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久美子について、少し話をしよう『響け!ユーフォニアム3』

まだ、第六話の振り返りメモすら終わってない私ですが、できる限り早く応答したかったので、書こうと思います(応答してるつもりだけど、かなり勢いで書いているので、返答になってなかったらすいません)。そのうち出す総論的なやつにも同じ話が載ると思います(もう少し整理されてはいると思いますが)。

後、注意点ですが私は原作の三年生編は未読です。ただ、こないだ発売した『北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』は読みました。以下が、簡単な私の感想です。

要は、原作との比較の視点が私には足りていないという点を、ご理解ください。

久美子の行動の意味

さて、私は第十二話はめちゃくちゃ褒めている。

日本一、褒めている自信がある。

ここまで褒めているいるのは、上記の記事で語られていた久美子の英雄的な立ち振る舞いが大きく関係しているわけだが、それを語るのは久美子の弱さについてまずは話していくべきだろう。

久美子は部長という立場になったことで、弱さというか、隙が減ったのは事実だろう。しかし、それは彼女が部長としての振る舞いを求められている場面に限る。つまり、彼女の私的な問題に踏み込んだ瞬間、彼女は言葉を濁す事しかできなくなる。それが一番現れていたのは、やはり真由とのやり取りだろう。

劇中の真由との様々なやり取りを見ていればわかるように、久美子は真由を避けている。窓を閉め切っていると言ってもよいだろう。そして、自らのテトリーに真由が入る時だけは拒否反応を示している。

これは、久美子自身の明確な弱さだ。

あすか先輩が言うように、久美子の良いところは好き勝手に言うところにある。では何故、ここまで久美子が真由に苦手意識を持っているのかと言えば、劇中でも言及されていた様に、黒江真由は麗奈に出会う前の黄麻久美子だからに他ならない。久美子の遠慮のない物言いは、他者の問題に関してだけであり、本格的に自分の問題となったときには彼女は怯んでしまっていた。彼女が進路についてものすごく悩んでいた事にも同じことが言える。つまり、黄前久美子は自身の問題と向き合うのが苦手なのである。

しかし、そんな自信のあり方を久美子は好んでいない。だからこそ、誇れる自分になるために滝先生に彼女は提案する。そして、久美子は自らの提案のもと、仕切りを作ることで可能な限り音のみを判断の軸とさせるソロを賭けたオーディションに臨むことになる。

結果、彼女は真由に一票差で敗れる。その事実に、北宇治の生徒たちは動揺を感じているが、久美子は部員たちに告げる。

久美子「これが!今の北宇治のベストメンバーです。ここにいる全員で決めた、言い逃れのできない最強メンバーです!」

『響け!ユーフォニアム3』12話

久美子のこの演説は『響け!ユーフォ二アム』という物語の中で、非常に大きな意味を持つ。第十二話内でも言及されていたように、久美子と真由がオーディションをしている会場は、二年前に麗奈と香織先輩がソロを賭けて戦った場所だ。そして、そのオーディションでは久美子は麗奈との約束を果たし、麗奈に拍手をし、結果的に麗奈がソロの座を手に入れる。

この回は、北宇治高校吹奏楽部においても、非常に大きなターニングポイントだった。というのも、北宇治高校の実力主義はこの場で始まったと言っていいだろう。

北宇治高校の吹奏楽部は、滝先生が来るまでは典型的な安易な楽しさを重視した部活であり、コンクールのメンバーは年功序列制だった。そこに滝先生という外部からやってきた人物に乗せられ、なんとなく彼女たちは全国金を目指すことになる。そして、激動の日々を彼女たちは過し、問題のオーディションが始まる。

一度目のオーディションで麗奈がソロに選ばれた際、北宇治の中では変な噂が流れたりと、彼女のソロに否定的な空気が場を支配していた。この中で、ハッキリと麗奈の味方になっているのは久美子のみである。(葉月も麗奈側であるが、この後にも言及する様に空気に飲まれている側面があることは否定できない。また、これが描かれた第一期の第十話では久美子が美知恵先生と二者面談をし、軽く進路の話題が出てきており、ここら辺と第三期がきちんとリンクしていることが感じ取れる。)。

