【モルドバ】フン族の遺物(2回目)
場所:モルドバ国立民族自然史博物館、キシナウ
時代:4~6世紀
モルドバには2019年6月末にウクライナから入国した。モルドバの主な歴史的文物は、大部分がモルドバ国立歴史博物館(National History Museum of Moldova)に収蔵されていると思うが、ここ民族自然史博物館(National Museum of Ethnography and Natural History)にも興味深いものが展示されていた。自然史の収蔵品は別にして、その名の通り歴史的な収蔵品としては、古来からの様々な民族衣装や宗教的な遺物が多い。
そのような中でおそらく古代遊牧民の石像と、明らかにフン族の特徴を備えた鍑(ふく)が目に入った。フン族の鍑は完全な形のものは10点ほどしか見つかっていないと、フン族の遺物(1回目)に書いたが、これもブダペストで見たものと同様、極めて完全な形で残っていた。なお、こちらのモルドバの鍑は、ガラスケース内で貴重品扱いされていたブダペストのものと違って、狭い通路の他の展示物が並んでいるガラスケース横の床の上に、一応台座はあるがそのまま置かれていた。数少ない貴重で完全なフン族の鍑ゆえ、もう少し展示方法に気を配った方が…とか思ったが、写真撮影する分には非常にありがたい。博物館の展示物で、ガラスケースに入っているものはピントを合わせにくく、またガラスの反射が写りの邪魔になることが多い。
展示物の簡単な説明札には、「フン族の青銅製鍑、シェスタチ、ショルダネシュティ、5世紀」とこれだけしかないので詳細はよくわからない。シェスタチ、ショルダネシュティとは、キシナウの北100km、モルドバ北東部にある町の名前なので、おそらくこの鍑の出土地だと思う。ブダペストの鍑と違い、ネットで検索しても、モルドバ語やロシア語ではわからないが、英語ではヒットしなかった。この話題については最早これまでかと思っていたら、何と日本語の資料を見つけてしまった。日本で出版された鍑についての書籍「鍑の研究 - ユーラシア草原の祭器・什器 - (草原考古研究会編)」に、この鍑のことが載っていた。この専門書によれば、やはりシェスタチという村のはずれで、1962年にトラクターの運転手が農作業中に発見したものとのことだった。フン型鍑の特徴としての、四角い把手に付いているキノコ形の装飾があるのはブダペストのものと同様だったが、さらにこちらはキノコ形装飾部分に丸い模様が付いているというのが、他にはもう一例(それも把手の断片だけ)しかなく、珍しい特徴であるとのこと。フン族マニア、古代青銅器マニアとしては必見ものである。