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『メイクアガール』を語りたい!
注意
ネタバレ100%です!
雑感
本作は今から4年前の2020年に安田現象さんが製作された『メイクラブ』をベースとして、長編にブラッシュアップされたものであるわけだが、やはりそこら辺の尺を広げた影響かなのか、というよりも元々がショートアニメに注力してた方という事で、長編アニメの脚本としてのブレ具合だとか、映像のために捨てている部分が大きいのは否定できませんでした。構成のバラバラさというか、短編アニメをつなげたような作りになっており、ラスト20分くらい?の展開とのギャップが非常に気になりました。ここら辺、軽くインタビューを読んだ限りではシナリオを練る中で生まれたものということで、逆にこの展開を起点に作品を作ったら良かったのかなぁと想像してしまいますね。この脚本の微妙さが、全体的なキャラクターの掘り下げの不足感の根本的な原因でしょう。
そこら辺、初期の新海誠さんの様に割り切って、シンプルにしてもう少し短編アニメの尺の中で製作したらうまい具合に省けたていたのかなと思いますね。やっぱり自主制作でショートアニメをやり続けてたというバックボーンが大きくネガティブな方向に影響を出したからでしょう。一方で、そのバックボールが上手く作用している部分も無論ありました。
例えば、物語の前半で主人公である明と0号が2人でご飯を食べる場面。恋人らしい真似をして、手を繋ごうという話になり、そこで握手をする事になります。ここでカメラが2人を窓の外側から捉える構図になり、2人の握手の上に窓枠をうまく重ねています。会話している人物の間に柱を置いたりして、心の壁やズレ具合を表現するのは常套手段ではありますが、それを握手に重ねて、握手してる手の部分を見せないという演出は素晴らしい工夫でした。
他にも、0号に対して新しい部屋を用意し、「これからは友達になろう」と明が話す場面ですが、そこで印象的なオブジェクトとして周期表が使われており、人間に近づこうとして成長している0号と、彼女を機械だと必死に切り捨てようとする明の会話の内容をより引き立てていましたね。また、0号の成長を階段を通して描いたり、終盤で階段から駆け降りる明のカットも良かったです。
そんなこんなで、映像に対するこだわり具合というか、台詞ではなく絵に詰め込むのは繰り返しているようにショートアニメを自主制作し続けてきた安田現象さんらしい冴えを見せてくれています。ただ、例えば本作は実際の街並みをモデルとしており、そこにSF的なガジェットとかを足したわけですが、そのギャップというか、一部の技術が以上発展した世界観というのは、SFアニメとしては悪いノイズになっていたように思います(ここら辺、『イブの時間』くらい振り切れれば良かった気がしますね)。このあたりの不足感は少数制作故の割り切りなのでしょうが、ラボ面とか、建物内のこだわりとのギャップはやはり気になります。
さて、先ほどからあまり良い話をできていないので、少し話を変えて脚本面にフォーカスしましょう。
私自身、ちょうど最近に新文芸坐で『ブレイドランナー』と『ブレイドランナー2049』を見ていたり、昨年末に『ロボットドリームズ』を見たため、テーマ的な部分、言ってしまえば創造物と非創造物の物語としてはそこまで心に残る部分は強くなかったというか、むしろ作中でひっそりと忍ばせていたエッセンスを表に出して欲しかったなという気はします(つまり、明が創造物だとか、母親の考えていたことだとか...)。とは言え、良くも悪くも人間性を少しずつ獲得し、成長していく0号と、研究者として変わらない/変われない明との対比、それ故の終盤での2人の対立は好きです。女の情念というか、自分の心を信じるために、信じたいがために矛盾した行動に直走る0号の切なさは心に来ました。
ソルトでも、第3人類でもなく、人間になりたかった。
だって、彼が好きだから。
だから、彼を傷つける。
そういう矛盾を抱えた時点で彼女は人と同等の存在だと言えるのですが、0号は”人”であることを望んでいたのでしょうね。そんな膨大なバグを抱えた彼女がとても愛おしかったです。
個人的は、ここで二人は死んで電脳世界で二人一緒になるとか、そのまま消えていくみたいな、心中ものになるのかなと想像したりしましたが、最終的に2人の関係性は母と子的な家族として落ち着いたわけであり、それ故にラストの「おかえり」という0号の台詞を、母親の声で言わせたのでしょう(主題歌のMV見てると、この方向性なら普通に親子周りの話にもっとフォーカスして欲しかった気もします)。まあ、多分あのラストは0号の意識に母親の記憶が乗っかって、一つの人格になったとか、母親の人格が代わりに入ったとかの方向な気がしますが、そこは想像力でカバーしました。
あとは、キャラクター周りの話を少ししましょう。
本作はどの登場人物も人間的な醜さを兼ね備えており、それは徐々に人間性を獲得していく0号も同様でした。その点に関して監督ご自身が、元々登場人物は全員もっと嫌なキャラクターだったと仰っているので、本作は安田現象さん的には抑えめにしたのでしょう。本当にこれで抑えられていたのかと言われれば個人的には微妙なところではありますが、やはり0号という存在の成長を描くという視点ではその人間の多面性は欠かせないでしょうから、必要な要素ではあったと思います(正直、安田現象さん人間嫌いか…?とは思いましたね笑)。
まとめ
色々と酷評ぽい内容を簡単に述べていきましたが、個人的には初めての商業作品らしい初々しさが全開で、自分のやっていきたいことがハッキリと描かれていて好きな作品でした(見てる分には0号ちゃんは非常に可愛いです)。純粋にここからどうやって次回作を描いていくのか、安田現象さんの成長が楽しみですね!
最後に新作の話ですが、EDに2027年に安田現象さんのショートアニメの一つのシリーズである銀髪のナイフの女の子の話が映画化?する事が発表されましたね。私自身が安田現象さんを初めて見たのがこのシリーズでしたので、一体どんな物語が展開されるのか楽しみです。個人的には『ガンスリーガーガールズ』(TVアニメの一期の方)みたいなテイストの話を期待したいところです。
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