではないでしょうか。

図1:図書館らしい風景

この一般的に思い浮かぶシーンを変えていくのが、今回の特集の狙いです。特集の狙いを端的に集約したのが「デジタル資源による図書館DX」ということになります。この狙いをもう少し説明します。図書館法には次のような規定があります(※太字は筆者による)。

第三条 図書館は、図書館奉仕のため、土地の事情及び一般公衆の希望に沿い、更に学校教育を援助し、及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し、おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。
一 郷土資料、地方行政資料、美術品、レコード及びフィルムの収集にも十分留意して、図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下「図書館資料」という。)を収集し、一般公衆の利用に供すること。

図書館法第3条

この電磁的記録という考え方は2008年の法改正で追加されました。ちなみに、ここでいう電磁的記録は音楽、絵画、映像等をCDやDVD等の媒体で記録した資料や、図書館が所蔵する市場動向や統計情報等のデータ等を指しており、インターネットや商用データベースは含まれないとされています(「『図書館の設置及び運営上の望ましい基準』の告示について」、2012年)。ただし、「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(2012〈平成24〉年12月19日文部科学省告示第172号)では、こうも示しています。

(二)情報サービス
1 市町村立図書館は、インターネット等や商用データベース等の活用にも留意しつつ、(略)レファレンスサービスの充実・高度化に努めるものとする。
3 (略)利用者がインターネット等の利用により外部の情報にアクセスできる環境の提供、(略)レフェラルサービスの実施に努めるものとする。

「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」

これらの考えが示されたのは、2012年のことです。
さて、いまは2024年です。上の告示や通知から12年が過ぎようとしています。図書館の現場はどうなっているでしょうか。「利用者がインターネット等の利用により外部の情報にアクセスできる環境の提供」はどのように果たされているでしょうか。
ほとんどといっていいくらい数多くの図書館でインターネットにアクセスできるパソコンが置かれるようになりました。Wi-Fiを使える図書館もだいぶ増えました。図書館がデジタルアーカイブを構築・公開する例も増えています。さらにはコロナ禍を大きなきっかけに電子書籍サービスも増加しています。これは確かな進歩です。
ここまでに達成された成果の次を実現するのが、「デジタル資源による図書館DX」です。具体的にはどういうことかというと、インターネットで提供されるデジタル資源(Digital Resources)を図書館が提供する情報の総本山の一つと位置づけ、提供する情報の一角とすることです。では、この目標はどう実現できるのでしょうか。あくまで一つの先行的な試案ですが、それを示すのが以下に始まる本特集です。

コロナ禍と同時期に普及しだしたDXという言葉があります。さまざまな分野で「○○DX」が謳われています。図書館の世界でも図書館DXがいわれています。何よりも本特集が「図書館DX」を掲げています。ですが、本特集で掲げるのは「デジタル資源による図書館DX」です。
デジタル資源を図書館が扱う資源として積極的に位置づけ、図書館でその存在を知らしめ、その活用を進めていく方法を具体的な仕組みによって考えます。この考えに至る思考や思索を書きだしてみました。その思考や思索に基づいて試行錯誤している現場からの中間報告もまとめています。思考・思索と現場での試行錯誤をつなぐ情報デザインの模索も実例を添えて示しています。ぜひ、ページをめくりながら思考・思索と行動の両方にあなたの意思を行き来させてください。

図2:泉大津市での実践模様

本稿は2024年11月に刊行する『ライブラリー・リソース・ガイド 』(LRG)第49号の特集「デジタル資源による図書館DX」(責任編集:岡本真、間嶋沙知、河瀬裕子)に収める同名論考を公開するものです。なお、まだ編集段階であり、未定稿ですので、引用にあたっては十分にご注意ください。確定稿はLRG本誌の刊行版に掲載されます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?