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【オランダ】ドレスタッド(Dorestad)
場所:ウェイク・ベイ・ドールステーデ、ユトレヒト近郊
時代:7~9世紀
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ドレスタッドの興亡
ユトレヒトの南東約20kmほどの位置にあるウェイク・ベイ・ドールステーデの町は、7世紀頃から当時のヨーロッパ北部の主要な港として栄えていた。支配者のフランク人と航海術に長けた地元のフリージア人が町の主導権をめぐって争い、7世紀末にはメロヴィング朝の支配下に入った。ドレスタッドには交易による繁栄とともに、徴税、通行料、港湾使用料など王家にとって重要な財源となっていた。またメロヴィング朝、カロリング朝時代に発行された貨幣には、ここで鋳造されたものも多く、王国の造幣局としての機能も併せ持っていた。
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1967年から77年頃にかけて行われた発掘調査では、当時のドレスタッドの町は現在のウェイク・ベイ・ドールステーデの北1.5kmほどのところにあり、交易水路として利用されたであろう川には港のための土手が築かれていた。出土品の中にはワイン樽も含まれており、ドレスタッドを仲介して行われた交易の商品としては、ライン川を通って運ばれてくるマインツ産ワインが最も重要な商品であったと思われる。結局この町は9世紀初め頃までは繁栄していたが、カロリング朝の交易がビザンティンやイスラムなどの他の航路を使った交易にシフトしていったこと、また衰退の直接の原因として、834年から863年まで続いたヴァイキングの断続的な襲撃があったことなどで、9世紀後半には町は荒廃し消滅してしまった。
ウェイク・ベイ・ドールステーデ (Wijk bij Duurstede)
ここには2007年9月に訪れたが、現在の町の様子から、また当時の遺跡が残っていないことから、ドレスタッド時代の面影は何も窺えないと思う。大都市ユトレヒトの近郊にあり、オランダ特有の風車の景色もあり、周囲にはリンゴなど農地が広がっている小さくてのどかな町である。町の東側を北へ向いて流れる、かつてドレスタッドの港があった川が流れているが、川岸の浸食によってかなりの部分が埋没しており、かつて交易船が行き来できた水路としての機能も規模もなくなっている。しかし南側には20世紀になって掘削されたアムステルダム・ライン運河、ライン川の支流ネーデルライン川という大きな川があり、近代においても水路は活用されている。
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現代的な新しい感じのこの町には、とても小さな「ドレスタッド博物館」があり、壺や武器、貨幣などの出土品や当時の船の模型などが展示されていた。発掘時に古井戸跡から出土したという、最も有名な金のブローチ(Fibula)は残念ながら本物はライデン国立古代博物館に所蔵されていて、現地にはレプリカが展示されているのみ。このブローチはまさにドレスタッドの象徴のようなもので、博物館入口のドアの把手の装飾になっている。博物館に訪れたときは他に見学者もなく貸切状態だったが、年配の管理者の方には熱心に説明していただいた。ただしウェブサイトをみると、博物館はすでに別の場所に移転してしまったようで、Googleマップを見たら博物館のあった建物は空き家になっており、ドアの把手の飾りはそのままだったが、表示等は見当たらなかった。
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あと町の南側には、ドールステーデ城という中世の城があるが、これはドレスタッドが栄えた時代からはずっと後の13世紀になって建てられたもので、現在は市民の憩いの場となっている。
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