そして、トランペットのソロを賭けたオーディションを再度やる事になる。つまり、北宇治高校吹奏楽部のメンバーは、香織先輩か麗奈かの二択を迫られることになった。

このオーディションが北宇治高校吹奏楽部にとって、何を意味しているのか、それが非常にわかるのが麗奈と優子先輩のやり取りだろう。

麗奈「わざと、負けろっていうんですか。」
優子「バレたら、私が脅したことにして良い、いじめられたって言ってもら    
   ってかまわない。だから、」
麗奈「そんなことしなくても、オーディションで香織先輩が、私よりうまく
   吹けば良いんです
。」
優子「わかってるよ…(中略)」
麗奈「関係ないですよね、私には関係ないことですよね。」
優子「そうね、関係ないよ。全然関係ない。でも、あなたには来年もある、
   再来年もある。滝先生だったらもっと部は良くなる。香織先輩は最後  
   なの、今年が最後なの

『響け!ユーフォ二アム』シーズン1-11

ここでは優子は香織先輩よりも麗奈の方が技量が高いところを認めている。香織先輩至上主義の優子が、だ。そして、その上で、今年は譲れと言う。

この会話で大切なのは、香織本人ではなく、優子先輩が麗奈にお願いしているというところだ。ここで語られる香織像は、あくまで優子先輩の中の香織先輩でしかない。つまり、香織先輩がソロをとるというのは優子の願望という側面を持っている(奏と久美子の関係もまさにこんな感じ)。

ここで、ある図式がこのオーディションの中にあることがわかる。香織先輩がソロを取れば、優子先輩の望みが叶う=年功序列制の勝利(旧北宇治)。そして、麗奈がソロを取る=実力主義の勝利(新北宇治)となるのだ。ようは、実力主義対年功序列制なのである。

二人の演奏後、優子先輩のように香織先輩(つまりは年功序列制)に拍手をする部員は少なかった。だが、麗奈に拍手をする人間も少なかった。ここで、明確に率先して意見を持って拍手したのは久美子と優子だけだった。また、劇中の描写からわかるように、久美子が拍手をしなければ、誰も拍手をしないで終わっていただろう。

つまり、香織先輩と麗奈を通して、久美子と優子の戦いが描かれている。そして、香織先輩は問われることになる。

自身(=優子先輩)か、麗奈(=久美子)か

そして、彼女は麗奈を選ぶ。これにより、北宇治は新たな体制を受け入れ、実力主義の道を歩んでいく事になる。先ほど述べた様に、麗奈が勝利できたのは彼女自身の技量もあるが、久美子の支持が大きい。多数決によるオーディションというのは(例え、形式的なものであっても)、主権は票を入れる側にある。要は、北宇治が実力主義を歩む最大の一押しを久美子はしたと捉える事ができる。

そして、彼女はその実力主義を信じて三年間突き進む。それは、本作に触れた方ならば、誰もが良く知っているだろう。

久美子は今の北宇治が好きだ。

だからこそ、ここで久美子がこの結果(真由がソロになった)を肯定しなれば、彼女のこれまでの発言も、行動も、すべて嘘になってしまう。加えて、彼女は北宇治高校吹奏楽部の部長だ。晴香先輩達や優子先輩達からその座を受け継いだ、今の北宇治高校吹奏楽部の部長なのだ。ならば、北宇治の実力主義を誰よりも肯定する責任がある。この重さを彼女は見事に背負い、成し遂げた。その立派な、誰よりも強く輝いた彼女の姿に私は心を強く突き動かされた。この行為により、彼女は自身の弱さを乗り越えたのである。

では、これは自己犠牲の美しさなのか。

彼女は弱さを捨てたのだろうか。

そうではないと、私は思う。ここで久美子がソロになれなくて、それでも結果を肯定したことだけを見ると確かに彼女の行動に自己犠牲的な側面を感じることも可能だろう。だが、ここには北宇治の実力主義の物語しかない。その先に立つ、麗奈との話も言及するべきだろう。そして、麗奈の話をするとき、久美子はある側面を強く見せる。

それは、一人の奏者としての側面だ。

麗奈とともに全国でソロを吹きたい。それで金を獲りたい。久美子は北宇治の実力主義を大好きで、その上で麗奈とソロを吹きたかった。これを完璧に叶えるには当然、久美子が真由より上手な演奏をするしかない。しかし、彼女は真由にはあと少し、おそらく、ほんの一歩届かなかった。

これは、彼女が部長であることが関係していると思われる。第八話で合宿に向かうバスの中で真由は楽譜とにらめっこしていますし、久美子よりも浴場に来るのが遅かった(おそらく練習していた)。ここには、単純な努力量の差が二人の間にはあることが感じ取れる。

