杭の施工偏心の許容値は100mm?
杭の打設は建築工事の中で一番、精度を確保するのが難しい工事でしょう。その理由で一番大きいのは見えない地中に打ち込むため、地中の状況により、ずれてしまう事が避けられないためです。
【あらかじめの検討】
一般には杭の施工偏心の許容値は100mmと言われていますが、これは正しくはありません。国交省、法律が求めているのは以下です。
●杭がずれる寸法を設定し、その寸法で構造計算を行って下さい。
●そして、計算で確認した寸法を構造図面に許容値として記載して下さい。
これを「あらかじめの検討」と呼びます。そして、構造設計者は形式上、この検討を行っています。通常は100mmのずれを設定します。
【施工偏心による杭への影響】
杭が施工偏心すると杭に対し、以下の影響があります。
① 杭に作用する鉛直方向の荷重が増え、杭支持力が不足する恐れがある。
② 杭の施工偏心により、地中梁への付加応力が発生し、地中梁の強度が不足する恐れがある。
③ 杭に作用する軸力が小さくなることで地震時における杭体の強度が不足する恐れがある。
杭に作用する軸力は大きくなっても、小さくなっても問題が発生するのです。
【杭偏心による軸力の変動】
杭が偏心することによる軸力の変動を説明します。
・X1通りの杭が右側に偏心するとX1通りの杭軸力が増えます。その分、X2通りの杭軸力が減ります。
・X2通りの杭が右側に偏心するとX2通りの杭軸力が減ります。その分、X3通りの杭軸力が増えます。
・直交方向フレームの杭偏心の影響でも杭軸力は変動します。
このように考えると偏心の組み合わせは無数になり、全て検討を行うことは出来ません。
【杭施工偏心に対する実際の対応】
実際はあるパターンを想定して検討を行っているのみです。そして、施工偏心の実測値にて再検討を行います。
打設した杭を補強することは出来ません。よって、ある程度の余裕を持っておくことで施工偏心に対する対応をします。感覚的なものですが。
しかし、100mmを超えない施工偏心で構造計算上、NGとなってしまったら、その責任は誰がとるのでしょうか。
杭の許容値を100mmと図面に記載した場合は構造設計者の責任でしょう。しかし、上記のように全てのパターンは検討出来ないので構造設計者の
責任と言われても厳しい部分があります。
図面に杭施工偏心の許容値の記載がなく、確認もせず、施工して、NGとなった場合は施工者の責任もあるでしょう。どちらにしても厳しい話です。
建築基準法で杭施工偏心の許容値を設定してもらいたいものです。
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