ウマ漢 第2話「同盟の裏で…」

〜闇の獣舎〜

救出してから3日経ったある朝方、その子が目を覚ます。

???「ん…」

その子が目を覚まして周りを確認するとそこが本来自分がいる場所ではないことがわかると逃げ出そうとするもハザードが張った闇結界が行手を阻む。

???「痛っ!」

???「張ってて正解か」

その声を聞いたその子は、しゃがみながらもすぐに戦闘態勢を取る。

???「だれ…」

その子が見つめる先にいたのはハザードと人間の姿をした穂乃火だった。

穂乃火「落ち着くでありんす、光の者よ。あたしらは、敵では無い」

???「そんなの…信用出来ない」

ハザード「なら、はっきり言っておく。その結界の中で貴様が幾らもがこうとも抜け出すことは不可能だ。俺が張った闇結界は、貴様が現時点で持つ光の叡智(ちから)の数億倍となる。下手に動けば…その身が斬り裂かれるのみ、どうする?」

???「……………」

穂乃火「あたしらは、話がしたいんさ。なぜ、軌道を外れたのかを…そして、その首元に浮かんでいる刻印のことも」

その詞を聞いた瞬間、その子は、首元にある刻印を隠す。

ハザード「その刻印は、戦馬として認められた馬にしか押されない刻印…1度刻まれれば2度と消えることがない。その若さでなぜ、その道を選んだ」

しかし、その子は、無言のままこっちを睨みつけたままだった。

穂乃火「やはりあたしらを警戒している様でありんすね…」

ハザード「仕方あるまい。ここは、闇の世界…こやつからすれば敵の陣地にいるんだ…そうなるのも無理は、ない」

穂乃火「戦争の傷痕か…」

ハザード「今は、静かにさせておこう。穂乃火よ、引き続きこやつの面倒を頼む」

穂乃火「わかった」

そう言うとハザードは、そのままどこかへ歩いて行くと穂乃火は、その子の目を見つめる。

穂乃火「(この子にだって普通の女の子として生きる権利があったはず…普通の馬として生きる権利があったはず…まだ、愚かなことを続けると言うのか、人界の奴らは…)」

そう思いながらも穂乃火もどこかに向かって歩いて行くのだった。

誰もいなくなったのを感じたその子は、警戒を解き、ハザードが張った闇領域に再び軽く触れるも黒紫色の電流が流れ、弾き返される。

その子は、何とかして抜け出せないかと周りを見回すと厩舎の側に立て掛けられている三又の鍬を見つける。

その子は、辛うじて使える光の叡智(ちから)を使い、右手の中で苦無を形成し、実体化させるとそれに向かって投げる。

しかし、苦無は、鍬に当たる寸前で誰かに止められる。

???「余計なことはしないでくれないか」

そこにいたのは人間の姿をした闇斬馬だった。

闇斬馬「よっ、おはようさん」

???「闇…いや…違う…でも…」

闇斬馬は、受け止めた苦無を握り潰すと苦無は、光になって消えて行くのだった。

闇斬馬「お前じゃ、俺の気迫を読み取ることは出来ないだろうな。なんせ、お前の大先輩達の心と魂を受け継いでいるんだからな」

???「………!」

その子の目には闇斬馬の後ろにサイレンススズカの面影が現れる

???「ス、スズカ姉さん…」

闇斬馬「そうか、お前にはそう見えるか。俺には漢として見えている。お前にだって誰かを想う人としての心があった…そうだろ?」

???「貴方は…一体…」

闇斬馬は、左斜め下から右斜め上に向かって右手で手刀を繰り出すとハザードが張っていた闇結界を破壊する。

闇斬馬「これで自由に動ける」

???「なぜ…私を…光と闇は…」

闇斬馬「ああ、確かにお前の言う通り、光と闇は、相対する者で敵対する存在だ。しかし、それは、もう、昔の話…時代は、変わった。自然種の登場により何千兆年と言う長い歴史の中で争っていた光と闇の対立は、終わりを迎え、共存の世界が誕生した。それを象徴する闘技場、光闇の闘技場が建てられた」

