『Mr. マクマホン: 悪のオーナー』観たよ
Netflixで配信されたWWEとWWEを世界的企業に押し上げたビンス・マクマホンに関するドキュメンタリー。撮影は2021年から始まったがそのあとに怒涛のスキャンダルが発覚しビンスはWWEから追い出されたので思わぬリアルタイム性をまとってしまった。
めちゃくちゃ色々な論じ方のできるドキュメンタリーであり正直『極悪女王』とかドナルド・トランプの話とかと絡めて論をまとめたいところだがまずはこのドキュメンタリーでいちばんやばいなと思ったシェイン・マクマホンの話をさせてほしい。
このドキュメンタリーの主役はビンス・マクマホンの息子のシェイン・マクマホンだと思う。シェインの話が出るのは全6エピソードのうちのラスト2エピソードくらい。いろいろバックステージのもめ事を経て悪の経営者としてのキャラクターを確立したビンスだったがリング上のストーリーに家族を絡め始めてステファニーもシェインも徐々に表舞台に立つようになった。優秀でしたたかなステファニーと違ってシェインは家族から浮いていてそもそも優しい人物であることが周囲の証言から浮かび上がっていく。ステフとトリプルHとの結婚にも反対していて、「らしい」な~と思う。でもシェインは自分の存在を父親に示したいのでいろいろと提案をしてそのたびにビンスにバカにされつつ拒絶される。
ビンスとシェインの関係性は、めちゃくちゃ典型的な「父と子」の呪縛をなぞっている。ほとんど一代でプロレス帝国を築き上げた父親と、父親に認めてもらいたいけどその父親の資質をあんま引き継いていない優しい息子。まんま『アイアンクロー』だ。っていうかシェインの半生、絶対に映画化されるだろう。ビンスに認められるためにシェインは何をしたか。コーナーからコーナーまで飛んでミサイルキックをし、カート・アングルにガラスに向かって投げられ、照明を設置する柱から飛び降りた。そして常に血まみれになった。首にもダメージがあるよな~という落ち方もする。何のために。父親に認めてもらう、ただそれだけのため。やめなよ~その父親かなりのクソ野郎だよ~とか思うけど、別にビンスの人格どうこうの問題ではなく、シェインは「息子」の人生を生きる上でそこから逃げられないのだ。
インタビューでのシェインの様子もちょっと面白い。ほかのレスラーだったりジャーナリストはなんだかんだで起こった出来事に対してある程度、距離を置いて話をしているんだけど、シェインだけはなんかアングルと現実が混じっているというか、過去のアングルに対していまだに気を遣っている感じがただよう。みんなドキュメンタリー仕様の顔してるのにシェインの眼だけはキラキラしてリング仕様なままなのも怖い。ショーン・マイケルズに至ってはケーフェイなんかどうでもええやろと言ってるのに、シェインだけはまだリングの中にいるみたいなインタビューだ。この感じ(オン/オフなし状態)でビンスの立場になったらシェインだけでなく周りも大変なことになるのは目に見えているので後継者になれないのも当たり前だ。そしてプロレスビジネスの外に出れば、たぶんきっとほかの誰よりもシェインはちゃんとした人だろう。
それでもシェインはプロレスを愛してるしそこにいたい。そこに父がいるからだ。血まみれになってもなお父を求めるシェインの姿は完全にキリストのそれで、プロテスタント男性の目指す姿だ。そしてその姿こそ、プロレスを見ていればアメリカがわかる、と言われるゆえんなのだ。
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