【アイルランド】クロンファート聖堂
場所:クロンファート、ゴールウェイ州
時代:6~12世紀
クロンファート聖堂(聖ブレンダン教会)は、アイルランドの中央部、ゴールウェイ州クロンファートという村にあるアイルランド国教会の聖堂です。30kmほど北へ行くと、有名なクロンマックノイズという古代から中世にかけてのキリスト教修道院遺跡があり、ここはアイルランドの有名な史跡なので訪れる人も多いと思います。しかしクロンファート聖堂は、キリスト教や建築の歴史に興味のある人でないとあまり知られていないのではないでしょうか。ここを訪れたのは2006年10月でしたが、クロンマックノイズの途中で立ち寄った程度で、しかも紙の地図ではわかりにくく迷いましたが、自分の運転でも何とかたどり着くことができました。今思うともったいないことをしたと思いますが、聖堂だけでなく周辺も含めてもっとじっくりと見て、写真もたくさん撮っておけばよかったと後悔しています。アイルランドの田舎にはこの聖堂のように、古くて魅力のある教会や円塔の遺跡があちこちに残っています。ちなみに私が訪れたときは教会入口は開いていましたが、普段は施錠されているらしく、もし閉まっていたら聖堂の右側にある地元の家を訪ねると、鍵を貸してもらえるそうです。個人宅らしいので、いるかいないかは運次第ですね。
現在の聖堂の建物は、アイルランド初期の修道士でアイルランド十二使徒の一人、聖ブレンダン(西暦484年頃~577年頃)が6世紀に設立した教会の跡地に、12世紀に精巧なロマネスク様式で建造されたものです。聖ブレンダンのころには、約3000人の修道士が住んでいたと考えられており、584年頃に聖ブレンダンが死去した後、遺体はここクロンファートに埋葬されました。彼の墓があったことから、12世紀になってこのような華麗な出入り口のある立派な聖堂が建てられました。
現在の教会の最も古い部分は、1180年頃にまで遡り、扉口はアイルランド・ロマネスク様式の最高傑作とされています。出入り口のモールディング(建築や壁面などの細部に施した帯状の装飾)は、6つのオーダーで構成されていて、動物の頭、木の葉、人の頭など、多種多様なモチーフが施されています。扉口の上には、人の頭と交互に三角形を囲む尖ったフードがあって、その下には、さらに多くの人の頭を囲むアーケードがあります。教会の端にある塔の支柱のアーチも15世紀に作られた枠で装飾されており、ロマネスク様式の扉口の最も内側にあるオーダーもこの時期に追加されました。しかし現在、軟らかい砂岩でできた建物は酷く風化しており、以前の保存活動では建物のすべての問題に対処しきれなかったことや、苔やカビなどの繁殖により劣化が進んでいました。地元の信者の減少に伴い、修繕などの資金も不足していたため、民間企業であるアメリカン・エキスプレス社が財政支援を行ったそうです。