加えて、彼女は音大に行くという選択肢に抵抗を感じている。それは、麗奈と同じ方向性を向き切れていない表れだろう。そして、麗奈との衝突を経て、二人の関係性は大きな変化を迎えることになった。

それを、彼女は理解している。

久美子「私も吹き終えてどこかで分かってた。音大じゃないって思い始めた時からの迷い、それがわずかにでも音に出た。麗奈はきっと聞き分けるって。そして、一番を選ぶ。」

『響け!ユーフォニアム3』12話

彼女は麗奈と共に吹けない。それは久美子の実力不足故で、麗奈が麗奈であるが故だ。だからこそ、彼女はその結果を肯定する。かつての約束を守り抜いた麗奈に応えるために、麗奈の決断に応えるように、久美子は言う。

久美子「これで全国へ行きましょう。そして、一致団結して!必ず、金を、全国大会金賞を取りましょう!」

『響け!ユーフォニアム3』12話
『響け!ユーフォニアム3』12話

それこそが、奏者としての特別さを持たない久美子が、麗奈と並び立てる唯一の行為。彼女は決して、自己を犠牲にしたのではない。彼女は決して弱さを捨ててはない。

自らが誇れる、誇りたい選択を取った。

その結果、彼女が後輩たちから英雄視されようと、北宇治の古典になり果てようと、彼女はその選択肢を悔いることはないだろう。これを悔いるということは、彼女の三年間の全てを悔いることに等しいのだから。

『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』はどうだった?


冒頭のポストにも書いてある通り、ほんとにしんどかったです。というのは、奏視点での真由の描写と彼女自身の回想から、黒江真由という存在の未来に希望が何一つ感じられなかったのだ。

ハッピーエンドとはそもそもなんだろうか。

至極当たり前だが、ハッピーエンドという概念は終わりがあるからこそ生まれるものだ。卒業式というのを、一つの終わりとしてカウントするならば、彼女は高校生活をハッピーエンドに終えるだろう。けれど、人生はまだまだ続く、むしろ、これからが本番と言っても良いだろう。その中で、ハッピーエンドなどという概念が適応できるのは死ぬ間際のみだろう。

では、彼女は死ぬ間際に幸せになれるのか。

それが、どうしても私には想像できなかった。

というのも、彼女は徹底して他者を求める存在である。彼女自身が作中で語っている様に、彼女は恋人などどうでも良いのだ。彼女が求めているのは友人であり、彼女が悪い男と付き合いそうというのはその点にある。詰まるところ、セフレを求める様なタイプの男性が好みなのだ。

私の知人にも、その様なタイプの男性は片手で数えられる程度はいるが、話を聞く限りではお互いにセフレという関係に少なくとも一度は合意してる。軽く付き合って、軽く別れる程度だ。その軽さが、良いのだろうが、真由が望んでいるのは恒久的な関係値だ。

だからこそ、新年の挨拶の連絡が来ないことにショックを受けている。

物凄く語弊を招く表現だが、黒江真由(原作)は他者からの承認欲求が非常に強い女の子だ。

それは、別に特別な事ではないけれど、彼女はそれに自己を振りすぎている。けれど、他者に承認を求めるには自己を強く肯定する必要がある。自分自身が、自分には何かしら魅力があると思わなければ、他者に肯定してもらおうなどという思考にはならない様に私は思う。

そして、ここでネックなのは彼女が悪い男に引っかかりやすく、恐らく大学生活で引っかかるであろう事だ。それが一度や二度くらいならまだ良い(良いか?)、けれど彼女は自らの思想に変化が生じなければこのままだろう。

もし、引き返せないほどの地点に来た時に、自らの思想の負の側面に気付いたのなら、それこそ黒江真由は久美子達に笑って会えるのだろうか。

私は、非常に疑問である。

最後に

そもそも、人は後悔とかを背負うものだ。本作がキャラを描いてるだけなら、幸福に終わるのも良いだろう。けれど、本シリーズは徹底して彼女達を1人の人間として描いている。ならば、糧となる後悔を背負ったことを我々は肯定すべきなのだ。一人の人間の決断を、尊重すべきなのだ。

原作の真由に関しては、まあ、おそらくXでひたすらR18ssを上げ続けている某アカウントの影響があると思うので(というか、無いわけがない)、軽く受け流していただければなと。別に原作の真由に不快感を覚えた訳ではないですし…。

アニメ版の黒江真由は大好きです。

割と真剣にお付き合いしたいなと思ってます。

急いで書いたので、誤字や理解しにくいところがあれば私のXか何かに言ってくださると幸いです。

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