???「何が言いたいの…」

闇斬馬「戦馬として生きるより、競走馬として生きてみないか」

???「私達馬は、人間に使われるために生まれて来た存在…」

闇斬馬「そうじゃないさ」

???「なんでそう言えるのよ…貴方だって知ってるでしょ…どんな歴史を歩んで来たのかを」

闇斬馬「ああ、知らない訳がない。だから、俺は、この心にみんなの心と魂を受け継いだんだからな。でも、そこには確かにあったんじゃないか、人間(ひと)と馬との心の絆が」

???「そんなの…」

闇斬馬「俺達は、自分達が犯して来た過去の過ちを償う為に活動をしている。共に来てくれないだろうか? そして、他のみんなにも見せてやらないか、人間(ひと)と馬との本当の心の絆と言うのをさ」

???「変わった人…」

闇斬馬「人じゃないがなw そうだ、君の名前、まだ聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

オーバーホライゾン「ホライゾン…オーバーホライゾン」

闇斬馬「オーバーホライゾンだな。俺の名は、闇斬馬、よろしくな、ホライゾン」

オーバーホライゾン「…………」

闇斬馬「まぁ、慣れるまで大変だろうが、頑張ってやって行こうぜ。それじゃ、まずは、この闇の世界の統治者に挨拶しないとな」

オーバーホライゾン「会って大丈夫なの…」

闇斬馬「ああ、主は、誰よりも自然を想い、物を想い、そして、人間(ひと)を想う者だ。まぁ、会えばすぐにわかるさ。行くぜ」

そう言うと闇斬馬とオーバーホライゾンは、闇の巨城に向かうのだった。

闇の獣舎から出た2人は、馬の姿に戻ると闇斬馬の姿を見たオーバーホライゾンが驚き、歩みを止める。

オーバーホライゾン「!!」

その気配を感じた闇斬馬は、オーバーホライゾンの方を振り向く。

闇斬馬「ん? どうした?」

オーバーホライゾン「い、いえ…」

闇斬馬「そうか?なら、行くぜ」

そう言うと2人は、再び歩き始めるのだった。

オーバーホライゾンが驚くのも無理はなかった。

そこにはオーバーホライゾンの3倍はあろう真っ黒な毛並みで発達した強靭的な肉体の巨体があり、胴体や脚の所々に傷痕が痛々しく残っていた。

その姿は、まるであの伝説の名馬、ディープインパクトの生まれ代わりの様だった。

そして、2頭が闇の巨城の正門前にやって来ると1人の門番が立ち塞がる。

???「止まれ」

そこにいたのは漆黒に染まり、金色の線が入った鎧を身に纏い、右手に真っ黒で巨大なランスと左手には太陽の形を象った真っ黒で巨大な盾を構えたまさに番人とも呼べる者だった。

