南方熊楠、鼠の婚礼に参列する事(小説・十二支考①)
「大正十一年出板、永尾竜造君の『支那民俗誌』上に一月七日支那人が鼠の嫁入りを祝う事を載す。直隷の呉県では鼠娶婦。山東の臨邑県では鼠忌という。江南の懐寧県では、豆、粟、粳米等を炒って室隅に擲って鼠に食わしめ、炒雑虫(虫焼き)といい、この晩は鼠の事を一切口外せず、直隷永平府地方では、この夜鼠が集って宴会するから燈火を付けて邪魔しては年中祟らるといい、直隷の元氏県より陜西の高州辺へ掛けては、婦女鼠の妨げをせぬよう皆家を空しゅうして門の方に出づ。家にいて邪魔をすると仇討ちに衣類を噛ら