ミナシゴノシゴト│⑨戦史
▶戦争の擬人化
ミナシゴというワードを設置する時点で「戦争の擬人化」というネタも決まっていた。
ここも以前、メディア誌の取材で答えたが、僕はDMMゲームスの「御城プロジェクト」が好きで以前プレイしていた。
これは日本や世界に実際に存在するお城を擬人化したゲームだ。
ソーシャルゲームではよくある、「〇〇の擬人化」だ。
これは個人的に良い文化だと思う。
魅力的なキャラクターを得るのと同時に、史実のお城やその歴史を知るきっかけとなり、ユーザーの知識に繋がるからだ。そこから掘り下げて調べる人も少なくないと思う。
ミナシゴノシゴトにおいて、登場するミナシゴという種族は、童話や神話、史実の英傑まで、あらゆる英雄をモチーフにしている。
一見よくあるソーシャルゲームのモチーフだが、実はこの設定より先に決まったのは、戦神のほうだった。
早くから本作には今まで見たことのないモチーフを設置したく、ある試みをしたいと考えていた。
それが戦神という存在だ。
戦神は、ゲーム上、召喚獣という位置づけ・役割がある。見た目はミナシゴ同様に美少女だ。
実はこの仕事を始める上で、この設定が一番大変であり、一番ワクワクした。
▶ミナシゴの対局
「ミナシゴの対局は戦争である」というのはすんなりまとまった。広義の事件・争いによって作中のミナシゴが誕生するからだ。逆に言えば戦争の犠牲者のアイコンとしてミナシゴが存在している。
宿敵として戦争が存在し、そこに人格を与える。じゃあ擬人化した戦争をボスにしようという訳だ。
これによって「ミッドウェー」や「ラグナロク」といった、史実から神話の戦争の擬人化を、戦神という役割として世界観に設置した。
後にこの点の設定にはやや広義の「血が流れた凄惨な事件」も加わる。
ここを容認した理由は、「ユーザーの皆様の知識に繋がる」という点だ。
おもしろいキャラクターという付加価値から、知識を得た上で、応用は委ねる、という僕がしたいこと、またされて良かったことを提供できるようになった。
企画書が通った時点で、さらにいくつかの戦争史の本を購入し、そこからワーテルローやメギド、ゲンペイガッセン、タイヘイエンゴクノランなどが生まれた。
今でもインプットからピンときた戦神のアイデアを並べ、S氏に送っている。(かなり簡単になので申し訳ないが)。
そこから素晴らしいキャラクター性、さらにはそこから生まれるイベントストーリーを付与して頂き、リリース後もコクシビョウやヨシワラエンジョウなども実装されて嬉しかった。
そして「よく実装したわ……」とアバンギャルドな作品だと改めて感心する。
補足として、岡田が関わっていない戦神やイベントのほうが多い。優秀なライターチームの皆様が、この世界観設定を活かして本当に良いものを作ってくれている。
とにかくこれが本作の企画を創る上での『ビックバン』で、一気に世界観を広げ、さらに「色」「背骨」が加わるきっかけとなった。
長くなったが、そこに主人公である黒騎士も大きく関わることになる。
▶中間管理職
黒騎士は、主人公であり、プレイヤーの分身、戦神でもある。彼は記憶喪失で無口だが、ミナシゴのためなら何でもする。おこずかいが金貨2枚なのは後にS氏が加えてくれた設定だ。
秘密が多く、現在実装された6章まででも、ようやく想定の4割くらいが語られている。
以前彼を黒い騎士にした理由は述べたが、彼の「立場」においてもかなり悩んで二転三転した。
彼の正体は物語の大きなネタバレとなるが、結果としては非常に強力な、戦神として最上位の存在となる。
実は彼はもともと8柱の魔王の一人として描いていた。8柱の魔王というのは、大魔王の下に位置する、いわゆる四天王だ。
ここまで小難しいことを並べているが、四天王はワクワクする。ファンタジーRPGとしてプレイヤーのモチベーションや楽しみを担う、重要な役割を持つと思う。
ミナシゴノシゴトの主人公は、ミナシゴを導き守る存在なのは早くから決めていたが、その設定は分解して、かなり考えた。
「よりロマンのある主人公とミナシゴの関係性を構築したい」と考えたのが理由だ。
「主人公は8柱の魔王の一人で、魔王はすべて何かしらの理由でミナシゴを保護したり利用したりしている。魔王は互いがライバルで、ミナシゴこそ価値である。主人公もまた中間管理職で、上にも下にも体裁があり、その立場の中、ミナシゴを保護していた」
「だが愛してしまった」
これが最初期の主人公の設定であり、物語の大きな進行力の部分だった。主人公のキャッチコピーの1つでもある、「愛してしまった」というのもこの時点で生まれた。
つづく