【第4回】「労働党の公約① 新政権が目指すもの」
14年ぶりに政権に就くことになった労働党とはどんな政党でしょうか。具体的に何が変わるのでしょうか。党が掲げる公約に沿って紐解いていきます。
英国公共放送BBCによると、労働党は、社会主義者やマルクス主義者、労働組合員などの連合が発展し1900年に労働代表委員会(LRC)として生まれた組織と定義されます。労働者階級の利益を代表し、人権や環境保護、国際社会重視する政策を掲げ、日本では「左派」「革新」などとして扱われます。
同党はこれまでの政権運営時の功績として国民保険サービス(NHS)の導入、死刑制度の廃止、人種差別の違法化、最低賃金の導入、男女の同一賃金法、世界初の気候変動法などを挙げています。
今回の選挙で掲げた主な公約には①経済成長と歳出規制によるインフレーションの抑止・住宅ローンの低下②NHSの待ち時間短縮③不法移民の取り締まり強化④公営のクリーン電力会社の設立⑤教員の増加――といったものがあります。
1つずつ見ていきましょう。どの国においても選挙公約には、各国の課題や国民の不満が表されており、生活の様子が読み取れます。まず①の経済成長ですが、これはどの党も掲げる定番の項目と言えます。具体的な政策は、政権運営の本格化やその時々の課題に合わせて打ち出されるでしょう。
②についてはNHSの仕組みを知ることが必要です。英国は日本同様、国民皆保険制度を設けていますが、大きく異なる点が2点あります。医療費が原則無料であることと、GPと呼ばれる「かかりつけ医」制度です。
医療費の無料により、金銭面では、すべての国民が簡単に受診を希望することができます。しかし、専門医や大病院での受診にはまずGPに相談する必要があります。無料を背景に多くの希望者が殺到するため、GPでの受診ですら数か月待ちが常態化しています。
海外の人は発熱程度では病院に行かない、とよく言われますが、英国では行きたくても行けないのが実態です。医療機関を自由に選べないという問題もあります。NHSによると、イングランドでは4月時点で約750万人が受診待ちとなっており、うち4割程度が4か月~1年間の待機となっています。
待機リストはコロナ禍以降急増しています。患者の増加だけでなく、待遇改善を求める医師のストライキも大きく影響しています。労働党は、保守党政権が始まった2010年時と比べ待機リストが3倍近くなったと批判しています。
この予約待ちの状況を解消するというのが労働党の公約の1つですが、保守党も医師の待遇改善により職員数を増やし待機問題を解消すると打ち出していたため、選挙中には両党の差があいまいとの指摘も見られました。
次は不法移民対策です。イギリス、とくにロンドンには移民が多く存在します。市民の約4割が英国外生まれとの統計があります。もともと保守層の一部には移民への反感がありますが、今回の争点は「不法移民」です。EUからの離脱(ブレグジット)以降、島国である英国にはフランスからボートに乗って不法入国する例が相次いでいます。
こうした不法移民が治安を悪化させたり、公共サービスの維持に支障をきたしたりするとの懸念もあり、保守党政権は選挙前の4月下旬、英国に着いた移民をルワンダに強制送致する法律を可決しました。これに対し、労働党は人権侵害であるとしてこの法案を廃棄し、渡航をあっせんするギャングの取り締まりを強化することを掲げています。
米国大統領選では、トランプ氏がたびたびメキシコ国境の壁建設を主張し、人権派から批判を受けますが、英国でも不法移民に対する不満は強いと感じます。両党で取り締まり方法に対する違いはあるものの、ともに対策を強化するという点では方向性は一致しています。