???「この巨城に何用か」

闇斬馬「漆黒の番人、闇の王にこやつを紹介したい」

漆黒の番人は、闇斬馬の後ろにいるオーバーホライゾンを険しい眼差しで睨む。

オーバーホライゾン「(す…凄い殺気…今の私では一瞬で…)」

漆黒の番人「大丈夫なようだ。しかし、闇の王からは来客があるとは…」

ハザード「通してやれ、番人よ」

声のした方を見るとそこにはハザードの姿があった。

漆黒の番人「ハザード様」

ハザードの姿を見た漆黒の番人は、ハザードの前にひれ伏し、敬意を払う。

闇斬馬「ハザード」

ハザード「ジンの奴には既に伝えてある。奴も興味深々だった。おそらく、スムーズに話が進むだろう」

闇斬馬「すまないな」

ハザード「漆黒の番人よ、門を開けよ。そして、あらゆるトラップを無効せよ」

漆黒の番人「貴方様のご命令とあらば」

そう言うと漆黒の番人は、自分の身体の3倍は、あろう巨大な門の前に立ち、左手の平を門に密着させる。

漆黒の番人「ふんっ!」

その掛け声と同時に閉ざされていた門がゴゴゴと言う轟音と共に開いて行く。

オーバーホライゾン「す、凄い…あの巨大な門を片手で…」

ハザード「こんなことで驚いている様であればこの先、心臓が幾つあっても足りないだろうな。闇斬馬なら前脚2つで蹴り飛ばして開門出来るからな。闇の王となれば尚更だ」

漆黒の番人が門を開けると敷地内に向かってランスを振り向け、ある波動を放つ。

漆黒の番人「お待たせしました」

ハザード「本来、闇の巨城には何重にも罠が仕掛けられてある。無傷で通れるのは闇の王に認められし者達のみ。他の種族や認められていない者が入った場合、真っ先に罠の餌食になる」

闇斬馬「ちなみに闇の巨城に張られてある闇領域は、初代から現在7代目の闇の王が持つ、人としての心の叡智(ちから)を集結させて構成された領域だ。かなりの強者でないと触れただけでその存在ごと消し飛ぶだろう。そして、辛うじてそれを突破したとしても番人が立ち塞がる」

漆黒の番人「…………」

そう言うとハザードと2頭は、敷地内に入り、扉の前に立つとハザードがゆっくり城内へと続く扉を開ける。

ハザード「さらに突破としても敷地内に設置された罠を突破して、さらに城内に入るための扉に仕掛けられた罠を突破してやっと城内だ。しかし、わかる通り闇の巨城内部…そう簡単に玉座に通す訳がない。さぁ、行け」

2頭は、闇の巨城の廊下を歩き始めると無言のまま闇の王が鎮座する玉座へと向かうのだった。

〜闇の巨城内部〜

そして、廊下を歩いている途中で両側の壁に剣を天に突き上げた騎士の銅像と槍を天に突き上げた武士の銅像が並べられた廊下にやって来る。

2頭がその間をゆっくり歩いて行くとオーバーホライゾンは、その圧倒的な威圧感に警戒する。

オーバーホライゾン「…………」

闇斬馬「そのまま歩けば良い」

その途中で前を歩いていた闇斬馬の姿が消えて行く。

オーバーホライゾンは、闇斬馬のさっきの詞を信じてそのまま歩いて行くと廊下から全く別の場所にやって来る。

〜闇の王の玉座〜

オーバーホライゾン「ここは…」

闇斬馬「ここが闇の王の玉座だ」

???「おっ? 来た様だな」

声のした方を見るとそこには玉座に深く座り、左脚を右脚の太腿に乗せ、椅子の手置き場に腕を預けている闇の王の姿があった。

???「それじゃ、人間の姿になって貰おうか。よっと」

闇の王が指をパチンっ!と鳴らすと闇斬馬とオーバーホライゾンの姿が人間の姿に変わる。

???「なんだ、闇斬馬、少女を連れて来て。デートなら別の所を選べよ」

闇斬馬「違うわ」

2人は、闇の王が座っている玉座の前にやって来る。

???「んー…そうか、わかった!※レンタル彼女だな!」

闇斬馬「良いから黙っとけ」

(※彼女、お借りします。サイバーネオン編を参考)

???「はい、すいませんでした。何でだよw」

闇斬馬「お前のくだらないやり取りのせいでホライゾンが入ってこれないだろうが」

???「なるほど、ホライゾンと言うのか。初めまして、ホライゾン、俺が闇の王、仲村ジンだ」

オーバーホライゾン「(こいつが…闇の王…)」

闇斬馬「主、話は…」

ジン「ああ、事前にハザードから聞いてる。おそらく、このままだと光の領域には戻れない。俺の権限で闇の獣舎でホライゾンの身を預ける事を許可する。戦馬に育てられた者か…まだ、幼いと言うのにな…」

