ミナシゴノシゴトの仕事
▶企画発足
ミナシゴ企画発足のお題は「ダークファンタジー」だけだった。
「ダーク↑、ダークかー↓……」と無い頭ひねったんだけど、先ずは業界の方にヒアリングして、いくつかDMMのソーシャルゲームについて下調べをした。
売れてるものはすぐにわかるので、どちらかというとダークというパッケージに沿った作品の中でも、残念ながらサービス終了になったゲームもいくつか可能な限り確認した。
詳しいいきさつは省くけど、そこから得たのは、
「暗いだけじゃなく、明るいものがある」
という雰囲気があったほうが良いこと。あと単純にキャラの立ち絵の統一性なんかも大きく関わると感じた。
さらに僕個人が惹かれるストーリーは、
「絶望から希望を生む、反逆や革命、ストレスによって練磨された生命の輝き」
みたいなものを早くから提示する作品にしたかった。
小説は基本一冊でこのカタルシスの提示が出来るけど、漫画は一話目の序盤など即効性がないといけない。
敢えてゲームシナリオをそのルールにはめ込むと、漫画寄りだと思う。
なのでカタルシスの提示が遅いと、現代の読者が離れるのは経験上よく知っていた。
また込めたいテーマの方向性において、今もっと言語化するなら「挑戦に対する応戦」で、そこに一つのストーリーとしての魅力を感じる。ジャイアントキリングとかがわかりやすいかな。
▶3つの企画書
企画書はABC案の3つを用意した。
Aはミナシゴと勇者に関わるもので、郷愁的で切ない雰囲気を醸し出す企画書にした。
Bは死と時間をテーマにした集団タイムリープもの。ちなみにミナシゴよりさらに暗く、白と黒のコントラストが強い企画書だった。
Cは異形や怪異をテーマにしたアクション・バイオレンス性が強いもので、実はもともとコミック用に用意したネタを基にした。血生臭く、人間の憎悪や、ホラー性を意識した企画書だった。
はじめは3つ目Cの感触が良く、これが選ばれると思った。
ミナシゴ案は「実現が最も大変そう」だという評価だった。
けど最終的には、ミナシゴが選ばれた。上記の通り、大変そうだけど、実現したら最も手応えを感じる作品になるという流れだったと思う。
ちなみにこの1年後、全く別の会社の、一般のソーシャルゲームから、2つ目のBと似たテーマの作品が出ていた。
実はアイデアとして最もインスタントに作ったのがBだった。もちろんそれなりの魅力を込めて、自分自身良いものをと考えたアイデアだけど、熟考のない作品アイデアは、意図せず他と被ることが多いことを身を持って知った。
リリースしたほうの他社のゲームは、その後売れたかどうかわからない。
▶雰囲気を創る
またここまでで、原作者としての自分の役割を考えた。本を作るのも実はチーム戦だけど、ゲームはさらに人が増えるので、先ず自分の役割(シゴト)を自分で決めた。
僕の場合は「雰囲気を創ること」とした。
それはゲームの雰囲気であり、作品をパッと見た時に伝わる雰囲気、一歩足を踏み入れた時に感じる雰囲気だ。
正直、ゲームの顔はキャラクターのヴィジュアルであり、そこが花形だと思う。
また僕は、難解なプログラムや、ゲーム性を組み立てることは専門じゃない。
ちょっと文章が書けるだけの明るい人間だ。
そこで僕が出来る役割は「雰囲気を創ること」とした。
僕がミナシゴに込めた雰囲気は、夕日の温もり、疲れ切った身体、けれど愛する人と手を繋いで帰路につくような雰囲気と、「虐げられた孤児が、逆境に遭いながらも、巨悪を倒すために立ち上がる」。そういった雰囲気だった。
またラストイメージも早くからあった。ロマンとカタルシスのある作品にしたかった。
経験上、泉のようにビジョン(キャラが活躍するシーン)が浮かぶ作品は売れる。ミナシゴは早くからそういう作品だった。
結果としてユニバースの雰囲気やニルヴァーナにゼタ、フランフラワの雰囲気、ジャンヌやアリス、黒騎士、ミッドウェーやワーテルローは、こういった雰囲気を具現化していったのも造形のヒントになった。
当然、キャラには核となるアイデンティティも作った。顕著な例としては、魔王側の事情だ。
そういった情緒を先ず自分が作り上げることが、僕の役割だと企画会議で話した。
つづく