闇斬馬「穂乃火の話によると光の者が同盟の裏で暗躍している可能性があると」

ジン「今、裏を取って貰っている所さ。ふぅ…なんで、普通に出来ない…どいつもこいつも…何のために大勢の生命(いのち)が亡くなり、血が流されたと思ってるんだ…何のために俺と白金の騎士が心を通わせて同盟を結んだのか意味が無くなる…まったく…」

闇斬馬「主、少し提案がある」

ジン「ん? 提案? 聞こうじゃないか」

闇斬馬「ホライゾンをここで特訓させて光闇の闘技場の大会で行われる最高峰の大会、光闇杯に出場させたいんだ」

ジン「それ、マジで言ってるのか、闇斬馬…そこにはもはや歴戦の馬達が集い、己の叡智(ちから)を争うレースだ。わかってるな?」

闇斬馬「ああ、このまま戦馬としては生きさせたくないんだ」

ジン「………なら、当のご本人の意思を聞いてみるか。どうする、ホライゾン。別にこのまま普通に闇の世界で暮らしても構わないが、お前のいた世界には永遠に戻れない。もし、このレースに出て、実力を見せれば光の世界に戻れる可能性がある。さて、どっちを選ぶ」

ホライゾン「私は……ここで暮らすぐらいなら抗って光の世界に戻る事を選ぶ」

ジン「そうか、良い詞だ。なら、他のみんなにその事を伝えておく。しかし、他の種族の領域には何があっても1人で行くな。自然種の脅威がまだ続いているからな。闇斬馬をトレーナーとせよ。頼んだぜ、闇斬馬」

闇斬馬「お任せください、主」

ジン「それじゃ、解散!」

その掛け声と同時にジンが指をパチンっ!と鳴らすと2人の姿は、馬に戻り、闇の巨城の門の前まで移動していた。

〜〜闇の巨城の門前〜.

ホライゾン「いつの間に…」

闇斬馬「と言う訳だ。行こうぜ」

2頭は、闇の獣舎に向かって歩いて行くのだった。

闇の獣舎に着くとそこには今か今かと帰りを待っていたハザードと人間の姿をした穂乃火、雷電と鳳凰の姿があった。

〜闇の獣舎〜

ハザード「戻って来たか」

みんなの前に戻って来ると2頭も人間の姿に変わる。

闇斬馬「ああ」

穂乃火「それで…闇の王は、なんと?」

闇斬馬「ここで訓練を積ませて光闇の闘技場で行われる光闇杯に出場させることになった」

その詞を聞いたみんなの顔は、少し険しくなっていた。

鳳凰「そうでしたか…」

雷電「まぁ、良いんじゃねぇ? こいつがそう決めたんだろ?」

闇斬馬「ああ」

ハザード「と言うことは、訓練施設も開放すると言う事だな」

闇斬馬「そう言う事だな」

穂乃火「さて、そんじゃ、買って来たお土産で新人祝いでもするでありんす。あたしは、お茶でも淹れて来るんさ」

ハザード「なら、俺は、食糧庫から果物を取ってこよう」

雷電「そんじゃ、俺と鳳凰は、テーブルとか持って来ないとな」

鳳凰「承知」

みんなが意気揚々としている中でもホライゾンだけはどこかしょんぼりしていた。

それを闇斬馬が見逃すはずは無かった。

闇斬馬「どうした、ホライゾン」

ホライゾン「いえ…本来は、敵である私にどうしてこんなに優しくしてくれるのかなと…」

闇斬馬「簡単なことさ。敵だと認識してないからさ」

ホライゾン「あんな悲惨な大戦があったのに…それでも…」

闇斬馬「あったからこそだ。あったからそこ、今を楽しく生きるんだ。でも、その大戦のことを忘れてはいけない。散って行った大勢の者達の心を忘れてはいけない。俺達は、その人達の犠牲の上で生きているからな」

その詞を聞いたホライゾンは、少し驚きながら闇斬馬の方を見る。

ホライゾン「貴方は…一体…」

闇斬馬「俺の名は、闇斬馬、人間の欲望によって死んで行った大勢の馬達の心と魂を受け継ぐ者さ」

次回に続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?